2023年春に開業したひろしまゲートパークは、年間を通して開催される大小さまざまなイベントに多くの市民や観光客が訪れ、広島市中心部の活性化に大きな役割を果たしている。広島の顔となる「おもてなし」の空間という基本方針のもとで、財政に大きな負担をかけずに魅力的な公園をつくる事業をいかに成立させるのか――広島市の挑戦を、PPP/PFI事業に多くの実績を持つパシフィックコンサルタンツが、事業スキームの構築や事業者公募条件づくりをとおして支援した。中心で業務を担った中部支社 中部社会イノベーション事業部 プロジェクト推進室の村上潤一郎に話を聞いた。
INDEX
検討が続いた旧広島市民球場跡地の利用
ひろしまゲートパークの前身は、広島市民球場だ。日本のプロ野球が2リーグに分かれた1950年に広島カープが誕生し、1957年7月には照明設備付きの広島市民球場が完成した。設置場所が「広島平和記念都市建設法」(1949年施行)に基づいて整備された中央公園内であることにも示されているように、球場は平和記念都市にふさわしいスポーツの殿堂をという趣旨で計画され、賛同する多くの地元有力企業の寄付を財源にして建てられたものだった。
しかし多くの市民に愛されたその球場も、半世紀を経て老朽化が進み、観客席の狭さや選手ロッカールームなどの機能面でも使いにくさが目立つようになり、広島市は2004年、官民で組織する「新球場建設促進会議」を設置。現在地での建替えも一案となっていたが、JR広島駅近くの貨物ヤード跡地への移転新築を決定。新球場は2009年3月に竣工した。その後旧広島市民球場は閉鎖され、2012年にはライトスタンドの一部を残して解体工事も完了。しかし、跡地利用の議論はなかなかまとまらなかった。旧広島市民球場跡地へのサッカースタジアム建設を求める声が急増したからだ。広島市と広島県、広島商工会議所、サンフレッチェ広島の4者での話し合いが続き、他の候補地の検討も並行して進むなか、ようやく2019年2月に中央公園自由・芝生広場を新サッカースタジアムの建設地とすることが決定。それを受けて、市は中央公園全体について今後の活用を検討する有識者会議を設置して議論を始めるとともに、その一部である旧広島市民球場跡地の活用についての本格的な検討に着手した。

