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パシフィックコンサルタンツが考える、地域の明日のための新しい官民連携手法

2013年04月24日

新しい官民連携手法が必要な背景

(1) 東日本大震災の特徴  平成23年3月11日の東日本大震災は、戦後80年かけて築き上げた社会インフラに対し、一瞬にして甚大な被害を広範囲にもたらし、我々が長年培ってきた概念を変え、エネルギー需給に関する構造等に及ぶ問題を表面化させた。また、この災害からの復旧・復興を通じて、従来の技術、手法、手続きなどで様々な課題にも直面している。  このような今回の災害で、今、地域で本当に必要なことは、地域の失われた各種機能の正常な回復と長期的な展望での機能強化であり、そのためには、地域で的確な判断と指示ができる人材と地域に適した技術の導入を迅速に実施することが望まれる。

(2) 災害廃棄物処理のための障壁  震災は、一瞬で大量のがれきなどを発生させるだけでなく、地域の産業などへも被害を与えた。そのため、災害廃棄物の処理は迅速な復興にも必要なことであるが、復興を加速的に実施するためには、地域の産業の基盤を回復することが重要である。そのため、この被災地の復興への道のりを確実なものとする具体的な方法としては、「地域の実情にあった、地域の活力となる処理方法の選択と適正な運用・管理」であるが、以下の障壁もあった。

  •  ■ 自治体では職員も被災している
  •  ■ 災害廃棄物の量、質がわからない
  •  ■ さまざまな災害廃棄物の処理方法が、地域にあっているか、実効性の高い方式はどれか判断が難しい。
  •  ■ 適正な事業費を算出するための計画策定や技術検証するための時間がとれない。
  •  ■ 専門知識が不足している。
  •  ■ 国などの動向の情報収集などに時間を要する。

    写真-1 釜石市の被害状況(震災当初)

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新しい官民連携

(1) プロジェクトマネジメントコンサルタント(PMC)  前述の背景を踏まえ、災害廃棄物の処理を適正かつ迅速に実施していく(プロジェクト)を実施するためには、調査や予算確保、計画やその実行など(プログラム)を、適切に構造化し、適正なプログラムの運用・管理が重要な視点となる。  すなわち、地域のニーズをプロジェクトとして立案し、個々のプロジェクトをプログラム化して実行することで地域の目的を確実に達成するという新しい官民連携手法が必要である。

  •  ■ 地域の実情にあった処理方法の選択  災害廃棄物の性状を専門的知見により把握し、既存施設や周辺の施設、仮置き場の確保状況を、被災自治体別に確認するとともに、近隣自治体を含めた地域の技術力を評価することで、地域の実情に応じた方法の選択を行う。
  •  ■ 適正な運用・管理のためのプログラム化と組立て  災害廃棄物の処理を確実に実施していくためには、現状の把握、計画の策定、予算等の措置、事業パートナーの選定などの事前準備に加え、時々刻々変化する地域状況や災害廃棄物の実態に応じた現場管理、環境管理、実績等の管理に構造化することが重要である。
  •  ■ 集中したサポート体制と連続したサポート体制の提供  災害廃棄物の処理は、地域の復興などの進捗や被害の程度により日々、その状況が変化する。そのため、さまざまな状況をあらかじめ予測して対応するほか、地域の変化に応じた迅速なサポート体制の構築により、確実に処理を遂行できるような支援体制の提供を行う。

    (2) PMC手法による新しい官民連携  災害廃棄物処理事業をPMC手法で実施する利点は、①本処理事業のコスト低減 ②行政担当者への事務負担の軽減(回避) ③地元雇用の確保による地域活性化 ④復旧・復興が一体となった事業実施(復興への道筋)などがあるが、そのために必要な人材スキルは以下の通りと考える。

      •  ■ コーディネ−トコンサルタント  自治体の立場から、地域に根ざした官民連携の事業モデルを企画立案し、事業の成立をサポートする。
      •  ■ プロジェクトマネジメントコンサルタント  自治体に代って事業成立時、運営時ともに事業実施を総括的にマネジメント・モニタリングする。

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釜石市におけるPMCの取組み事例

 現在、釜石市の災害廃棄物処理事業では、新たな官民連携手法であるPMC手法を取り入れている。以下に、その一部を紹介する。
(1) 災害廃棄物処理のプログラムへの分割と再構築  図-2に示す通り、災害廃棄物の処理のためには、処理方法のみならず、体制整備など多岐に渡る事務等を抽出する。そして、その事務等をルール化することでプログラム化し、プロジェクトの構造として構築した。

(2) 処理のための地域戦略(処理実施計画の策定)  図-3に示す通り、災害廃棄物の発生量を推計した結果を踏まえ、災害廃棄物処理の基本的な考え方を示した「釜石市災害廃棄物処理計画」を策定した。この計画は、定期的に実態に応じた見直しを行うことで、復興に伴い変化する地域の状況を反映し、地域の被災者の活力となるように配慮した。

(3) 確実な処理のための事業戦略  災害廃棄物の処理は、緊急を要する対応のほか、平成26年3月までに確実に処理を実施することが望まれる。そのためには、将来の変化を踏まえ、実施すべき事業を図−4の通りに組立てを行った。  地域の事業者の協力・連携を軸に、市内、県内の一般廃棄物処理施設、産業廃棄物処理施設の活用のほか、早期復興に向けた迅速な対応を図るために、県外での各施設の協力を得る。その際には、現在の廃棄物のリサイクル市場を受け皿とすることで、最終処分の負荷を軽減し、適正なコストで迅速に処理を行う。

