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米科学誌電子版に発表:環境DNA解析により水を汲むだけで絶滅危惧種ニホンザリガニの生息を把握

2016年06月21日

 この度、弊社社員であり北海道大学大学院博士後期課程に通う池田幸資、兵庫県立大学 土居秀幸・准教授、北海道大学 根岸淳二郎・准教授および弊社は、水を汲むことで絶滅危惧種ニホンザリガニの生息の判定を行えることを検証し、平成28年6月19日付で米科学誌(Consevation Genetics Resources)電子版に発表しましたので、お知らせ致します。

<研究成果のポイント>
・水を汲んでその中のDNAを分析するだけで,ニホンザリガニの生息の有無を把握することに成功。
・ニホンザリガニ生息場における環境DNAの有効性を検証。
・今後の絶滅危惧種の分布モニタリング手法の進展に期待。

絶滅危惧種 ニホンザリガニ

<論文発表の概要>
研究論文名:Using environmental DNA to detect an endangered crayfish Cambaroides japonicus in streams
     (環境DNAを用いた絶滅危惧種ニホンザリガニの分布推定)

著者:池田幸資(パシフィックコンサルタンツ株式会社,北海道大学),土居秀幸(兵庫県立大学),田中一典(北海道大学),川井唯史(北海道立総合研究機構),根岸淳二郎(北海道大学)

公表雑誌:Conservation Genetics Resources(生態学の専門誌)

<研究成果の概要>
(背景)
  ニホンザリガニは河川上流部の石の下に隠れて生息しているため,その調査は困難であり,生息確認には多大な時間やコストがかかるのが課題です。河川などの水環境中には,水生生物のフンや表皮などから溶け出たDNA断片(環境DNA)が存在しています。
 弊社の池田(北海道大学大学院博士後期課程在籍),兵庫県立大学の土居准教授,北海道大学の根岸准教授らの研究チームは,ニホンザリガニの種特異的プライマーを用いてDNA断片を増幅・定量できる「リアルタイムPCR(合成酵素連鎖反応)法」を利用した野外調査を行い,ニホンザリガニの生息地を,水中に溶存するニホンザリガニ特異的なDNAの有無で把握しました。

(研究手法)
  研究チームは,札幌近郊のニホンザリガニを調査しました。2014年と2015年に,21箇所の河川上流域で沢水をそれぞれ1リットル採水し,ろ過して残ったフンや表皮,体の粘膜などに含まれるニホンザリガニのDNAの有無をリアルタイムPCR法で解析しました。同時に,既存の捕獲調査でもニホンザリガニの生息を調べました。

(研究成果)  
 ニホンザリガニが捕獲された10箇所すべてで,1リットルの水からニホンザリガニ特異的なDNAが検出され,環境DNAから生息が確認できました。捕獲調査であれば調査に数時間を要しますが,採水は数分で終了するので,従来よりも短時間で調査できるようになりました。

(今後への期待)
 本研究結果は,環境DNAを用いた調査が従来の調査手法より,簡易にかつ確実に水生生物の有無を明らかにできることを示唆しており,水中に生息する絶滅危惧種や外来種のモニタリングへの応用が期待できます。