LRTと呼ばれる次世代型路面電車への注目が高まっています。2023年8月には75年ぶりとなる新線が宇都宮市で開業しました。コンパクトシティと呼ばれるまちづくりでも重要な役割を担うこの新しい都市交通システムはどのようなもので、導入検討にはどんな留意点があるのか――パシフィックコンサルタンツでLRT導入事業に中心で携わる大阪本社 交通基盤事業部長 池端文哉と、交通基盤事業本部 鉄道部 鉄道計画室 室長 三川武紀 に話を聞きました。
INDEX
- LRTとは?従来の路面電車との違い
- LRTが注目されている理由
- LRTの特徴とメリット
- ヨーロッパで先行した路面電車の復権
- 日本でも進みはじめたLRT導入
- 導入はまずまちづくりの目標設定から
- パシフィックコンサルタンツにできること
LRTとは?従来の路面電車との違い
LRT(Light Rail Transit:ライト・レール・トランジット)は、低床車両や専用軌道、優先信号などを導入することで、従来の路面電車よりも速達性や定時性、快適性を高めた次世代型の路面電車システムです。従来の路面電車と同様に主に道路上の軌道を走行しますが、LRTでは、LRV(Light Rail Vehicle:ライト・レール・ビークル)と呼ばれる超低床車両の導入や停留場のバリアフリー化、軌道の専用化などが進められています。また流線型でガラス窓の大きい近未来的なデザインも特徴の一つで、まちを個性的に彩る存在でもあります。
かつて路面電車は明治時代後半から大正時代を経て急速に普及が進み、1932(昭和7)年には全国65都市で82業者が路線延長約1,500kmで営業を行うなど最盛期を迎えました。しかし、戦後間もなく始まったモータリゼーションの急速な拡大を背景に、交通渋滞の原因として敬遠され、1960年代に入ると廃止・軌道の撤去が一気に進み、大阪市電は1969(昭和44)年に全線廃止、東京都でも1972(昭和47)年に大部分が廃止されました。現在では、全国的に路面電車は、ほとんど姿を消し、23都市で運転されているのみで、最盛期に比べ路線延長も約7分の1にまで減少しました。しかしその路面電車が、今LRTとして復権しつつあります。

LRTが注目されている理由
LRTが注目されている背景は、大きく2つです。 一つは、自動車依存が過度に進んだことによる環境負荷の増大です。1960年代以降、日本だけでなく世界の大都市で大気汚染や騒音公害、交通渋滞の慢性化といった問題が顕在化しその解決が求められています。1990年代後半から本格化した温室効果ガスの排出削減の取り組みの一環としても、都市部の自動車交通抑制は大きなテーマです。
もう一つは、人口減少と少子高齢化のもとで求められるコンパクトシティにふさわしい公共交通システムのニーズです。多くの地方都市では中心市街地の活力が低下する一方、市街地が低密度に拡散し、このままでは生活を支えるサービスの提供が困難になりかねません。そのため、拡散した市街地をコンパクト化して、都市の持続性を確保する「集約型都市構造」への転換が求められています。1997年6月の都市計画中央審議会の答申でも、既存市街地の再構築や質の向上を目指す「都市型社会」への移行が必要であるという観点から、公共交通を単なる移動手段ではなく"都市の装置"として位置づけ直す必要性が明記され、高齢化や環境問題、都心衰退への対応として、地方中核都市などにおけるLRTの導入・整備を積極的に推進することの必要性が強調されました。
LRTの特徴とメリット
実際、LRTはコンパクトシティに求められる"足"にふさわしいさまざまな特徴とメリットをもっています。
その一つは、道路上だけでなく部分的な立体化や専用軌道の採用、既存の郊外鉄道への乗り入れなどもできることから、走行空間を選択しながらルートを決定する高い自由度があり、新たなまちづくりに合わせた路線の計画が容易であることです。また、市街地周辺部に大規模な駐車場を整備してここに車を置き、市街地内の移動はLRTを利用する「パーク・アンド・ライド」方式の導入も可能です。さらに、車両や信号システムなどの新しい技術を反映することが可能で、速達性や定時性の向上、低コスト、環境負荷の低減、バリアフリーといったニーズを満たすことも容易です。

さらに、最大輸送力と表定速度(停車時間を含めた平均速度)の2軸で、LRTを他の公共交通システムと比較すると、LRTがコンパクトシティの移動手段としてちょうどよいポジションにあることがわかります。
公共交通システムには、地下鉄や都市モノレールなどの新交通システム、路面電車、路線バスなどがあります。しかし、最大輸送力も表定速度も従来の地下鉄や新交通システムほどのものは必要としないが、路面電車や路面バスでは物足りないという「トランスポーテーションギャップ」が存在します。LRTはそれを埋めることができるのです。また建設コストも比較的低く、さらに近未来をイメージさせるデザインは都市景観の向上や個性の演出に貢献。大きなガラス窓とおして歩行者とほぼ変わらない視線と適度なスピードでまちの景色が楽しめるなど、地上を走るLRTならではの乗る楽しみもあります。

