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事業内容/実績宍道湖大橋拡幅・補強プロジェクト[島根県]

宍道湖大橋拡幅・補強プロジェクト[島根県]
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発注者 島根県土木部松江土木建築事務所(都市整備課)
業務期間 1997年(平成9年)10月~2002年(平成14年)7月(7月30日開通)

ミニマムメンテナンスで、ずっと愛される橋を

ミニマムメンテナンスで、ずっと愛される橋を

小泉八雲が愛した美しい景観の宍道湖に架かる宍道湖大橋。「人にやさしい橋」のコンセプト通り、この橋には渡る人への思いやりが込められています。そして、もうひとつのキーワードは「ライフサイクルコスト」。当時、全国的にもまだ殆ど例がなかった既設橋の大規模補強により、将来の維持管理負担の最小化と橋の長寿命化等、ライフサイクルコスト縮減を実現するミニマムメンテナンス橋が誕生しました。

事業概要

本プロジェクトは、袖師大手前線拡幅事業に伴う宍道湖大橋の拡幅新設および既設補強設計業務であり、車両大型化および耐震性向上を図りました。新設橋は5径間連続非合成鋼箱桁橋とし、既設橋はPC床版・ゴム支承への取り替え、主桁および橋台・橋脚の補強を施しました。また、「景観に調和する、人にやさしい橋」というテーマに沿って、周辺の地下道・公園設備を含めデザイナーとのコラボレーションによる修景設計を行いました。「島根県環境デザイン検討委員会」による専門家の立場からの提言に加え、設計案の情報公開、県民参加による意見交換を通じて住民のアイデアを設計に反映しています。
その他の構造上の特徴としては、宍道湖が汽水湖(※1)であることから塩害に配慮し、フッ素塗装を施し、耐久性に配慮しました。
デザイン上の特長としては、歩道が広いこと、そして途中で湖をゆっくり眺められるバルコニーがついていること、さらに高欄の手すりが地場産業の木製であることなど、歩いて渡る人にとっての快適さが挙げられます。また、車いすでも利用しやすいように、手すりを上下2段としました。さらに、北詰の地下ボックスを全面改修したことで、夜間でも安心して通れるようになったことも大きなポイントです。住民参加型を前提とした景観グレードアップ委員会と景観自然課の取り組みを、こうしたアイデアにより結実させました。

※1 気水湖:海水と淡水の混合した水からなる湖

環境デザイングレードアップ事業の一番手に

環境デザイングレードアップ事業の一番手に

島根県庁および松江市役所周辺、特に宍道湖大橋北詰は、かねてより激化する交通渋滞に対する有効な対策が望まれていました。既設橋が架けられた30年前に比べ交通量は増え、貨物車両も大型化しています。また、さらなるニーズについて設計を担当した藤井さんはこう語ります。
「実は、湖岸の改修計画によって人の流れを湖畔に向けたいという県や市の担当者の想いがありました。橋のデザイン上の特徴として、公園計画など橋梁の周辺まで含めて設計したことが挙げられるのですが、人が集う場所というイメージを活かし、この橋には散策やジョギングのルートという役割も加わりました」
そもそも、このプロジェクトは昭和63年度の都市計画決定(当時の松江市発注)の段階からパシフィックコンサルタンツが検討しており、平成7年度の予備設計より平成11年度の既設補強詳細設計まで受注しています。島根県の「環境デザイングレードアップ事業」の先駆けとして位置づけられたこの計画と藤井さんとの間には、不思議な縁があったそうです。
「昭和63年に新入社員で入った私が、たまたま企画案の一般図を描いたのです。以後そのことは忘れていたのですが、平成7年に都市計画決定の変更で道路の幅員が変わり、改めてこの橋とのつき合いが始まりました。その後、詳細設計に入る際に環境デザイングレードアップ事業が立ち上がり、松江の町中で最も重要な橋に当たる宍道湖大橋が最初の対象事業となりました。都市計画決定の早い段階から業務に携わり、橋梁の詳細設計に至るまでこの橋に係れたことは最高にラッキーだったと思います」

手を加えることで永く使い続けるという新たな思想

本プロジェクトの意義としては大きく次の四つが挙げられます。

  1. 市街中心地での慢性的渋滞対策
  2. 変化する外部環境に対応した耐震性・耐荷力の向上
  3. LCC(ライフサイクルコスト)の理念に基づく既設橋梁の全面リニューアル
  4. 橋梁を中心とした周辺環境整備と 宍道湖畔の新しい景観の創造

当時担当した藤井に話を聞いた。「この橋で最も特徴的なのは、既設橋を大規模に全面リニューアルできた点です。古い橋の隣にぴたりと接して新しい橋が造られたことで、新設橋が仮橋といった形になり、施工中もサービスを落とさずに既設橋を完全に供用停止できるというメリットがありました。
また、従来構造物の供用年数は50~60年といわれていたのですが、この頃から最小限に手を加えながら100年、200年保たせるという発想になり、これがミニマムメンテナンスという考え方でした。本案件は、ライフサイクルコストの理念と共に『ミニマムメンテナンス橋』という考えに沿った設計を目指しました。これだけ大規模な事例は当時殆どありませんでした。実は、ミニマムメンテナンスの発想以前にメンテナンスフリーという言葉がありましたが、手を加えなくていいという誤った考え方では構造物は長もちしないのです。逆に、最小限のメンテナンスを意識することでしっかり愛情を持って管理し、可能な限り長寿命化する。その意味で工学的永久橋ともいっています」

