事業紹介エチカ表参道モデルステーション計画[東京都]

地下鉄コンコースにパリの街を

「駅ナカブーム」を巻き起こした、東京メトロと弊社による「エチカ表参道」。
地下鉄の運行を止めることなく工事を進め、「駅」の「地下」に店舗を設置するのは、かなり難しかったようだ。
女性客のライフスタイルを変えたとさえいわれているこのプロジェクトの成功の要因に迫った。

地下鉄駅構内に出現したパリの市場(マルシェ)

エスカレーターからホーム
エスカレーターからホーム

地下鉄を降り、ホームからエスカレーターを上がると、すぐさま温かみのある白熱色の照明に変わる。天井高は低いが、シーリングの間接照明が効果的に施され、実際以上の広さを感じさせる。床には石畳風のタイルが敷かれ、乳白色のガラスの柱はファッション系のポスターで彩られている。
デリ(総菜)やジュースバー、化粧品やファッション雑貨などのショップは、ちょっと立ち止まって品定めしている女性客であふれている。これが駅ビルやデパートなら珍しくはない光景だが、ここはまだ地下鉄の改札の中だ。

改札を出て、表参道方向の通路には飲食ゾーンが展開されている。古き良きパリの雰囲気を一層色濃く漂わせるフードコート「マルシェ・ドゥ・メトロ」は、閉店まで軽い食事とおしゃべりを楽しむ人々でにぎわう。一方、反対側の根津美術館側へ向かう通路は美のゾーン。ヘアサロンやネイルサロンなど、青山らしい美容関係のサービスが並ぶ。
表参道駅構内の約1,300㎡のスペースに、20~40代女性に照準を合わせた26店舗が集まる商業施設「エチカ表参道」。表参道の乗降客1日約14万人弱のうち約1万人に利用されているという。初年度の年間売り上げは、当初の予想以上の30億円を超えた。
エチカ表参道は地下鉄構内という限定された条件の中で、鉄道施設と魅力的な商空間を融合させることに成功した日本初の事例となり、日本のみならず世界の鉄道関係者にも広く注目されることになった。

調査と設計の並行作業

エチカ表参道の誕生は、東京メトロの民営化第一弾の目玉事業として構想された「表参道駅モデルステーション計画」に端を発する。
「この仕事は、我々パシフィックコンサルタンツにとっても地下構造物の設計監理という得意分野に加え、女性をターゲットとした商業施設のプランニングという新しいジャンルにおける大きな実績となりました」と、3年近くにおよんだプロジェクトを振り返るのは、企画提案から設計、工事監理まで担当した弊社の岸。
岸は2003年、当時の営団地下鉄から表参道駅のモデルステーション計画のコンペに声をかけられた。以前、営団地下鉄の本郷三丁目駅でコンビニとカフェを併設した駅の前面改装工事設計を実現させており、その実績が買われてのプロポーザルだった。

エチカ表参道

企画のテーマは2つ。鉄道事業施設としての新しい駅のあり方と、余剰スペースの事業化だ。
パートナーの商業コンサルタントとともに、岸が導き出したコンセプトは「Breeze of Omotesando」。表参道駅から地上に出れば原宿シャンゼリゼ商店街。パリのシャンゼリゼ通りにたとえられる美しい並木道のブランドストリートである。その雰囲気を引き込み、街との一体感を地下空間にもたらそうという提案であった。 結果、大手広告代理店や設計デザイン会社らのコンペティターを押さえて、弊社が事業のパートナーに選ばれ、“表参道駅パリ化計画”が始まった。

「地下鉄の街」と「地上の街」をつなげるというコンセプト

「設計にあたって、まず旅客流動調査やグループインタビューを行いました。しかしインタビューでは『駅が古い』『暗い』『天井が低い』というような現状の施設への不満までは聞けても、その先は出てこない。今まで誰も地下鉄駅に商業施設ができると思っていなかったからでしょう」(岸)
実際、表参道駅の改装は困難さを伴うものだった。
表参道駅は、銀座線という地下鉄最古の路線を持ち、その上に半蔵門線、千代田線と増設・拡張してきたため、地下構造物として極めて複雑なものとなっていた。しかも古い図面は部分的にしか残存していない。目に見えない部分の建築設備の状況を手探りで、断片的な資料から推理しながら、実際に実態調査によりチェックし、設計するという方法をとることになった。
「この点においては、構造物の調査と設計の両方を、自社内で実施できる弊社ならではのアドバンテージがあった」と岸。交通技術本部から地下構造物のプロである鈴木が加わり、現状施設の健全度調査や防災検証、バリアフリー化計画なども並行しながら、新しい駅の設計を進めることができた。

制限が生んだ工夫とユニークなデザイン

エチカ外観1

地下鉄駅付帯施設ならではの終電から始発までの工事可能時間の短さや、水道・換気・冷暖房などの配置上の制約も、岸や鈴木を悩ませた。
時間的な制約については、工事のユニット化や乾式工法の採用、工事切替順序図作成など、工事施工の合理化を極力図ることで対処。計画通りのオープン日を守ることができた。
また一見バラバラだった余剰スペースは、5つのエリアに分けて「飲食」「美容」「物販」等々、目的別にゾーニングすることで、回遊性をもたせたユニークな商業ゾーンに変身させた。

エチカ外観2

岸が特に内装面でこだわったのは、古い地下鉄駅特有の狭隘感を払拭することだった。
「暗くて寒々しいとのイメージを一新するために、光天井や光壁による照明演出によって、従来の数値による照度だけでなく“明るさ感”を上げる工夫をしました。構造上減らせない太い柱もトランスルーセントをコンセプトに、ガラスを多用した透ける柱に変えました」
天井では、オレンジやブルーのアクセントカラーで雑踏の中で進むべき方向を見失った乗客のために、建築化されたサインで導線を示そうと試みたものだ。

商空間のコンセプトからリーシングまで

エチカ外観3

東京メトロ主導で進めたテナントのリーシングにおいては、地上との一体感を重視した。それは「街に足りないものを補完する業態をそろえる」ということだ。
表参道には百貨店がないので、化粧品やファッション雑貨を扱うショップや時間のない人のためのクイックヘアスタイリング、おしゃれなファストフードなど、女性が1人でも気軽に利用したくなる個性的なテナントにこだわった。
表参道の周りには高級店が多いので、リッチな気分や本格的なサービスを望むならそちらを利用してもらえばいい。エチカでは「1人」「クイック」「気軽」という潜在的なニーズにこたえるという狙いもあった。
場所柄、出展を希望する企業は400社にも上ったが、東京メトロはこのようなエチカの特性を考慮し、テナント26店は慎重に絞り込んだ。

「駅の事業化」に世界の交通関係者が熱い視線

少子高齢化を迎え、従来のように運賃による増収が見込めなくなっている時代、交通事業者は新規事業での収益拡大に知恵を絞っている。エチカ表参道の成功を聞きつけ、地方都市の地下鉄事業者が盛んに視察に訪れるほか、東京メトロはエチカ第2号を2008年度中に池袋でオープンすると発表した。
また韓国の地下鉄事業者も強い興味を示しており、直接弊社が打診を受けた。
韓国の“駅ナカ事業”は財閥1社によって行われて、動き出したら早いのではないでしょうか。交通インフラも、視点を変えれば商業展開ができる、私たちも社会が求めているサービスに対する“嗅覚”のようなものを磨いて、ハードとソフト両輪の提案力を、より高めていきたい」

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