事業紹介渋谷駅建設プロジェクト[東京都]

構造物が輻輳する大都心の地下に巨大空間を拓く

2008年6月、池袋~渋谷間を結ぶ東京メトロ副都心線が開業した。この東京メトロ副都心線は、池袋、新宿、渋谷という三大副都心をつなぐ路線であり、2012年度には東急東横線との相互直通運転が実現し、東京メトロ副都心線と東急東横線に加えて、東武東上線、西武池袋線・有楽町線、みなとみらい線との相互直通運転も行われている。これによって、東京都北西部および埼玉県南西部から池袋・新宿・渋谷の三大副都心を経由して神奈川県横浜方面に到る、広域鉄道ネットワークが形成された。
東京メトロ副都心線の建設事業は、近年まれにみる難条件の下で行われたビッグ・プロジェクトであり、平成20年度の土木学会技術賞を受賞している。弊社は、この事業の中で渋谷駅の設計を担当し、プロジェクトの推進に一役を買っている。
鉄道部が設計を担当した渋谷駅は、その予定地に多くの地下埋設物や東京メトロの半蔵門線、銀座線が輻輳していた。さらに、交通量の多い明治通りの下にあたり、そこに延長約530m、最大幅約46m、平均深度約30mの巨大地下空間を形成して、渋谷駅というターミナル駅を建設するものであった。

プロジェクト着手当時の思いと決意

弊社には、JOBマスターという制度がある。プロジェクトごとに任命される主担当技術者のことであり、設計方針の策定から品質、工程、原価などを一手に管理する役割を担っている。
弊社が設計を担当した渋谷駅は巨大な駅であったため、設計・施工の監理が、駅中心を境界として、東京メトロ側と東急電鉄側に分けられていた。また、工事規模に対する設計工期が短く、迅速な対応が必要であるとされたため、二人の技術者がそれぞれのJOBマスターに任命されることになった。すなわち、東京メトロ側のJOBマスターに鈴木が、東急電鉄側のJOBマスターに清水があたることとなったのである。
渋谷駅建設プロジェクトを振り返って、二人のJOBマスターは、当時の思い出をそれぞれ次のように語っている。
「プロジェクトの開始直後、発注者の幹部に呼ばれました。そこで、渋谷駅は建設工事の遅れが懸念されているので、鉄道部の豊富な経験と技術力を結集して臨むようにとの厳命を受けたのです。大変なプロジェクトが始まったなと感じ、身の引き締まる思いがしました」(清水)
「施工済みの構造物や地下埋設物の図面を見たとき、驚きました。大きな埋設物が輻輳しているのです。銀座線を支える仮受け杭や、路面覆工を支える中間杭なども林立していて、まったく隙間がないという印象を受けました。土留壁を抑える切梁をどこに設置しようか。地下駅の柱や桁をどこに設置すべきか。次から次へと疑問が湧いてきました。当初は不安で一杯でしたが、でも、やり甲斐は大いにありそうだと自分を励ましました」(鈴木)

半蔵門線と銀座線を支えろ!

半蔵門線の受替状況
半蔵門線の受替状況

渋谷駅建設プロジェクトの、最初の課題は、銀座線下の掘削であった。
そこは隙間がほとんどない状況で、土留壁を抑える支保工を設置しなければならなかった。また、当時すでにその土留壁の施工が着手されており、大幅な変更もできない状況にあった。そのため、とにかく支保工の配置を工夫することで、土留壁の応力や変形を許容値内に収める必要があった。
「既設杭の配置図とにらめっこの毎日でした。トライアル計算を何十回やったか、定かには覚えていません」(鈴木)
試行錯誤の末、最終的に鈴木が達した結論は、民地内に入らないように、平面的に角度を持たせたグラウンドアンカーを採用すること、そして既設杭のわずかな間隙を縫って、火打ち付きの切梁を配置することであった。

