ここから本文になります。

現地で環境DNA分析が可能となるシステムを開発しました

2018年08月23日

 弊社は、株式会社ゴーフォトンと共同で、日本板硝子株式会社が開発した携行可能な小型PCR(polymerase chain reactionの略:DNAの特定の部位だけを増幅する方法)装置を利用して、現地で環境DNA(*)の分析が可能となるシステムの開発に成功しました。このシステムにより、現場で河川や湖沼の水を汲み、ろ過し、携行型PCRにセットして分析結果が出るまでの一連の作業が30分程度で行うことができます。
(*)環境DNAとは、生物から環境中に放出されたDNAの呼称。生物の皮膚、死骸、粘液などが環境DNAの供給源になる。

 従来の環境DNA分析は、現地で水を採取し、それを研究室に持ち帰ってから分析を行うため、場所やタイミングによっては検査まで1日以上経過することがありました。採取した環境DNAは時間の経過と共に分解が進み、分析可能なDNA量は、24時間以内に1/10以下になるという研究事例もあります。また、水温や微生物の活性等の条件によって分解速度も異なることから、検査結果の精度を高めるためには、できる限り早く採取した水の検査をすることが課題とされていました。今回のDNA分析システムの開発により、これまで分析までにかかっていた時間を画期的に減らすことができ、検査精度の向上にもつながると考えています。

<開発した新技術のポイント>
・ 河川や湖沼で汲んだ水に含まれるDNAを現場で分析し、水生生物の生息の有無を30分以内に把握するシステムの開発に成功。
・ 利根川の外来魚(ハクレン)を対象に、開発したシステムによる生息状況の把握性能を検証。
・ 今後、希少種や特定外来種の調査での利用に期待。  

<開発までの経緯>
 弊社と株式会社ゴーフォトン及び兵庫県立大学の土居秀幸准教授は、日本板硝子株式会社の協力のもと同社開発のモバイル リアルタイムPCR装置を利用して、現地で環境DNA分析を行うために必要な、ろ過の方法、DNA抽出の方法およびPCR試薬を検討し、現地で分析可能な「モバイル環境DNA分析システム」を開発しました。

<モバイル環境DNA分析システムの検証>
 2018年7月~8月、利根川に生息する中国原産の外来種ハクレンを対象に、開発した環境DNA分析システムの試験を行い、ハクレンの検出に成功しました。ハクレンは、これまで国土交通省が定期的に実施している河川水辺の国勢調査等により、利根川の河口から利根川大堰までの区間、利根川の派川である江戸川、霞ケ浦に生息していることが知られています。今回の試験では、利根川のハクレンの分布が知られている地点と、分布が確認されていない地点や支川で採水したサンプルを分析し、これまでの分布情報と概ね整合した結果が得られました。

 今後は、開発したモバイル環境DNA分析システムにより検出できる種を、カミツキガメなどの危険生物、ブラックバスやアメリカナマズ等の漁業被害をもたらす外来種、個体数が少なく生息状況を把握することが困難な絶滅危惧種の検出にも利用できるよう、開発を進めていく予定です。

 なお、本件については、第12回国際生態水工学会(12th International Symposium on Ecohydraulics、2018年8月19日~8月24日、東京開催)において、発表を行ないました。

以上