出典:「まちづくりと一体となったLRT導入ガイダンス」(国土交通省・地域整備局 都市計画課都市交通調査室)
ヨーロッパで先行した路面電車の復権
LRT導入で先行したのは欧米でした。特にヨーロッパは環境対策として自動車交通を抑制することを大きな政策課題にしており、早くから取り組みが進みました。1980年代の半ば以降、フランス、ドイツ、スイスなどで次々と導入され、現在も路線の拡張が続いています。

出典:「LRT等の都市交通整備のまちづくりへの効果」2011年3月(国土交通省)
中でも、LRT導入の成功例として世界的な注目を集めたのが、フランス東部、ドイツとの国境に近いストラスブール(人口約29万人)の事例でした。ストラスブールでは1878年に路面電車が開通していましたが、1960年に廃止。その後、1980年代後半には市内中心部に1日約30万台の自動車が流入して、慢性的な交通渋滞が発生。大気汚染も深刻化していました。そのなかで1989年にLRT導入を掲げる市長が当選。整備が大きく進展したのです。
具体的には、中心市街地を横断していた幹線道路を遮断し、郊外にバイパス道路を新設。 LRTだけを中心市街地を横断できる交通機関とすると同時に、市街地周辺部に大規模な駐車場を整備し、ここに車を置き、市街地内の移動はLRTを利用する「パーク・アンド・ライド」方式を導入しました。1994年から2000年にかけて4路線、線路延長約40km(63駅)でLRTが運行され、1990年からの10年間で公共交通機関利用者が43%増加するなど、大きな効果が出ています※。
日本でも進みはじめたLRT導入
日本でも路面電車の再評価の動きが進みました。先行したのは既存の路面電車への低床式の新型車両(LRV)の導入です。1997年の熊本市を皮切りに、広島市、鹿児島市、松山市、高知市、岡山市などで導入され、停留場のバリアフリー化や駅前広場への移設も進みました。一方、国はLRTの導入を後押しするため、計画策定や合意形成に関するノウハウをまとめた「まちづくりと一体となったLRT導入計画ガイダンス」を作成して2005年10月に公表。さらに「地域公共交通活性化再生法」を制定し、2007年10月に施行しました。地方自治体が地域の公共交通を維持するために主体的な役割を果たし、生活交通を確保する体制づくりの義務を負うことなどを定めたものです。また、LRTの新規整備を想定し、「列車を運行する主体(上)」と「線路・駅などの施設を保有・管理する主体(下)」を分ける、いわゆる「上下分離方式」と呼ばれる新たな施策も導入されました。この施策に先んじて日本における本格的なLRTへの取組の第一号となったのが、2006年に開業した富山市の富山ライトレールです。開業後、利用者が大幅に増加し、特に高齢者の外出の機会の創出にも大きな役割を果たしています。
また、宇都宮市でもLRT導入が進められ、第一弾としてJR宇都宮駅東口から芳賀・高根沢工業団地までの約15kmを結ぶ宇都宮ライトレールが2023年8月に開業しました。開業により国道の慢性的渋滞が大きく緩和されただけでなく、予想を2割以上上回る乗降客があり、途中駅のショッピングモールで買い物客が増えるなど、地域の賑わいの創造に大きな役割を果たしています。現在は宇都宮駅から西へ5km延伸する第2段階の取組が詳細設計に入っています。
導入はまずまちづくりの目標設定から
LRTは「新たな都市の装置」であり、単なる移動手段ではなく「まちづくりのツールのひとつ」という存在です。そのため、導入に当たってまず求められるのは、都市構造のコンパクト化をいかに実現するのか、中心市街地の活性化や駅前周辺の再開発、周辺地域の土地利用計画をどう定めるのかという、まちづくりの目標の明確化です。LRT導入の受け皿となる「まち」側のグランドデザインがあってはじめて、LRTをどう活用するのか、バス、鉄道などの既存公共交通や自動車交通との連携をどうするかといった具体的な検討ができるからです。富山市や宇都宮市のLRTの成功も、明確なまちづくりのビジョンがあったからこそ可能になったものでした。
パシフィックコンサルタンツにできること
パシフィックコンサルタンツは、交通基盤事業本部の鉄道部を中心に、道路部、交通政策部、建築部などが一体となってLRT事業に関わることで、新たなまちづくりのツールとしての計画づくりや基本設計、詳細設計などを総合的に受託しています。国のガイダンス制作に関わるだけでなく、宇都宮ライトレールについても設計JVの一員として、難関区間といわれた峰町立体橋や鬼怒川橋梁の詳細設計などを担当、その後も沖縄鉄軌道LRTをはじめとするフィーダー(支線)交通計画や、横浜上瀬谷ライン「ART(Advanced Rapid Transit:次世代都市交通システム)」 導入プロジェクトに携わっています。 パシフィックコンサルタンツは、これまでの取組で得られた知見と独自の総合力を活かし、さらに地方都市へのLRT導入を支援していきます。