 平成23年3月11日の発災以降、生活環境確保のための緊急的な対応が図られ、道路上の散乱がれきは11月末までに移動が完了した。引続き地元企業により、倒壊等の危険のある建物を解体するとともに、本格事業に先駆けて、平成23年7月25日から10月末の約3ヶ月間、解体からリサイクルまでの一連の作業を対象に試行事業を実施した。その試行事業を踏まえて、平成23年12月末より平成26年3月末を工期とした約27か月間の本格事業が開始した。  一方、震災直後、災害廃棄物を専用に焼却することを目的に、稼動を停止していた旧清掃工場を復旧させ、可燃物の確実な処理と最終処分量の削減を実現するために、旧清掃工場での処理事業を開始した。

(4) 試行事業の実施  策定した処理計画が実効性のあるものとするために、本格事業に先立ち、平成23年7月25日から10月末の約3か月間、試行事業を実施した。試行事業は現地での課題を収集することと、処理の効率を高める方法を探るために、解体・撤去から選別、処理処分、リサイクルまでの一連作業を行った。また、これらの適正な発注方式についても、被災地でいち早く一括の発注方式を試みた。入札は地域特性に配慮した処理方法と地元住民の雇用など、地域に貢献する方策について技術提案を求めるために、総合評価落札方式を採用した。

(5) 地域復興へ向けた本格事業の仕組み構築  本格事業は、試行事業を受けて、地域性と専門性を両立させるために、地元企業を中心とする解体を含むリサイクル処理を行う業務2件と,廃棄物処理に精通した企業による混合廃棄物の中間処理と最終処分を行う業務に分割した。  これにより釜石市での災害廃棄物処理事業は仮設施設(旧清掃工場の活用)の溶融処理事業と合わせて4事業に分割した発注形態を成してはいるものの、解体から最終処分までの一連の災害廃棄物処理事業である。その上で、釜石市の災害廃棄物処理事業を「地域の復興のための基盤づくり」と位置付け、従前のように地元住民が戻り、地域の復興の糸口になることを期待し、地元建設会社が主体となって活動できるような仕組み作りを行った。(図-6 参照)  これにより、地域の技術力の復興と向上を行い、さらに、地元の宿泊、食事、材料調達などの連携を図ることを促進させることで、地域の早期復旧・復興に寄与することを期待できる仕組みとしている。

(6) 地域の適正な発展に向けた事業パートナーの選定  前述の事業の仕組みから、事業のパートナー構築のための発注支援などを実施した。具体的には、社会基盤としての産業の活性化のために、地域が自ら連携先を選択できるようにするとともに、この機会に地域がより活性化できるように、全国規模で公募を行なった。公募内容としては、災害廃棄物処理が不確実な条件への柔軟な対応が望まれるため、各事業において、明確に求めるべき事項を掲げ、その要求事項に対する企業の考えを評価し、よい技術ではなく、よいパートナーを選択する方式とした。

※リサイクル処理は、市内を南北2つの地区に分けて、運搬距離を短くするとともに運搬車両等が輻輳しないように配慮

(7) 事業の管理  事業の管理は、不確実な事項を実績により確定するとともに、不測の事態を想定して早期に対処することが重要である。そのため、現地に復興事務所を設立し、本社でのバックアップ機能と現地での管理機能により適正な運用を支援した。

(8) 事業のプロモート  解体などを含む災害廃棄物処理事業は、被災された方々の理解と協力も必要不可欠である。そのため、流出した思い出の品などを積極的に回収、返却するプログラムを地元雇用中心に実施した。

写真-2 弊社スタッフによる思い出の品の回収・整理状況

 また、災害廃棄物処理は、徐々に地域がきれいになっていく反面、事業が安定すると住民にはその進捗などがわかりにくいという特徴がある。そのため、地域の企業が、また地域外の企業が何をがんばっているかの情報を広く提供することも必要である。そのため、進捗の見える化を地元企業と連携して行っている。

図-8 災害廃棄物の見える化への取り組み

※ 弊社と災害廃棄物処理事業を行なっている事業者で立ち上げたサイト

※ スポーツ交流を災害廃棄物処理のボランティアとして連携した取り組み

(9) 今後の取組み  釜石市における災害廃棄物処理事業は「地域の復興のための基盤づくり」と捉え、地域力と専門力の融合した事業の仕組み作りが構築できた。また、今後の「地元の力による復旧・復興」を見据え、災害廃棄物処理に関する全ての工程での対応方法と地元の多くの業種・企業が参画する事業体制が構築できた。  今後は復興に向けてスピード感が持てるように、一日でも早く災害廃棄物の処理を安全確実に終わらせるため、引続き適正な運用・管理に努めたい。

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新たな復興防災計画の支援に向けて

 国土交通省は、平成24年度に東日本大震災の教訓を踏まえ、地方公共団体における“事前復興まちづくり計画の策定”と“まちづくりを通じた津波被害軽減策の実施”に資する「減災まちづくり推進方策検討調査」を実施するとしている。  上記調査では、“地方公共団体が事前に検討しておくべき事項を抽出・整理し、事前復興計画の策定”と“避難施設、避難路の整備、避難訓練、住居の移転などの多重型の津波防災”に係るガイドラインの作成が掲げられている。  地域独自の目的やニーズに合致した、防災まちづくりの策定から計画・設計・実施に、ガイドラインを適切に運用させるには、東日本大震災の復旧・復興で蓄積された知見と、各種技術分野に関る技術を新しい官民連携手法などを活用して総合的にマネジメントすることが必要となる。(図‐9参照)  今後の復興防災計画の総合的な支援に向けて、全社技術の連携・融合、技術開発は、総合コンサルタントとしての責務と考え、積極的に進めているところである。

 また津波防災対策には、図‐10に示すような“津波防御施設”、“避難体制”および“まちづくり”を総合的に組合せた広義の多重防御が望まれる。

図-10 津波防災対策概念図