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2018.06.06

特別対談「ダイバーシティ経営への取り組み」

企業理念を軸に多様性が生み出すイノベーション

業界に先駆けて、従業員のワーク・ライフ・バランス推進に取り組み、ダイバーシティ経営を長期ビジョンに掲げるパシフィックコンサルタンツ。 その取り組みを振り返るとともに、これからの課題を、中央大学大学院教授・佐藤博樹氏と社長・高木茂知が語り合った。

「男性・土木系社員」だけで新しい価値を創造できるのか

高木 もともと弊社は、高速道路や新幹線建設など公共事業におけるインフラ整備を担ってきた会社で、人材構成も男性、大学院卒、土木出身が多く、限られた納期で高い品質の仕事を達成するためには長時間労働も当たり前という風土がありました。これは当時の業界に共通するものでした。
しかし、そのままでよいとはけっして考えていませんでした。従業員の健康を守るために、長時間労働の改善に取り組み、さらにワーク・ライフ・バランス(WLB)についても関心を持つようになったのが、2009年のことです。幸い、2010年には東京都から「働き方の改革『東京モデル』事業」に選定され、都の助成を受けながら働き方改革やWLB推進のための基盤を作ることができました。
こうした取り組みは、今も継続しています。特に近年は、今後の事業展開や発展を見据えたとき、多様な人材を受け入れ、多様な専門性や価値観、意見を受け入れていく必要があると考えるようになりました。
それは、インフラ整備事業を展開するうえで、これまでのように男性の土木技術者の視点だけでいいのか。多様な価値観や感性をもつ人々が参加し、新たな価値提供をしていかないと地域に受け入れてもらえないのではないのか、という危機意識があったからです。
ダイバーシティ経営は弊社の「長期ビジョン2030」の2つの柱のうちの1つであり、「社会に革新的な価値を提供」するための基盤と位置づけています。その実現に向けて、2013年にダイバーシティ推進室を設置、2015年には「ダイバーシティ&インクルージョン推進方針」を定めました。現在は各部署内にワーキンググループを設置し、その推進に積極的に取り組んでいるところです。

佐藤 私が勤務する中央大学大学院戦略経営研究科では「ワーク・ライフ・バランス&多様化推進・研究プロジェクト」の活動がすでに9年目を迎えました。WLB推進やダイバーシティ経営と働き方の関係などについて、複数の大学・研究機関、さらにパシフィックコンサルタンツを含む民間企業31社と共同研究を進めています。いま企業が抱える課題を研究者と議論し、エビデンスを積み上げながら、課題解決のための提言を行うというところに特徴があります。
単なる長時間労働の解消というだけでなく、仕事と介護の両立問題、女性の両立支援から活用支援、転勤政策の再検討など、世の中が関心を持つ前の早い段階から情報発信を行ってきました。課題を先取りできたという意味でも、研究プロジェクトの成果は確実に上がっています。

ワーク・ライフ・バランスとダイバーシティの関係

高木 研究会の名称にWLBとダイバーシティの2つが入っているわけですね。社内でもWLB推進は目的が分かりやすいし、必要性が腹落ちされています。しかし、ダイバーシティについては多様な人材が能力を発揮し、活躍できるようにといっても、今ひとつ具体的な行動イメージが沸かないことが多いように感じます。

佐藤 これまでの日本企業では、フルタイムで働き、残業も厭わない、そういう働き方しか選択できませんでした。しかし、社員は常にそういう働き方ができるわけではありません。子供ができたらどうするのか。親が倒れたらどうするのか。たとえ「フルタイム+残業」という働き方ができない人でも、能力さえあれば積極的に企業の一員として認め、その能力を引き出していこうというのが、WLBの基本的な考え方です。
さらにWLBは働き方を変えるものでなければなりません。最近はどうしても残業削減にだけ注目が集まりがちですが、残業のない職場ならば働き方改革をしなくしてもよいということではない。働き方改革の本質は、一人ひとりが時間を有効に活用するということ。時間意識の高い働き方があってこその残業削減なので、その順番を逆にしてはだめだと思います。
こうしたWLBを企業の中に定着させるためには、ダイバーシティについての理解が欠かせません。企業が必要とする人材であれば、性別、国籍、価値観を問わず、企業経営に生かしていく。つまり一人ひとりの違いを認めるということ。そういう意味では、ダイバーシティという広い考え方の中にWLBも含まれるということになります。

