事業紹介宮城県自然環境共生指針策定業務[宮城県]

自然と共に生きる道を拓くために

自然と共に生きる道を拓くために

日本三景のひとつである松島や、白鳥の越冬地として知られる伊豆沼など、豊かで多彩な自然に恵まれた宮城県。
しかし近年は、大小に関わらず多くの開発によって自然環境が損なわれています。経済的発展と、自然環境との調和のとれた社会の構築。自然と人とが共生するための新たな基準がいま求められています。

事業概要

本案件は、宮城県における自然環境保全上の課題・問題点を整理し、指針として取りまとめたものです。自然環境の将来像を「生態系ネットワーク図」として表し、生態系ネットワーク型の県土づくりのために当面配慮すべき課題について調査分析しました。豊かな自然環境を今後どのように保全、整備し継承していくか、そして人間社会はどう関わっていくべきかを考えるための基本が、この「宮城県自然環境共生指針」です。
宮城県においては、近年大規模な開発による生物生息環境の急速な悪化に対して県民の関心が高まっていました。広域的な視点を持った自然環境保全施策の確立を急務とする県の要望に、我々が営業活動としてプレゼンテーションした「まちだエコプラン」(詳細別記)の内容が合致し、受注につながったものです。

「まちだエコプラン」とは

まちだエコプラン
まちだエコプラン

「まちだエコプラン」とは、2000年3月に東京都町田市において策定されたものです。「人と生きものが共生できるまちづくりをめざして」をスローガンに、環境共生都市の実現に向けて町田市の生態系の保全・回復・創出への配慮事項や、まちづくりに向けた考え方を提示しています。「宮城県自然環境共生指針」策定のノウハウのベースともなっているプロジェクトです。
この中では、生態系を支える単位として「小流域」に着目し、小流域ごとの生物生息環境のネットワーク化や土地利用評価を行っています。地方自治体には「緑の基本計画」の策定が義務づけられていますが「まちだエコプラン」は自主的に策定に踏み切った数少ない例です。緑の基本計画は、緑の配置がすべて基本になっていますが、生き物の視点からの計画というのは、まだ出始めたばかり。またこのプランは、従来多かった「開発は環境破壊につながる」という考え方に対し、生きものや緑をつないで改善していくためのメリットとなる開発もあり、その目標を定めたものということができます。

独自の指標を用い、新たな環境保全の形を提案

本プロジェクトが発生した背景と、具体的な取り組みについて増山課長にうかがいました。
「宮城県においては、住宅団地やゴルフ場等の大規模開発、道路やダム建設といった公共工事による環境の急速な悪化が心配されていました。最近は、かつて身近だった生きものや里山を保全しようとする声が高まっています。そこで、県は生物生息地の保全を図る施策に乗り出したわけです。本指針は、その第一段階という位置づけです。今後、開発等に際しても指導的な役割を果たしていくことになります。従来は『ここでは貴重な生物が生息するので、開発をなるべく避けてほしい』といった指導に留まっていたものが、より望ましい形に導けるようになるでしょう。
環境評価には緑の量と質、それに道路のような線的な開発と面的な開発の4つの指標を用いました。緑の現況把握のために平均自然度と森林率を調べ、人為的行為が自然界に与える影響として、道路やゴルフ場、宅地といった開発の程度を加味してその地域の環境を評価するものです。緑の量と質、そして線的および面的な土地開発の指標を重ね合わせ、全県に当てはめて評価を色分けして『自然共生度』を表現したのです。このほかに、ツキノワグマなど宮城県の自然を代表する生き物の視点からの解析・評価も行なっています。こういった評価法は、今回のために独自に開発したものです。また、生態系というのは土壌や水、生物等の複雑な相互関係からなるため、ある程度以上のまとまりが必要です。そこで、自然環境保全の上では生態系をネットワークとして連続させることが最も重要であると提案しています」。

すべてがゼロから手探りでスタート

前例があまりない形態の事業だけに、大変だったこともあったようです。雨嶋さんはこう振り返ります。
「まちだエコプランのケースでは、はじめは市の全域をしらみつぶしに調べるという考えでした。しかし、それでは時間もコストも膨大にかかってしまい、いつ終わるかわかりません。そこで、まず『重要なのはどこか』『つながりはどうなっているか』を優先して調べました。まだまだ自治体などでも取り組み例がないものですから、方法論から手探りでした。
また、調査結果は文章ではなく絵でわかりやすく示す工夫をしました。個々の開発事業を別々に行なうことの弊害として、広がりのある自然の中で、開発区域の位置付けがわからないということが考えられます。そこで、今まで意識されていなかった広域的な緑のつながりの方向やまとまりといったことを明らかにし、現状を一目でわかっていただけるよう考えました。ビジュアルによる提案は、今回のポイントのひとつです。ただ…実を言うと費用の方はだいぶ厳しかったのです(笑)。今回の業務でもGIS(※)を使って様々な解析を行なっているため、当初の見当よりも多くの作業を行なったと思います。しかし、最初のデータ入力作業は大変だったものの、これまで蓄積したノウハウをうまく活用したこと、同じ環境部内に優秀なGIS技術者がいることから、結果的にはGISを用いたことで効率的に業務を進めることができたと考えています」

