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なぜ今、自転車なのか?

環境・ 健康 ・観光・防災を支える次世代モビリティへの転換

多くの人が気軽に利用できるだけでなく、二酸化炭素を出さず、健康増進に寄与し、さらに災害時の交通機能の維持に役立つなど、さまざまな魅力をもつ自転車。その活用推進は、持続可能な社会の実現に大きな役割を果たします。国の「第3次自転車活用推進計画」の策定支援を行うとともに、多くの自治体の自転車活用施策の立案にも携わっているパシフィックコンサルタンツ 社会イノベーション事業本部 交通政策部 交通計画推進室 チーフコンサルタントの栗栖 嵩と同室の増池 由有に話を聞きました。

INDEX

見直される自転車の価値

近年、世界各国では、都市計画や交通計画など様々な分野で自転車を活用した政策が加速しています。日本でもこうした世界的な潮流を背景に、自転車の価値が改めて見直されています。

自転車の街に変貌したフランス・パリ(リヴォリ通り)

現代の自転車の原型は140年近く前にイギリスで発明されたといわれ、長い歴史をもっていますが、いま、改めてその魅力に注目が集まっています。背景にあるのは、CO2の排出抑制が強く求められていること。ガソリン自動車による移動や輸送に依存した都市のあり方を見直すことは、2050年のカーボンニュートラル達成に欠かせない要素であり、自転車はその有力なツールの1つです。

もともと、日本は自転車の活用が進んでいる国の一つといわれています。自転車保有台数は約6,870万台(約2人に1台)と非常に多く、また自転車分担率(徒歩、自動車、公共交通機関などのすべての交通手段のなかで自転車が占める割合)も約12%と高い水準にあります。

人口当たり自転車保有台数の国際比較
人口当たり自転車保有台数の国際比較
自転車分担率の国際比較
自転車分担率の国際比較
出典:「生活道路の交通安全対策と自転車活用推進施策」(国土交通省道路局 新道路研究会2025年8月1日 環境安全・防災課 道路交通安全対策室)

しかも、地震をはじめとする自然災害が多発する日本では、自転車が災害時の交通機能の維持に大きな役割を果たします。また、自動車の運転に不安のある高齢者にとって自転車は手軽で便利な移動手段にもなり、健康増進や観光に果たす役割も大きなものがあります。

第3次自転車活用推進計画

国は、自転車のいっそうの活用推進に向けて本格的な取組を進めています。その出発点となったのが2017年5月に施行された「自転車活用推進法」でした。それに基づいて第1次、第2次の計画が策定・実行され、2026年5月には、当社も策定支援に携わった「第3次自転車活用推進計画(期間は2030年度まで)」が閣議決定されました。

最新の第3次計画は、これまでの1次、2次の延長とはいえない、さまざまな特徴があります。その1つは、従来なかった「ビジョン」が冒頭で明示されたことです。これは自転車活用により目指す社会や自転車が貢献すべき姿を示したもので、「安全・快適に自転車を活用できる環境を実現することで、自転車交通の役割を拡大し、人と地域が調和した豊かに暮らせる持続可能な社会を目指す」という理念が明記されました。そして、人や地域をつなぎ、生活の質や地域の持続可能性を支える自転車を、2030年には徒歩や公共交通とならぶ重要な交通手段として確立させることとしています。このように、本計画で初めてビジョンが示され、いつまでに、どのような姿を目指して自転車活用を図っているのかということがより明確化されました。

第3次自転車活用推進計画のビジョン
第3次自転車活用推進計画のビジョン
出典:「自転車活用推進計画について」(国土交通省 GOOD CYCLE JAPAN HP)

続けて表に示す5つの目標が掲げられています。

第3次自転車活用推進計画(2026~2030年度)の5つの目標

5つの目標具体的な指標
【目標1】安全で快適な走行環境等の整備による良好な自転車利用環境の実現・自転車活用推進計画を策定した市区町村数
・自転車ネットワーク計画を策定した市区町村数
・自転車通行空間の整備延長
【目標2】自転車事故のない安全で安心な社会の実現・ヘルメット着用率
・自転車損害賠償責任保険等の加入率
【目標3】自転車交通の役割拡大による良好な地域の移動環境の形成・シェアサイクルの導入市区町村数
・「自転車通勤推進企業」宣言プロジェクトの宣言企業・団体数 ・自転車の安全基準に係るマークの普及率
【目標4】自転車利用の促進による活力ある健康長寿社会や脱炭素社会の実現・サイクリングを通じた運動・スポーツの機会創出(運動・スポーツとしてのサイクリング行動者率、運動・スポーツ実施率、運動習慣者の割合)
・健康寿命の延伸
・デコ活応援団(官民連携協議会)の中で公共交通・自転車・徒歩での移動に取組む会員数
・通勤目的の自転車分担率
【目標5】サイクルツーリズム等の推進による観光地域づくりや地域の活性化 ・先進的なサイクリング環境の整備を目指すモデルルートの数
・国内旅行(宿泊・日帰り)においてバイク・自転車を利用した旅行者率