施工工程の危機、その打開策は・・・

施工工程の危機、その打開策は・・・

画期的事業には難しかった点や、苦労もありました。
「元々シンメトリーだった幅員構成が、拡幅することによって車道が片側に偏る荷重形態の違いということからも補強が必要でした。補強設計の中での技術論でいうと、合成PC床版の部分が一番苦労したところだと思います。また、デザイナーとはパートナーという立場で取り組みました。決まったデザインで設計を進めるのではなかった分、折衝に時間がかかりましたが、随分いい勉強になりました」
中でも最大の難関は、コンサルタントとして本領が試される調整面においてでした。
「実は新橋の着工前に、施工協議が難航し、工事工程に遅れが生じかねない状況に至ってしまったのです。そこで、海上保安庁を含む架橋地点の関係者との航路協議のマネジメントをすることになりました。試験航行を実施し、その結果から浚渫(※2)を行いました。これにより架橋地点を航行する木材曳航船・観光遊覧船が通りやすくなりました。試験航行は、一番長い木材曳航船を使って、定置網にひっかからないことを目の前で実演するというものでした。ところが、試験当日、波の高さが1.5メートルという通常曳航船が通らない強風になりました。『航行はちょっと無理ですね』と諦めかけたところ、船長さんが、『これぐらい大丈夫。やってやろう』と決行していただき、大成功を収めることができました。関係各位の目の前で実施したことにより、しっかりと理解を得ることができたと思います。正直言うと前夜は寝つけませんでした。これまでのどんな仕事の時にも感じたことのないプレッシャーでしたが、とても貴重な経験となりました。県の御担当者の熱意に後押しいただき、パートナーの責務を果たせたと思います」

※2 湖の底面を浚(さら)って土砂などを取り去ること

総合力を活かして成し得た本当のコンサルティング

弊社において本プロジェクトのもつ意義は次のようにまとめられます。

  1. 総合コンサルタントとしての総力の結集
  2. 中国、大阪、東京の本支社間の有効な連携
  3. 現場・地域との密接な協議と関係の構築
  4. デザイナーとコンサルタントの理想のコラボレーション
  5. 大規模メンテナンス

「本件において特筆すべきは、本当の総合コンサルティングができたということです。橋梁・道路・地下構造・地質・港湾・河川・施設・電気・都市計画・建築といった各セクションの力を結集し、さらに地域・部門の利益優先を越えた適材適所の人員配置と権限委譲があったからこそ完成にこぎつけることができました。例えば、試験航行の際には港湾グループ、軟弱地盤対策では地質グループといった大阪本社の技術陣が強力にバックアップしてくれました。東京本社においては地下道ボックスに関して構造部、公園の修景や電気設備に関しては施設部が全面的に支えて下さいました。そしてそれが実現できたのは貞升部長(当時)をはじめとした中国支社の技術・営業の方々の熱い力添えがあったからこそと思います。弊社ならではの成果と感謝しています」
現在社内においても注目される保全やリニューアル、維持管理という業務分野に相当するプロジェクトでもあるこの案件を、藤井さんは次のように振り返りました。
「世の中にライフサイクルコストという考え方が拡がり、ミニマムメンテナンス橋も概念としては理解されてきています。その理念に基づき大規模な形で実現した例が宍道湖大橋ではないでしょうか。そういった意味でも意義深いプロジェクトだと思います。宍道湖七珍と言われる"スズキ・モロゲエビ・ウナギ・アマサギ(ワカサギ)・シラウオ・コイ・シジミ"は、その頭文字から『スモウアシコシ』と覚えます。単なる拡幅・補修に終わるのではなく、福祉や環境を内在化したデザインと将来に渡る積極的なメンテナンス設計が、宍道湖大橋を、足腰の強い、地域住民の皆様に愛されつづける橋に生まれ変わらせた。そうあってほしいと願っています。今後こういった業務は増えていくと思いますが、その先鞭を付ける例になればと想います」

担当者より一言

藤井久矢

以前、朝日新聞の「声」欄で、老夫婦の方が「橋が新しくなったことで、いつもジョギングしているルートが整備され喜んでいます」という記事を目にしました。地域の生活に密着した橋になったという実感が湧き、とてもうれしかったです。

正式プロジェクト名 3.3.10袖師大手前線都市計画 外路事業
事業主体 島根県土木部松江土木建築事務所(都市整備課)
工期 1997年(平成9年)10月~2002年(平成14年)7月(7月30日開通)
所在地 島根県松江市灘町~末次町
事業規模 総事業費 約101億円(うち宍道湖大橋約53億円)、橋面積 約7,900m2)