高木 経営者としては、WLBによる勤務時間の効率的活用はもちろんですが、仕事を終えた後の「ライフ」の時間も大切にして欲しいという思いがあります。会社にだけ閉じこもるのではなく、積極的に地域社会のイベントや家事・育児などに参加することで、いま社会が何を求めていて、どんなニーズがあって、どこでどんな技術開発が行われているのかに関心を持って欲しい。そうでなければ社会プロデューサーとしてのコンサルティングの仕事は務まりませんからね。

佐藤 WLBを推進しようとすると、「私は仕事が好きだから今の仕事の仕方で十分だ。なんで早く帰る必要があるんだ」と言い出す人が3割ぐらいは必ず出てきます。早く帰れといわれて、最初の頃はみんな飲み屋に行ってしまった(笑)。しかし、そのうち居酒屋も飽きて、少しずつ自己啓発、自己投資に取り組むようになった。ある大手証券会社の経営者が話していましたが、WLBを進めていくうちに、社員がそれぞれ自己啓発に取り組むようになり、今ではその会社は業界で必要な資格の保有率がナンバーワンになったそうです。
私は社会人向けのビジネススクールで教えていますが、学生の中には大学院に通っていることを上司に告げていない人が2~3割います。いま大学院で勉強することは、いずれは会社の業務にも役立つはず。しかし、上司はいい顔をしないのではないかと心配するんですね。しかし、そういう社員を誉めてあげる、それが会社にとってプラスになるという考え方の転換が必要です。
仕事ができるのはもちろん当たり前。ただそれだけでなく、仕事を取った残りの部分も重要。そこでも力を発揮できる人が望ましい人材だというメッセージを会社が発しなければならないのです。

ダイバーシティでは多様性とともに社員を結合する企業理念が重要

高木 弊社はコンサルティング会社なので、一人ひとりが自立して仕事を進めるのが当たり前。言葉を換えれば「一人親方的」なスタイルで進める仕事が多かったんですね。しかし、これからは関連する技術領域も広がり、さまざまな職能の人とコラボレーションしなければならない時代です。多様性への共感が必要とされるゆえんです。

佐藤 ダイバーシティ経営とは一人ひとりの違いを認めるということ。ただ、それだけだと会社がバラバラになってしまう怖れがあります。ダイバーシティ経営の推進にあたって、同時に求められるのは社員を統合する仕組みです。そこで重要になるのが企業理念。たとえ時代環境が変わっても、事業形態が変わっても、永遠に変わらないもの。何のために自分たちは企業活動を行うのかという、基本的な考え方です。
こうした理念がしっかりしていれば、事業の選択やビジネス手法の選択に迷ったとき、会社の経営理念に照らしてどれが正しいのかを考えることができます。結果的にそれが社員の統合意識を強めることになります。

高木 私も最近は支社などを回るときに、経営理念については口を酸っぱくして話すようにしています。ところで、先生の研究会は約10年の歴史がありますが、発足当初に比べて、企業の意識はどう変わりましたか。

佐藤 最初の頃は女性の両立支援が中心。しかも、どうしたら制度を活用できるかという話が多かったですね。それが次第に、女性だけでなく男性も含めた取り組みに変わってきました。最近は人事制度の見直しにつながる議論も多いです。例えば、転勤問題。これまでは転勤の辞令に黙々と従う社員を前提にしていた制度ですが、社員が多様になればそうもいかない。社員の事情を勘案した調整型の人事制度に変わらざるをえません。
一例を挙げれば商社の海外勤務。これまでは30代前半に一度は海外勤務を経験させるというのが通例でした。30代前半というと、男性ならいいが、女性だと結婚・子育ての時期とかぶります。そういう可能性のある社員は、時期を早めて、20代で海外勤務を経験させるというように、社員のライフスタイルに合わせた個別的な人事管理へ転換しつつある企業もあります。女性社員の夫が海外勤務になったときにどうするか、という問題もありますね。夫の在外勤務の時期だけ休職を認めるという会社も出てきましたが、こうした問題は一つの会社だけではなかなか解決しないものです。

