2021

葛西カヌー・スラロームセンター整備事業
~計画・設計から施工支援・大会支援まで~

葛西カヌー・スラロームセンター整備事業~計画・設計から施工支援・大会支援まで~

「日本初」の人工のカヌー・スラロームコースに「世界初の試み」を

このコースで目指したもの
~世界的なスポーツ大会とレガシーとしての市民利用の両立~

カヌー・スラローム競技は250m程度の長さの急流に設置されたゲートに触れることなく通過し、そのタイムを競う競技です。
この日本初となる葛西の人工コースでは、世界のトップアスリートが実力を十分に出せるよう4.5mの高低差をポンプでくみ上げた12.0m3/s という大量の水が急流を再現しています。しかし、レガシーとして市民が使うには難易度が高すぎるため、

  • 1)複雑な水の流れをつくる障害物をレール固定式の可変式として難易度の調整が可能に、
  • 2)ゲートの設置位置が簡単に変更できるシステムを導入してさらに難易度の調整が可能、
  • 3)揚水ポンプの出力を変更することで流す水の量も調整できる、
  • 4)ラフティングなどの大きなボートにも対応できる幅を確保、
  • 5)レクレーション以外では、急流での救難訓練ができる工夫、

を行い多様な利用ができる施設としています。

難易度の高いプロジェクトを、丁寧な事例調査とスペシャリスト集団で、設計から大会運営サポートまで一貫して実施

国際カヌー連盟から提示された要求水準書を日本での基準や施工水準に置き換えて実現するために、英国(ロンドン、グラスゴー)、チェコ(プラハ)、イタリア(イブレア)、ポーランド(クラクフ)、ブラジル(リオデジャネイロ)の人工コースを訪れ、コースそのものだけでなく、計画・設計・コース認証時の課題や、ワールドカップの開催状況や通常時の使われ方についても丁寧に調査してきました。
設計時の課題は、「目標とする水質と浄化能力の設定」、「トップアスリートのパフォーマンスを引き出す水流計画」「計画する水流の確認方法」「国際カヌー連盟との合意形成のタイミングと方法」、「障害物やボートコンベアといった特殊な製品の海外調達」、「立地環境からの課題(湾岸部の塩害、埋め立て地での軟弱地盤、鉄道との近接施工など)」「スポーツ土木としての施工精度を発注段階でどのように担保するか」など様々な分野にわたりました。

こういった課題に対応するため、

  • 1)地盤、河川、構造、電気設備、機械設備、建築、開発、ランドスケープの技術者と、
  • 2)スポーツ施設に精通したランドスケープ分野出身のプロジェクトマネージャ―及び、国際プロジェクトに精通した技術者をサブマネージャーに据えて横断的な課題解決やディレクションを行い、
  • 3)社外のパートナー(カヌー・スラロームコースのスペシャリストである米国の専門コンサルタント、水理実験設備もあり自身もカヌーイストであるチェコ工科大学Dr.Pollert 研究室)を加えたメンバーでチームアップし、

設計、施工監理支援、障害物のチューニングや大会中の障害物の確認まで行ってきました。

世界初の試みと、次につながる仕事っぷり

この人工カヌー・スラロームコースを整備・利用するには、急流を人工的に再現しているため多大なコストがかかります。そのため要求水準書で示されていたトレーニングコース(一般的には高低差3.5m 程度)を平面コース(コース内に設置する水流ポンプを使う流れるプール)とする提案を行い、水流シミュレーションや模型実験を経て、世界初となる平面コースを実現することができました。

この平面化により、

  • 1)ポンプの小型化、
  • 2)コースを流れる水を確保しておく池の規模の縮小化、
  • 3)浄化設備の小型化、
  • 4)利用時の水量や電気量の削減、

といった効果があり、今後世界で人工コースが設置される際のお手本になると賞賛されています。

また、国際カヌー連盟によるコース認証の最には、限られた時間での認証を行うため「コース認証チェックシート&認証フォーマット」を作成するなどした、事前準備やコミュニケーションについても評価され、今後のコース認証でもこのフォーマットが使われることになりました。

プラス1

【カヌー・スラローム競技って?】

スイスで生まれたヨーロッパではメジャーな競技ですが、日本ではリオデジャネイロオリンピックで羽根田選手がアジア勢初のメダルを獲得したことにより、注目を浴びるようになった競技です。

  • 艇の種類は、カヤック(1 人乗り)とカナディアン(1 人乗りと2 人乗り)がある
  • 約300m の急流コ-スに設置された約25 のゲートをくぐり、ゴールまでのタイムとポイント数を競う
  • 赤いゲートは下流から上流に向かって、緑のゲートは上流から下流に向かって抜ける
  • ゲートに触れる(+2 秒)、ゲートを通り損ねる(+50 秒)とペナルティとしてタイムが加算される
  • 一定間隔おきに、順番に発艇し一人ひとりの見せ場がある

上記のタイムを競うスラロームだけでなく、フリースタイルやカヌーポロといった競技も注目されてきています。