「正直に言えば、施工性が悪く、施工者が苦労することは分かっていました。しかし、構造を成立させ、事業を推進することが命題であると、心を鬼にして決断しました」(鈴木)
次の課題は、輻輳している地下埋設物を避けて打設されている銀座線の仮受け杭と、地下駅の柱や縦桁が支障していることであった。
これに対して、軌道線形や駅の位置を変更することは不可能であった。また、地下駅の柱や縦桁の位置を、何とか仮受け杭からはずそうと試みたが、これも困難であった。なぜなら、柱や縦桁の位置を細かく動かすと、完成後の見た目が悪くなるばかりではなく、旅客の流動をも阻害してしまうことが分かったからである。このため、思い切って完成時の使い勝手を優先することにした。柱や縦桁の位置を決め、仮受け杭が支障をきたしている箇所については、補強を行う方針としたのである。まず基本的には、欠損している鉄筋を増やして配置することによって補強することとした。そして、補強さえも困難な箇所については縦桁構築時の補強は諦め、地下駅の上床版で銀座線を受け替えた後、機械式継手を用いた後施工によって鉄筋をつなぐことにしたのである。
「本当にしびれる検討でした。まさに綱渡りの状態といえるでしょう」(鈴木)
三つめの大きな課題は、半蔵門線の受替えであった。渋谷駅の建設深度は、駅前後の地下埋設物の状況から、あらかじめ決定されていた。ところが、半蔵門線下の空間が小さいため、軌道階と通路階の2層を設けることが困難であった。しかし、当該部の通路は副都心線と半蔵門線との乗り換えに際して重要であり、完成後の利便性から考えても絶対に必要な通路であった。
「通常、半蔵門線のような開削トンネルの受替えでは、既設構造物の下に受替え版や受替え桁を配置するのが一般的です。しかし、今回はそのスペースが確保できない状況にありました。そのため、半蔵門線の軌道階の柱と桁を補強して壁構造とすることで、半蔵門線自体を強固にするとともに、半蔵門線の下床版を副都心線の柱で直接支える構造とすることを提案したのです。このような受替え構造は、類例のない特殊なものでした。それでも、補強方法や施工手順について、発注者と連日のように協議を行い、何とか施工に間に合わせることができました」(鈴木)
渋谷駅の躯体が完成するまでの期間、夏場の集中豪雨や台風、地震などが発生するたびに、「渋谷は大丈夫か」と、不安に苛まれる日々を送った。躯体が無事完成した時、付帯設計等も含めて、足掛け4年強の設計期間を費やしてきた鈴木の感慨は、ひとしおであった。

巨大開口を開けろ!

立体解析モデルの鳥瞰図
立体解析モデルの鳥瞰図

渋谷駅建設プロジェクトの詳細な検討がほぼ終了していた2005年の初頭、地下駅の側壁と中床版に巨大な開口を開けたい、とのオーダーがあった。これらの開口は、次の二つのことが目的であった。一つは、地下駅を通常の強制換気ではなく自然換気とすることでCO2の排出量を削減すること、もう一つは、隣接する民間ビルへの大きな接続出入口を設けることであった。側壁の開口は、水平方向約40m×鉛直方向約15mの矩形であり、中床版は、長径約20m×短径約10mの楕円形であった。過去にあまり例のない巨大な開口である。
「通常、地下駅の左右に作用する土水圧は、バランスがとれています。側壁に大きな開口を設けると、そのバランスが崩れて傾くことになります。そこで、傾きを抑えるためにがっちりと補強をかけたいのですが、そこにはまた、意匠上の理由から楕円開口を設けて欲しいというオーダーもあったのです。しかも、話があった時点では、現場は土留壁を築造しており、すでに掘削を開始していました。そのため、部材厚の大きな変更はできません。まったく、どうすればいいのかと頭を抱えてしまいました」(清水)
開口を開けることに関して、連日のように対策会議を行った。そして、さまざまな議論を経て達した結論は、三次元の立体解析を行って、アンバランスになっている土水圧を、開口がない箇所へ逃がそうとするものであった。
「昼間に発注者や施工者との協議を実施して、夜に打合せ結果を反映した検討案を作成しました。翌日にはそれぞれの検討案をもちよって、より良い対策方法を模索することが連日続きました。時間的には大変厳しかったのですが、プロジェクトを成功させようとの想いが発注者、設計者、施工者で共有できていましたので充実感がありました。またこのような一体感が励みにもなりました」(清水)

完成、列車運行、「わぁ、すごい」との子供の声に感動

吹き抜けの楕円開口部
吹き抜けの楕円開口部

東京メトロ副都心線が開通した直後、渋谷駅は連日、見学する人々が一杯に押し寄せていた。今、鈴木や清水は渋谷駅建設プロジェクトを、次のように振り返っている。
「このプロジェクトを無事完成にまでこぎつけることができたのは、ひとえに発注者との信頼関係が構築できたことによるものです。我々の突飛な提案を積極的に採用していただけたことに加え、施工者も全面的に協力して下さったことが、完成に至った大きな理由です。この渋谷駅建設プロジェクトを通して、建設コンサルタントとして体験したことは、必ずや自分自身の大きな糧になることでしょう。開削・改良工事なら、もう怖いものはないという自信にもつながりました」(鈴木)
「ある日、渋谷駅のホームから上床版を見上げる親子の姿を見かけました。子供が母親に『わぁ、すごい。どうやって造ったの?』って、聞いているんですよ。私は思わず、『それはね…』って説明したい衝動にかられました」(清水)
「渋谷駅建設プロジェクトの成功の鍵は、発注者、設計者、施工者が一体になろうという意識が三者に共通していたことだと思います。遅滞なく事業を推進させようという意識が、ものすごく高かったですね。また、設計と現場のコミュニケーションも円滑であり、良好でした。そのため、設計の意図が正確に理解してもらうことができ、手待ち、手戻りが生じなかったことも、成功の鍵の一つでした」と、管理技術者であった水上は、こう分析する。
東京メトロ副都心線に乗って渋谷を訪れる機会があれば、是非、鉄道部の奮闘の成果を目にしていただきたい。きっとそこで、土木技術者のパワーを感じていただけるはずである。

総合建設コンサルタントのパイオニアとして国内外で豊富な実績を持つ弊社が、
最新情報に基づき、発注ご担当者さまの疑問、ご質問に広くお答えいたします。

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