「どうせウチは無理」「この業界は無理」という思い込みを払拭する

高木 弊社は、2016年、経産省の「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選ばれました。どんな点が評価されたのでしょう。

佐藤 取り組みが他社に比べても早かったこと。風土改革を継続していること。経営トップが改革に積極的にコミットしていること。さらに、自社だけにとどまらず、業界への働きかけも評価されたのだと思います。
「トップがWLBとか言い出しているけれど、どうせ社長が替わったら元に戻るんじゃないか」と社員が疑心暗鬼のうちは、取り組みはけっして浸透しません。また、「この業界は構造的に無理だな」と思っている間もだめですね。かつて「人月商売」「3K労働」と言われたシステムインテグレーターの業界でも、「人月単価」を止め、ビジネスモデルを転換することで、WLBを実現する一方、利益率向上を達成した企業があります。「ウチは特殊だから、できない」という思い込みをまず取り払うことが大切ですね。

高木 弊社でもかつては「残業は永遠の課題」と言われていたものですが、そんなことを言っている間は、問題は解決しなかったですからね。現場と経営が共に一歩ずつ改善の歩みを続ける。さらにそれを業界に広げる。そういう積み重ねがありました。最近は建設コンサルタント業界が、一斉に「ノー残業デー」を実施するなど、残業規制への取り組みは業界全体に広がっています。

佐藤 働き方改革と風土改革は密接につながっているものです。一朝一夕にできるものではない。少なくとも5年、10年はかかると覚悟すべきです。

高木 最後にあらためてお聞きしますが、経営の重要課題にWLBやダイバーシティを取り込み、それを実現するために必要なことは何でしょうか。

佐藤 経営理念にきちっと位置づけること、そして何より取り組みを継続することでしょうね。取り組みに当たってはマネジメント層の参画と、人材マネジメント手法の改革が伴わないといけないと思います。
ダイバーシティ施策で会社が多様な人材を抱えるようになった、というだけで取り組みは終わりではないのです。多様な人材を活かすためには、マネジメントの発想転換が欠かせない。人材が変わったのに、従来と同じマネジメント手法のままでは、せっかくの多様性を活かしきることができない。このあたりの鍵を握るのは、部長職以上の管理職の意識です。課長職に向けたダイバーシティ研修をすると、必ず出てくるのが「部長研修のほうが先じゃないでしょうか」という声(笑)。上が変わらないと自分たちも変えられないというんです。

高木 たしかに部長職は組織の結果責任を担っていますから、なかなか難しい。しかしこうした壁は時間をかけて乗り越えていくしかないですね。WLBを実現するためには従来型の男性フルタイム正社員を想定した「一律的な働き方」を見直し、多様な社員ニーズに即した「多様な働き方」の開発が必要ということですね。さらに、働き方の改革を通した新しい職場づくりも求められている。今日、先生とお話をすることで、WLBとダイバーシティの関係や、これから進むべき方向性について、私もすっきり腹に落ちた気がします。ありがとうございました。

佐藤博樹氏(左)
さとう ひろき ○中央大学大学院経営戦略研究科(ビジネススクール)教授。2014年10月より現職、2015年東京大学名誉教授。内閣府 男女共同参画会議議員、内閣府 ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議委員、経産省 新・ダイバーシティ企業100選運営委員会委員長、民間企業との共同研究であるワーク・ライフ・バランス&多様性推進・研究プロジェクト代表など。

高木茂知(右)
たかき しげのり ○パシフィックコンサルタンツ 代表取締役社長

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