2023年8月26日、国内の路面電車としては75年ぶり、既存路線の延長や改良ではない新設という意味では日本初となるLRT「ライトライン」が宇都宮市で開業した。次世代の公共交通ネットワークの担い手として期待が大きいこのLRTの導入事業に、パシフィックコンサルタンツもJVの一員として参画。峰町立体橋改良や鬼怒川橋梁など、新線のなかでも難所といわれた区間を中心に設計を担った。業務をリードした大阪本社交通基盤事業部の池端文哉と交通基盤事業本部 鉄道部 鉄道計画室の三川武紀がプロジェクトを振り返った。
INDEX
宇都宮市が直面していた課題
人口約50万人を擁する北関東最大の都市である宇都宮市は、長年にわたり市内の交通に課題を抱えていた。その1つが慢性化した渋滞だ。
首都圏への輸送を重視して、南北を軸に鉄道や道路が発達した一方、市域を東西に貫く交通の整備が立ち遅れていた。ところが、市の東部には、鬼怒川の左岸を中心に全国でも最大クラスといわれる工業団地がいくつもある。隣接する芳賀町の工業団地を含め、この一帯だけで約3万人を超える就労人口があり、多くの人が自動車通勤をしていた。もちろん工業団地としての物流も活発であり、宇都宮駅方面から東の工業団地に通じる道路は慢性化した渋滞に悩まされていた。
もう1つの課題が、人口減少や少子高齢化の進行に対応した交通ネットワーク整備の必要性が高まっていることだった。
もともと栃木県は「クルマ王国」と称されるように、自動車への依存率が高い。自家用乗用車の1人あたり台数は0.707台で、群馬県に続き全国第2位。しかも中心市街地の人口が減少する、いわゆるドーナツ化現象が進んでいる。このままではますます自動車に頼る移動になっていかざるを得ないが、それでは渋滞の悪化やCO2排出増加、自動車に頼れない高齢者の移動の困難を招き、都市機能の維持すら難しくなってしまう。
これらに対して宇都宮市は、生活に必要な機能が整ったコンパクトな複数の拠点を誰でも使いやすい公共交通でつなぐ「ネットワーク型コンパクトシティ」の形成を将来ビジョンとして掲げた。そして、渋滞解消と同時に東西基幹公共交通の整備を進めることとし、その事業方式としては、自治体が軌道施設や車両を整備・保有して維持管理を行い、民間がそれらを借り受けて運行サービスを提供するという「公設型上下分離方式」を採用した。
モノレールよりLRT
新たな公共交通としては全国で導入例のあるモノレールも候補に上った。しかし整備費用が巨額に上ることや、そこまでの大きな輸送力は必要としないこと、またフランスのストラスブールにおけるLRTの導入成功が大きなヒントになって、既存の道路上に軌道を設けるLRTを有力な候補とした。
その後、隣町で巨大な工業団地を擁する芳賀町もこの構想に加わることになり、さまざまな議論を経て2013年11月に「芳賀・宇都宮基幹公共交通検討委員会」が設置され、LRTの導入ルートなどの具体的な検討が始まった。そして2014年には「LRT軌道基本設計業務」について公募型のプロポーザルが実施され、パシフィックコンサルタンツを含む6社の設計共同体(代表会社:中央復建コンサルタンツ株式会社)が受注。宇都宮駅東口〜芳賀町(芳賀・高根沢工業団地)の延長約15kmについて、軌道や停留場、バス路線とつなぐトランジットセンターなどの計画と基本設計業務が始まった。2015年11月には宇都宮市、芳賀町、地元経済界、地元交通事業者などの出資により運営会社「宇都宮ライトレール株式会社」も発足。2018年5月に起工式が行われ、5年半後の2023年8月に開業した。

薄型レールを採用して緊急車両の通行に対応
宇都宮ライトレール(愛称「ライトライン」)は、既存の道路上に設けられる併用区間が約9.4km、専用区間が約5.1kmある。停留場は19か所、車両は低床型の3車体を連節し、ピーク時は6分間隔、オフピーク時は10分間隔で走る。
パシフィックコンサルタンツは、2014年10月から2020年3月までの約5年半にわたって、鬼怒通り区間の軌道設計、宇都宮駅東口停留場と宇都宮大学陽東キャンパス停留場の詳細設計、さらに、峰町立体橋の改良や鬼怒川橋梁の新設などの設計を担当した。なかでも峰町立体橋の改良と、全国初のLRT専用橋となる鬼怒川橋梁の設計は、宇都宮ライトレール全区間のなかでも難関と見られていたものだった。池端が振り返る。
「駅東口から続く鬼怒通りは、片側2車線で路肩もあり、歩道も広く取られたメインストリートです。LRTの軌道をセンターライン寄りに上下2本通しても、片側2車線の車道が確保できます。しかし、国道4号線を跨ぐ峰町立体橋にはもともと片側2車線のぎりぎりの幅しかありません。そこにLRT軌道を通せば、車道は片側1車線になります。そこで問題になったのが緊急車両の通行でした」
緊急車両を通すためには、軌道上を走行させることが必要になる。しかし通常の軌道では不可能だった。三川が説明する。
「緊急車両のために軌道は車道とフラットにしておかなければなりません。ところが一般的な軌道レールの高さは150mmあります。この橋の舗装面の厚みは80mmですから、フラット化は無理です。橋を全面的に新しくするか、側道を直進させて4号線を横断するしかありません。しかし、橋の新設は莫大な費用がかかり、下を通せば国道を渋滞させることになります」
設計チームが頭を抱えたとき「いい手がある」とチーム内から声が上がった。「ドイツやオランダに薄型レールの採用例がある。それを使ったらどうか」というものだった。資料に当たると、高さ約60mmという薄型レールの使用例があった。さっそくメーカーと現地の建設コンサルタントに連絡を取り、高さだけでなく、その固定方法など詳細な情報を入手。安全性やメンテナンス性を詳細に検証していった。その結果、問題なく使えることがわかり、交通安全環境研究所の承認も得て国内初となる採用にこぎ着けた。オランダのメーカーに詳細な仕様を伝えてレールの製造を依頼。コンクリートスラブの上にレールをゴムで固定する独特の方式であったことから、施工面でのアドバイスも受けた。
「このレールに出会わなかったら、既存の峰町立体橋は使えませんでした。その意味で非常に大きな意味があったと思います」と三川は振り返る。