この目標も改めて整理されたもので、「自転車交通の役割拡大による良好な地域の移動環境の形成」というように、より具体的に示され、また従来なかった「脱炭素社会の実現」も加えられました。第1次から第3次まで、順次見直されてきた自転車活用推進計画ですが、第3次計画は自転車活用推進を新しいフェーズに引き上げようという国の意欲が示されています。

歩道の通行を認めてきた日本

自転車活用推進を新しいフェーズに引き上げるために必要なことの一つが「自転車は車道通行が原則」を当たり前にすることです。

そもそも、日本における自転車利用には大きな特徴があります。まず乗り物としての特徴です。欧米では頑丈で早く移動できる交通手段として実用車の側面が強いのですが、日本では女性でも乗り降りしやすい形状で、サドルの位置が低く楽な姿勢で、ゆっくりと走れる、さらには買い物かごと両立てスタンドの付属した"ママチャリ"が独自に発展してきました。そのため、女性や高齢者が移動手段として自転車に乗ることが一般的で、自転車の利用目的も通勤・通学、買い物、送迎、レジャーなど、幅広い目的で利用されています。

もう一つの特徴は歩道を走れるということです。これも諸外国ではほとんど見られない特徴です。もともとは日本でも、自転車は車道を走る存在でした。しかし、モータリゼーションの急速な進展で交通事故死亡者数が急拡大したことを背景に、交通安全上のやむを得ない緊急避難的な措置として、1970年の道路交通法改正によって自転車が歩道を通行することが認められたのです。

しかし、歩行者と自転車が歩道で混在することは危険を伴います。実際、警察庁の調査をみると、自転車関連の事故件数は総数としては減少傾向にあるものの、2020年頃からは7万件前後で横ばいになっており、全交通事故に占める自転車事故の構成比や自転車対歩行者の事故発生件数は、いずれも増加傾向にあります。

事故・違反の発生状況
出典:『自転車交通安全』「事故・違反の発生状況」(警察庁 自転車ポータルサイト)

「自転車は原則車道」への転換

歩行者と自転車の事故への対応などが課題となるなか、国は2007年に道路交通法を改正、自転車は「車両」であり「車道通行が原則、歩道通行は例外」ということを改めて明確にしました。そして自転車が歩道を通行できるのは次の5つのケースに限られると明示しました。

①道路標識や標示がある
②運転者が児童・幼児である
③運転者が高齢者である
④身体に障害がある
⑤車道や交通の状況からやむを得ない場合

さらに2012年には「安全で快適な自転車利用環境創出ガイドライン」を策定。2023年4月にはヘルメット着用が努力義務として課され、2026年には自転車の交通反則通告制度(いわゆる青切符)が導入されました。2007年の道路交通法改正以降、一貫して目指されているのは、自転車の歩道通行を「原則として車道」に戻すことなのです。

2026年の改正道路交通法では、自転車も車両の仲間として交通ルールを遵守し、自転車の交通事故の抑止等を図るために「青切符」が導入されました。あわせて、自動車に対しても、自転車の右側を通過する際に十分な間隔がない場合には、その間隔に応じた安全な速度で進行することが義務付けられました。自転車の悪質・危険な違反の取締りを強化するだけでなく、自動車に対しても車道を走る自転車を車両として認識することを求め、自転車と自動車が車道上で安全・安心して共存できる社会にしていこうというメッセージを送るものになっています。

もちろん、共存を可能にするためには、現在の車道を、自転車を含めたすべての道路利用者が通行しやすいものに整えていくことが必要です。国は「自転車道」や「自転車専用通行帯」「車道混在の場合の矢羽根型路面標示」など、自転車の車道通行を原則とした自転車通行空間の計画的な整備を強化し、第3次計画が終了する2030年度末までに、現在の整備延長9,841km(2024年度速報値)を12,000kmに延ばす計画を明らかにしています。

着実に増えている自転車交通空間
整備形態別の自転車通行空間延長の推移
着実に増えている自転車交通空間
出典:「生活道路の交通安全対策と自転車活用推進施策」(国土交通省道路局 新道路研究会2025年8月1日 環境安全・防災課 道路交通安全対策室)

自転車活用の広がりが暮らしと地域を変える

国や自治体では自転車の走行環境を整えると同時に、さまざまな取組を進めています。

その1つが自転車を所有することなく、スマホ一つで「乗りたい場所」から「いつでも使え」「どこでも返却できる」というシェアサイクルの普及です。生活の利便性向上や観光振興などの目的で整備が進み、また、シェアサイクルポートを駅を中心に整備することで、公共交通との連携を強めることも目指されています。

シェアサイクルの本格実施都市数は2025年3月末時点で323都市(ほかに社会実験81都市 )にのぼり、ポート数も2024年度末時点では全国で30,000箇所を超えて、前年度比で約5割増となりました

