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「2017年度河川技術に関するシンポジウム」で「優秀発表者賞」を受賞しました

2017年08月25日

 弊社では、河川流速の力学的内外挿法(Dynamic Interpolation and EXtrapolation method,DIEX法)の開発と実用化に長年取り組んでおります。近年では、国土交通省による河川砂防技術研究開発公募・河川技術分野「洪水時の水理現象を把握するための水理解析及び観測の高度化に関する技術研究開発(B)観測」に採択されるとともに(研究テーマ:画像解析法と水理解析の連携による安全・安定的な河川水位・流量観測システムの確立と実用化、研究代表者:東京理科大学 二瓶泰雄 教授)、先駆的研究者や各種メーカーと協力しながら、リアルタイム河川流量モニタリングシステムの開発を進めております。
 これら研究開発成果の一部を、土木学会水工学委員会河川部会主催による2017年6月の『2017年度河川技術に関するシンポジウム』で発表し、「優秀発表者賞」を受賞しましたのでお知らせ致します。
  弊社ではコンサルティング業務や研究開発の成果を積極的に国内外の学会で発表しており、河川技術に関するシンポジウムでは昨年度に続いて2年連続の優秀発表者賞受賞(2016年度 国土保全事業本部 吉武央気 受賞)となっております。また、今回受賞した柏田は、2011年度の受賞に続いて2回目の栄誉となります。

名称 2017年度 河川技術に関するシンポジウム
論文集名 河川技術論文集 第23巻
開催日時 2017年6月15日 ~ 16日
受賞名 優秀発表者賞
論文名 非接触計測と水理解析による河川水位・流量観測システムの確立に向けた検討
A NEW MONITORING SYSTEM FOR RIVER WATER-LEVEL AND DISCHARGE USING NON-
CONTACT MEASUREMENT AND HYDRAULIC SIMULATIO
著者名 柏田仁(弊社国土保全事業本部)、二瓶泰雄(東京理科大学)、中西徹真(東海旅客鉄道株式会社
(元東京理科大学))、鈴木佑弥(東京理科大学)、平謙二(三菱電機エンジニアリング株式会社)、
上田英滋(三菱電機株式会社)、梶純也(弊社九州国土保全事業部)、藤田一郎(神戸大学)
キーワード water level, discharge, Image processing, STIV, DIEX method

1.従来までの河川水位・流量観測法と課題                           
<方法の概要>
 気候変動により頻発化・激甚化する水災害に対する防災・減災のためには、河川水位・流量を的確に把握することで、洪水氾濫危険度を評価し、適切な避難判断等の危機管理に繋げることが重要です。このため、河川管理者によって、河川水位は水位計を用いることで自動連続的に観測され、河川流量は出水時に短期集中的に観測されています(低水時は定期的に実施)。河川流量(=断面積×流速)を観測するためには、横断面内で変化する流速を複数地点で観測します(図1)。得られた流速観測値から流速分布を作成(内外挿)し、各区分の断面積と流速の積を足し合わせたものが流量となります(この流量算出方法は区分求積法と呼ばれます、図2)。
<課題>
水位観測の課題 近年多発する施設能力を上回る洪水時には、既設の接触式水位計(水中に設置する計測方式の水位計)が損壊・流失し、欠測する事例が見られます。これに対して、橋桁等に取り付ける方式の非接触水位計(電波式・超音波式)などが有力ですが、橋梁が冠水する規模の洪水には十分に対応できていません。
流量観測の課題 図1に示した通り、既往の流量観測では、人力での浮子測法が標準手法とされています。このため、観測所や周辺が冠水する洪水時には観測そのものが実施不可能となる事例が発生しています。また、高精度な流量観測データを得るためには、区分求積法(図2)では多くの地点における流速データが必要となりますが、それには多くの人員や時間が必要となります。そのため、特に、時間的な制約が大きい洪水時では、流速観測の地点数を十分確保できていないのが現状です。
 一方、流速観測も非接触型流速測定方法(画像解析、電波流速計など※2)が試みられています。これらの観測においては、横断面内の一部の流速データを内外挿し、横断面全体の流速データを高精度に推定する技術が有効となります。

 以上より、水位・流量観測ともに、接触型の手法だけでは、超過洪水時には必ずしも確実に観測可能ではなく、非接触で高精度に把握する技術が求められています。

図1 一般的な流量観測の模式図(洪水時,浮子観測)

図2 従来の流量算出方法(区分求積法)

2.本システムの特徴・優位性                                    
<特徴>
 従来の流量観測方法の課題を克服するために、本研究チームでは、河川に多数設置されているCCTVカメラのネットワーク・インフラに着目し、これまで個別に開発が進められてきた①高感度CCTVカメラ、②水位画像解析、③流速画像解析、④水理解析、の各技術を統合することで、非接触で安全・安定的に河川水位・流量をリアルタイムモニタリング可能なシステムを構築しました(図3)。

図3 本システムの模式図

 本システムでは、①自動制御された高感度CCTVカメラにより、水位解析用静止画・流速解析用動画を撮影し、②画像相関法による水際線検出(WDIC、Water-level Digital Image Correlation)、③STIV(Space-Time Image Velocimetry)による水表面流速検出、④DIEX法(Dynamic Interpolation and Extrapolation method、力学的内外挿法)による流速内外挿・流量算出を自動連続・リアルタイムで行います。

<優位性>
(1) CCTVカメラ画像解析の採用や水理解析の導入により確実性を保持
 一般に、CCTVカメラは堤防上に設置された支柱上や河川管理施設に設置されており、橋梁が冠水する規模の洪水でも流失することは極めて稀です。その撮影映像から、水位・流速を画像解析により算定することで、洪水でも確実な水位・流速計測が可能となります。流速画像解析には、市販のKU-STIVを用います。
 さらに、DIEX法による流体の運動方程式に基づいた流速内外挿操作を導入することで、流速解析精度が低下する夜間や豪雨時といった過酷な環境下でも、安定的に流量値を得ることが可能です。

(2) 自動連続・リアルタイムでの流量観測が可能
 従来の流量観測では、人力での作業が必須とされてきました。これに対して本システムでは、完全な無人・自動連続・リアルタイムでの観測を可能としています。

(3) 低コスト・維持管理が容易
 既存のCCTVカメラインフラを活用することが可能であるため、システム導入にかかるコストが低廉で、かつ、水中設置型の機器と比較して維持管理が容易となります。

(4) 現地環境に合わせたカスタマイズが可能
 本システムを構成している4つのサブシステムは、相互に疎結合となるように設計されており、現地環境に合わせたカスタマイズが可能となっています。例えば、高感度カメラでも撮影が困難な環境では遠赤外線カメラを用いることや水位観測に一般の水位計を用いることなどが可能です。

3.期待される効果と今後の展望                           
 最新の撮影技術や解析技術を融合した本システムの導入により、従来、観測実施が困難であった施設能力を上回る洪水時においても、安全・安定的に河川水位・流量のモニタリングが可能になります。また、既存のCCTVカメラのネットワーク・インフラを活用することで、低コストで導入可能となっているだけでなく、河川水位・流量観測を大幅に効率化することで、現代社会の大きな課題であるインフラ管理の効率化に大きく寄与します。
 今後は、現地実証試験を継続し、本システムの適用範囲や環境依存性を明らかにするとともに、システムの高度化を図ります。さらに、2020年の実用化を目標として、システムとしての信頼性向上・冗長化を進めて参ります。