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環境DNA解析により水を汲むだけで特定外来生物ウチダザリガニの分布拡大を把握

2019年07月24日

 この度、弊社社員 池田幸資氏、北海道大学 根岸淳二郎・准教授、兵庫県立大学 土居秀幸・准教授、NPO法人PEG 照井滋晴・研究員および弊社は、環境DNA解析により特定外来生物であるウチダザリガニが阿寒湖周辺に広域に分布していることを解明し、令和元年7月24日付で米科学誌(Freshwater Science)電子版に発表しましたので、お知らせ致します。

<研究成果のポイント>
 ・水を汲んでその中のDNAを分析するだけで、特定外来生物ウチダザリガニの生息の有無を把握することに成功。
 ・絶滅危惧種ニホンザリガニの生息場に、落差のある暗渠を乗り越えて、ウチダザリガニが広域に侵入していることを解明。
 ・今後の絶滅危惧種および外来種の分布モニタリング手法の進展を促進。


<論文発表の概要>

研究論文名: Estimating native and invasive crayfish distributions in relation to culvert barriers with environmental DNA(環境DNAを用いた暗渠による障壁に関わる在来および外来ザリガニの分布推定)
著者: 池田幸資(パシフィックコンサルタンツ株式会社、北海道大学)、土居秀幸(兵庫県立大学)、照井滋晴(NPO法人PEG)、加藤敦子(※)・三塚多佳志(※)、川井唯史(北海道立総合研究機構)、根岸淳二郎(北海道大学)
公表雑誌: Freshwater Science(河川生態学の専門誌)
公表日: 日本時間 7月25日(木)1時(現地時間 7月24日(水)12時)


<研究成果の概要>
(背景)
 ウチダザリガニは外来生物法により特定外来生物に指定される、生態系に強い影響力を持つ外来種で、在来種のニホンザリガニの生息を捕食や疫病によって強く脅かします。ウチダザリガニのニホンザリガニへの影響を抑えるためには、駆除等の対策を行うとともに、ウチダザリガニ、ニホンザリガニ両種のモニタリングが重要となります。一方、これらのザリガニ類は河川の石の下に隠れて生息しているため、その調査は困難であり、生息確認には多大な時間やコストがかかるのが課題です。河川などの水環境中には、水生生物のフンや表皮などに由来するDNA断片(環境DNA)が存在しています。パシフィックコンサルタンツ株式会社の池田幸資氏、北海道大学の根岸淳二郎准教授らの研究チームは、ニホンザリガニおよびウチダザリガニの種特異的プライマーを用いてDNA断片を増幅・定量できる「リアルタイムPCR(合成酵素連鎖反応)法」を利用した野外調査を行い、ニホンザリガニおよびウチダザリガニの生息地を、水中に溶存するニホンザリガニに特異的なDNAの有無で把握しました。

(研究手法)
 研究チームは、釧路市近郊でニホンザリガニおよびウチダザリガニの分布を調査しました。2016年に、河川上流域の暗渠により落差が形成されている箇所を含む横断工作物の上下流計44箇所で、沢水をそれぞれ1リットル採水し、ろ過して残ったフンや表皮、体の粘膜などに含まれる二種のザリガニのDNAの有無をリアルタイムPCR法で解析しました。同時に、既存の捕獲調査でもこれらの生息を確認しました。

(研究成果)
 ニホンザリガニおよびウチダザリガニが捕獲されたすべての箇所で、種特異的なDNAを検出したほか、捕獲されなかった箇所でも検出することができ、環境DNAがザリガニ類の有無を把握するための高い精度を持つことを示しました。捕獲調査であれば調査に数時間を要しますが、採水は数分で終了するので、従来よりも短時間で高い精度の調査ができるようになりました。また、外来種ウチダザリガニは、在来種ニホンザリガニの生息域である河川に広く侵入(21/22地区 95%)し、69cmの落差のある暗渠上流側にも広く生息(19/22地区 86%)していることが明らかになりました。

(今後への期待)
 本研究結果は、環境DNAを用いた調査が従来の調査手法に比べ、簡易にかつ確実に水生生物の有無を明らかにできることを示唆しており、水中に生息する絶滅危惧種や外来種のモニタリングへの応用が期待できます。