※ 出典:「シェアサイクルの動向(確報版) 国土交通省 都市局 街路交通施設課2026年2月

さらに、自転車を分解せずにそのまま持ち込めるサイクルトレインの運行も実施路線数が2024年度で74社145路線にまで拡大しました。常時実施はまだ1割程度ですが、区間や時間帯を柔軟に設定することで着実に拡大しています。

観光振興という視点での取組も進み、日本が世界に誇るサイクリングルートとして国が指定する「ナショナルサイクルルート」は6ルートを数え、現在、新たに7ルートが審査に入っています。

当社が整備計画の立案に携わったナショナルサイクルルート「つくば霞ヶ浦りんりんロード」

また、今後の自転車活用の推進にとって重要だと考えられているのが、子どもたちが自転車の楽しさを学べる場づくりです。自転車の使用年齢別割合を2012年と2021年で比較した日本自転車産業振興協会の調査によれば、50歳以上の割合が29.5%から53.5%へと大幅に増加しているのに対して、9歳以下と10歳代の割合は25.4%から15.4%へと大きく減っています。

このままでは成人しても自転車に乗らないという人が増えることになりかねません。子どもの頃から自転車に触れて楽しい経験をすることが大切であり、それが10年後の自転車交通の役割拡大の裾野をつくることにつながります。

※ 出典:「⾃転⾞保有並びに使⽤実態に関する調査報告書」自転車産業振興協会 2022年3月

パシフィックコンサルタンツにできること

これまでパシフィックコンサルタンツは、国土交通省が進める「自転車の活用の推進」に関し、交通政策分野を中心に道路やDX推進といった各分野の技術者と連携しながらさまざまな支援を行ってきました。国の第3次自転車活用推進計画や多くの地方公共団体の自転車活用推進計画の策定支援を行うだけでなく、ナショナルサイクルルートをはじめとしたサイクルツーリズムに関わる検討、自転車の安全教育やイベントの開催支援などを担ってきました。

2017年には旅×自転車の情報メディア「TABIRIN(たびりん)」を自社で独自に開発、自治体などが推奨するサイクリングコースやサイクリングマップを紹介し、サイクリングを楽しむ人々と地域を結ぶことで、より楽しく、より快適に自転車の旅をサポートすることを目的に運営を続けています。

便利で楽しい情報を提供する旅×自転車のサイクリング情報メディア
便利で楽しい情報を提供する旅×自転車のサイクリング情報メディア
「TABIRIN(たびりん)」はパシフィックコンサルタンツが独自に制作・発信。https://tabi-rin.com/

また、自転車関連業務を中心で担う栗栖は、学生時代からサイクリングや自転車ロードレースに取り組み、レースでの優勝経験に加え、「弱虫ペダルサイクリングチーム」や国内プロチームへの所属、さらにはアマチュアの世界選手権など国際大会への出場経験もあるメンバーです。政策立案や計画策定を担う一方、自らも自転車利用者として国内外のさまざまな道路環境を走り、自転車の楽しさや利便性だけでなく、安全性や走行環境の課題も体感してきました。行政の視点と利用者の視点の双方を持つことを強みとし、その知見を生かしながら、パシフィックコンサルタンツにおける自転車活用推進チームを牽引しています。

2019年 UCIグランフォンド世界選手権(ポーランド)のゴールシーン

国土交通省の社会資本整備審議会(道路分科会)は2020年に新たなビジョン「2040年、道路の景色が変わる」を公表しました。「道路政策の原点は『人々の幸せの実現』」にあり、「道路にコミュニケーション空間としての機能を『回帰』させること」を新たな道路の姿として掲げた画期的なもので、自転車もその大きなビジョンのなかにあらためて位置づけ、活用を進めることが求められています。

2027年には世界最大級の自転車・都市計画に関する国際会議「ベロシティ(Velo-city)」が、日本で初めて、愛媛県で開催されます。世界の注目が日本に集まるこの機会も積極的に活かしながら、パシフィックコンサルタンツはこれからも自転車活用推進に貢献していきます。

栗栖 嵩

KURISU Takashi

社会イノベーション事業本部
交通政策部 交通計画推進室
チーフコンサルタント

2012年入社。交通政策やITSに関わるまちづくりに従事。特に自転車関連業務を中心とし、政府計画である「第3次自転車活用推進計画」の策定業務を牽引する等、国から自治体、民間まで幅広い業務に対応。また、当社の独自事業である旅×自転車の情報メディア「TABIRIN」の企画・立ち上げに参画。業務の傍ら、自転車ロードレースの選手としても活動し、国内プロチーム所属やアマチュアの世界選手権に3度出場(フランス、イタリア、ポーランド)。技術士(総合技術監理部門)、技術士(建設部門一道路)。

増池 由有

MASUIKE Yu

社会イノベーション事業本部
交通政策部 交通計画推進室

2013年中途入社。自転車活用推進計画等の公共交通計画の策定支援、次世代モビリティの社会実験業務等に従事。近年は、自転車関連業務を中心に、ナショナルサイクルルートの整備計画、自転車通勤導入ガイドラインの検討、サイクルツーリズムに関するイベント実施支援等の業務に携わっている。技術士補(建設部門)。

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