出典:edilon sedra /「Case Issue M03 | 2023, New Light Rail on Minemachi Overpass, Utsunomiya」
未来の交通システムに似合う橋梁デザイン
シンプルで軽快な橋梁デザイン
路線図を見ればわかるように、宇都宮駅を出たライトラインは終点の芳賀・高根沢工業団地をまっすぐに目指すのではなく、途中で県道64号(通称・鬼怒通り、柳田街道)の併用区間から分かれて専用区間に入り、やや南下しながら鬼怒川を渡って工業団地や野球場、サッカー場、地区市民センターのある清原地区に入る。そこから北上し、県道64号で再び併用区間となり、宇都宮テクノポリスセンター、芳賀工業団地を経て終点の芳賀・高根沢工業団地に至る。鬼怒川の渡河は橋の新設が必要だった。
「全長643mはPC構造の鉄道橋としては国内最長です」と池端。次世代の公共交通をイメージさせる斬新な車両デザインと鬼怒川の豊かな自然景観にマッチする橋梁であることが求められた。
点検用梯子も露出させず桁の中から下りられるようにした
「9径間連続の箱桁橋とすることで水平ラインを強調し、軽快で美しい佇まいとしました。また景観性とメンテナンス性の両方を考慮して、橋脚と箱桁の間に設けられる支承部の点検用足場は外に出さないようにしています。足場が露出すれば大規模な災害に遭遇したときの脱落を心配しなければなりませんし、足場自体のメンテナンスも必要になります。これでは未来の公共交通システムにふさわしくありません。橋脚の橋座面にあらかじめ点検用スペースを設け、桁のなかから梯子で下りていけるようにしました。さらに、電気や信号、通信の軌道設備や、取付が求められたガス管やケーブルテレビ用配管についても、通常はスラブ下に吊り下げるように添えられることが多いのですが、橋面上のダクト内にすべて収めています。排水管も箱桁内に設置して最終的に端部の橋脚に集め、河川内には水を流さないようにしました。排水管の脱落といった懸念も不要です」
生活の側を通る軌道ならではの工夫も
既存の道路や駅前広場のなかにレールを通し、生活の身近な場所を走行するLRTの軌道設計にはさまざまな配慮も必要だった。宇都宮は「雷都」と呼ばれるように、雷雨が多い土地で、駅前広場や市街地の道路下には排水のための水路がしっかりと設けられている。この水路を維持することが必要だった。三川が言う。
「峰町立体橋で採用した薄型レールをこれらの区間でも採用しました。こうすれば従来の舗装面の厚みのなかに軌道を通すことができ、地下水路の付け替えが不要になります。またこうすることで軌道と道路がフラットになり、歩行の安全性の向上にも貢献できます」

ここでも薄型レールを採用した
さらに、宇都宮駅東口停留場と宇都宮大学陽東キャンパス停留場の設計については、宇都宮らしさを表現するために、天井に地場の木材、ベンチに大谷石を使って土地の要素を織り込んだ。もちろん劣化しやすい材料だけに、使用部位は厳選している。また、平石中央小学校付近を通行する専用区間では低騒音と低振動に配慮して、バラストではなくコンクリートスラブにレールを樹脂で固定する工法を採用した。
暮らしを変えたライトライン
2023年8月の開業以来、ライトラインは当初予測を大幅に上回る利用者で賑わい、開業後3カ月で約39万人が利用した。これは予測の1.3倍という高い数字だ。特に土日・祝日の利用は当初予測の3倍となった。アンケート調査では、通勤・通学の満足度の向上はもちろん、開業のメリットとして「外出機会の増加」「公共交通全体の利便性の向上」を挙げる人が多く、定住人口の維持・増加や地価の維持・上昇にも大きな効果が出ている(以上、「『ライトライン』開業後の状況について」(2023年11月27日第37回 芳賀・宇都宮基幹公共交通検討委員会資料)と「『ライトライン』の整備効果について」(2025年5月16日第40回 芳賀・宇都宮基幹公共交通検討委員会資料)による)。
現在「ライトライン」は第2期の計画となる宇都宮駅東口から西口に回り込み、教育会館付近までの約5kmの区間を整備区間とし、2036年の開業を目指して詳細設計が進んでいる。三川が業務を振り返った。
「既存の道路を改良しながら軌道を設けるというのは鉄道部としても新たなチャレンジでした。設計にはいくつもの難関がありましたが、小学生がひとりで運動公園に行けるようになったとか高齢者の外出機会が増えたという話を聞くと、苦労もすべて吹き飛びます。非常に価値のある業務に携わることができた。技術者冥利に尽きます」
池端も大きな手応えを感じているという。
「ライトラインはこれからのコンパクトシティと基幹公共交通のあり方に好事例を提供するものになりました。全国の自治体の注目度も高く、これをきっかけにLRT導入が進めばうれしいですね」
ゼロからの新設となった宇都宮ライトレールが、さまざまな知見と教訓を伝え、日本のLRT普及の起爆剤になろうとしている。