出典:「公募対象公園施設の場所」(広島市)
大きな商業施設はふさわしくない
旧広島市民球場跡地は、戦後復興のシンボルとして愛されてきた場所であり、中央公園内で最も原爆ドームや平和記念公園に近い場所でもある。そのため市は、ここには巨大な商業施設を建設すべきではなく、市民に開放されたイベント広場にしたいという意向を持っていた。しかし、どのような広場をどういう事業方式で実現するのか、維持管理はどう進めるのか――それらの検討については専門のコンサルタントに調査を依頼することが必要と考え、公募型のプロポーザルを実施。応募4社のなかからパシフィックコンサルタンツが選ばれ「民間活力導入可能性調査」を受託した。中心で業務に携わった村上が振り返る。
「旧広島市民球場跡地を中心とした中央公園内の約4.7haの敷地は、広島市中心部の一等地であり、隣接して広島の玄関口であるバスセンターもあります。年間を通してさまざまなイベントが開かれ、地元市民や観光客で賑わう魅力的な広場空間にしたいというのが市の意向でした」
広島市や広島市民が、この場所に巨大な商業施設はふさわしくないと考えるのは当然だった。しかし、ハードで集客して収益を上げるのではなく、イベントというソフトの魅力で年間を通して賑わいをつくりながら広場を維持していくというのは簡単ではない。通常の民間活力の活用は、ある程度の商業施設の建設が前提になる。それが民間企業にとっての事業参入の魅力になるからだ。しかし、このプロジェクトは、大規模な施設はつくらずに、いかに民間活力導入を成功させるかという新しいチャレンジだった。
イベント広場をどのようにつくるか
「民間活力導入可能性調査」はヒアリング調査から始まった。これは市が旧広島市民球場跡地をイベント広場として整備することについて、専門とする民間の事業者からアイデアや意見を聞くためのものだ。しかし、誰に話を聞くべきかということについては村上にアイデアがあった。
「事業のポイントは魅力的なイベント広場をどうつくるかであり、ソフトの力が問われます。市内でさまざまなイベント企画や実施に実績がある地元新聞社やテレビ・ラジオ局、広告代理店などをリスト化して市に提案しました」
新たな広場ではどのようなイベントが考えられ、どのような場所であったら実施しやすいのか、照明や音響などの設備はどのくらいの規模で準備する必要があるか、付帯する商業施設にはどんなものがあるとよいか......イベント実施を中心に詳細な意見交換を重ねた。市は当初、天候に関わりなくイベントが実施できるように広場全体に大きく屋根を架けることも検討していたので、それについても意見を求めた。
「話を聞いていくと、例えばボールを使うスポーツやバイクでジャンプするようなイベントを企画するときは、屋根の存在がかえって制約になってしまうという意見が多くありました。屋根を架けるにしても、それは急な雨のときに臨時に雨宿りをする程度のものにして、できるだけ開放的な空間を残し、フレキシブルに使えるようにしておいてほしい、というのが多くの民間企業の意向でした」
民間事業者の参加しやすい環境を整備
民間活力導入調査を受けて、旧広島市民球場跡地利用の検討は次のフェーズに移った。民間事業者のさまざまな声を集約しながら、具体的な事業方式の決定や公募の要件づくりなどを行い、事業者選定を行うことだ。これについてもパシフィックコンサルタンツが2年間にわたって事業者選定アドバイザリー業務を受託した。
「事業方式については、2017年6月の都市公園法の改正で新たに設けられたPark-PFIの活用を提案しました。この制度は、公園内に設ける飲食店などの収益施設と、園路・広場などの公園施設を民間が一体的に整備することを可能にするものです。公園管理者の財政負担を軽減しながら、より魅力的な公園をつくることができます。また、自治体に代わって公園の管理を民間に任せる指定管理者制度を併用することにして、管理にあたる民間企業が公園の使用許可権を持ち、利用料金収入も得られるようにしました。収入の一部を市に還元する"プロフィットシェア"の仕組みも導入しているので、市は管理運営業務や運営費を大幅に削減できるだけでなく、収入の還元も得られる仕組みです」
さらに公募条件についても、公募型サウンディングを実施し、応募のあった民間事業者約30社の意見や要望を踏まえ、より多くの事業者が魅力を感じて応募できるように細部を検討した。「さまざまなイベントが常時開催できる広場であること」「来訪者が気軽に立ち寄れる飲食施設は必ず設ける。そのほか、飲食以外の多様な賑わい施設の提案を求める。ただし建築面積は2,000㎡以下、延床面積は4,000㎡以下で2階建てまでとすること」などを決定。加えて「原爆ドーム及び平和記念公園周辺地区にふさわしい質の高いデザイン」「芝生やベンチなどのあるオープンスペース」「小さなイベントが開催でき、来訪者がくつろぐことのできる概ね1,000㎡の屋根付き空間の整備」「新たに建設するサッカースタジアムまでをつなぐ南北軸に沿った園路を整備し、原爆ドームを背後に望む風格ある園路として軸線を顕在化させる」といった要望事項を整理。また「指定管理者業務として、特定公園施設の維持管理、運営、利用促進の取組などを行う」「1日1,000人程度の来場を見込むイベントを年に60日以上開催する」「利用料金収入の市への一部還元」、そして「中央公園内の各施設と連携し、園内全体のマネジメントを担う協議会を立ち上げその構成員となること」などを求めた。
「民間事業者から有益な意見を数多くいただいていたこともあり、イベント広場のあり方や収益施設の規模や事業成立条件、指定管理業務に関する要件の決定などは比較的スムーズに詰めていくことができたのではないかと思います」と村上。2021年3月には正式に公募を開始。応募資料を検討し事業者を選定する有識者会議の立ち上げと審査、選ばれた事業者と市の契約締結までをサポートした。

©NEW HIROSHIMA GATEPARK

©NEW HIROSHIMA GATEPARK

©NEW HIROSHIMA GATEPARK

予想を上回る年間約127万人のイベント来場者
公募によって選ばれたのはNTT都市開発を代表法人とする民間事業者グループ「NEW HIROSHIMA GATEPARK」で、構成メンバーには中国新聞社や広島バスセンター、広島電鉄をはじめとする地元の有力企業が名を連ねた。村上も「この場所につくる広場の担い手として理想的なプレーヤーが名乗りを上げてくれた」と振り返る。その後、詳細設計を経て2022年に着工し、2023年3月31日には、大規模イベントが可能な約6,500㎡の広場を囲むように8棟の商業施設がならぶ「ひろしまゲートパーク」が誕生した。
初年度は1日の来場者が1,000人以上のイベントが年133日、1,000人未満のイベントが年110日開催され、開業からの1年間のイベント来場者数は、予想を大きく超える約127万人にのぼった。また2年目以降もさまざまなイベントで賑わいが継続し、広島中心部の新たな交流とくつろぎのスポットとして人気を集めている。
もともと建築を学び、まちづくりに関わりたいと考えてパシフィックコンサルタンツに入社したという村上。建築やまちづくりだけでなくPPP/PFIの専門部署をもち、財務やPFI法・都市公園法などの法務にも精通した技術者を擁するパシフィックコンサルタンツだからこそ、この事業をバックアップすることができたと振り返る。
「人口減少が進む中、公共施設跡地などの公共空間において民間活力を導入して地域を活性化する事業は、今後も地方創生の大きなテーマだと思います。可能性調査段階からひろしまゲートパークの誕生に関わった経験を活かして、これからも公共空間のPPP事業に関わり、地域の賑わい創造に貢献していきたいです」と抱負を語った。