  • GIS(Geographic Information System):地理情報システム

県境を越えた取り組みへのバックボーンに

県境を越えた取り組みイメージ

この指針をつくるにあたってのコンセプトと、指針の役割について増山課長はこう語ります。
「この指針の根幹にある考え方は、人間主体ではなく生態系という視点からの開発によって、環境と人間生活を両立させようというものです。自然というのは単に緑の量だけでは計れない要素が多々あり、新たに総合的な評価軸をつくれたら、という意図から出てきたのが『小流域』という単位です。例えば、ジグソーパズルの1ピースが一つの小流域だとすると、そのピースがなくなると絵は成り立ちません。小流域というのはそのくらい大切な単位なのです。緑地や貴重な生物がいるところだけ守ればいいという風潮に対し、貴重な生物も別の場所とのつながりがあって初めて生かされるという認識に立っています。この指針は、これまでは、個々の事業でちぐはぐにやってきた開発や保護に、共通の目標や基準を与えるものといえます。指針で策定した生態系ネットワークは宮城県のバックボーンでありまだまだ前段といえるものですが、今後、条例等に発展していけば法的な整備もでき、環境保全にも効力を発揮するでしょう。
自然を守りたい気持ちは誰でも一様にあるのですが、縦割りという弊害に阻まれている面があります。一カ所ですべてカバーできる省が日本にはありませんから、各役所もなかなか動けないのが現状です。しかし、自然は行政区域で分かれているわけではありません。ひとつの県だけで完結する自然はなく、県境の尾根向こうへの生き物の往来も当然あるわけです。もちろん、土地所有や法的規制等の問題がありますが、将来の望ましい姿(生態系ネットワーク図)と事業計画とを重ね合わせ、解決策を検討することで“開発=自然破壊”ではなく“開発=望ましい環境への誘導”が実現できると考えています」

潜在する技術力を活かし、新しい流れをリード

このプロジェクトに取り組んだ意義を雨嶋さんにうかがいました。
「なんといっても、弊社の潜在的な技術力を実感した業務でした。本案件は、基本的には増山、雨嶋、鬼久保という3人がメインで取り組みましたが、GISによる解析は環境部内の専門技術者が担当しましたし、東北本社とも密に連携をとりました。東北本社の営業、環境課と東京本社の環境部間でのコンセンサスが早い段階で出来ていたため、施主への対応が的確だったことが成功につながったと思います。様々な人の力によって初めてなしえた、総合コンサルタントならではの人材力が活きたプロジェクトでした。また、環境部に蓄積された経験やノウハウが、環境そのもののためにフルに活かせた事業ともいえるでしょう。
さらに、仕事を通じた啓発的な意味もあったと思います。建設コンサルの中にも、自然環境に造詣が深い人ばかりとは限りません。今回の業務の中では、建設・開発に関わる人にこういった問題について折に触れてお話させてもらうことができました。事業に取り組むすべての人が環境への配慮という意識を共有すれば、大きな波及効果になります。
これから少子高齢化により人口が減っていく中で、ハードをどんどん造って増やしてしまってはやがて過剰になります。そこで、社会資本整備においては既存施設のメンテナンスへと転換しつつあります。アセスメントにしても、従来の『事業アセスメント』だけではなく、今後はプログラム段階から環境への視点を入れて事業計画を検討する『計画アセスメント』『戦略的環境アセスメント』の必要性が強く認識されています。
土木という言葉の由来は『築土構木』といって、自然の災害から民を救うという自然環境保全の定義が含まれており、いままさに本来の意味に帰りつつあるというところです。そういった流れが宮城県自然環境共生指針の策定にもつながってきているのだと思います」

担当者より一言

増山 哲男 雨嶋克憲

今回の指針の巻頭に、これは「終わりではなく、始まりです」というコメントがあります。つまり、これからどんどんバージョンアップしていかないといけないし、つくったことによって終わってしまっては意味がないのです。この仕事は、県内の開発がこの指針を基に行われて初めて活きてくると考えています。

事業主体、施主 宮城県環境生活部自然保護課
工期 平成11年度(1999/12/6-2000/3/24)
平成12年度(2000/6/16-2001/3/25)
平成13年度(2001/10/11-2002/3/25)
事業規模 宮城県全域

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