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盛土規制法とは?

全国の自治体を支える「盛土DX」を専門家が解説

2023年5月26日、「宅地造成及び特定盛土等規制法」(通称「盛土規制法」)が施行されました。この法律は1961年に成立した「宅地造成等規制法」を、約60年ぶりに全面的に改正したものです。地方公共団体の役割は非常に大きなものとなり、新たな管理システムを導入するなど、「盛土DX」の取組が欠かせません。パシフィックコンサルタンツで盛土規制法の関連事業を支援するプロジェクトマネジメント事業本部 プロジェクト統括部 盛土規制法関連プロジェクトチームの門田 浩一、南 智好、三田 亮平(九州本社 社会イノベーション事業部 情報政策室)、十川 尚廣(現・プロジェクトマネジメント事業本部 PM/CM事業部 国交省他事業監理室)の4人に話を聞きました。

INDEX

盛土規制法制定の背景

2021年7月3日、梅雨前線に伴う大雨により熱海市伊豆山地区を流れる逢初(あいぞめ)川で土石流が発生、全壊家屋53戸、死者27名(うち災害関連死1名)、行方不明者1名(2022年6月24日現在)という大災害となりました。 注目を集めたのは、土石流の起点付近にあった盛土です。崩落した約55,500㎥の土砂のほとんどがこの盛土に由来するものだったからです。大きな被害に至った原因や盛土の管理状況については議論が続いていますが、危険な盛土に関する規制が必ずしも十分でないエリアが存在していたことを重く見た国は、違法な盛土や不適切工法の盛土、さらにその不十分な管理によって発生する土砂災害の防止は喫緊の課題であり、二度と同様の災害を起こしてはならないという強い決意で対策に臨みました。

※ 逢初川土石流の発生原因調査検証報告書 令和4年9月8日 静岡県

崩落発生直後の発生
崩落発生直後の発生
出典:逢初川土石流の発生原因調査検証報告書(令和4年9月8日 静岡県)

その中心となったのが、1961年に制定された「宅地造成等規制法」(以下、旧法)を抜本的に改正し、名称も「宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)」へ変更したことです。旧法は1950年代後半から急増した宅地造成に伴って崖崩れや土砂災害が増えたことから、災害防止のために必要な規制を行うことを目的に制定されたものです。都道府県知事や政令指定市・中核市・特例市の長が「宅地造成工事規制区域」を指定。区域内の宅地造成工事は知事の許可を必要とし、その工事は政令で定める技術基準に従ったもので災害を防止するための必要な措置が講じられたものでなければならない、としたのです。

その後、1995年の阪神・淡路大震災や2004年の新潟県中越地震で崩落の危険性のある盛土造成地の存在が明らかになったことから、耐震性を確保するための技術基準を明確にするなどの一部改正が2006年に行われましたが、今回の改正は旧法制定以来の抜本的なものになりました。

法改正のポイント

主な改正点は、次の4点です。

(1)規制対象を拡大 ・宅地、農地、森林等の土地の用途にかかわらず、盛土等により人家等に被害を及ぼしうる区域を都道府県知事等が規制区域として指定する
・農地や森林の造成や土石の一時的な堆積も含め、規制区域内で行う盛土等を許可の対象とする
(2)安全性の確保 ・盛土等を行うエリアの地形・地質等に応じて災害防止のために必要な許可基準を設定
・許可基準に沿って安全対策が行われているかどうかを確認するため、「施工状況の定期報告」、「施工中の中間検査」、「工事完了時の完了検査」を実施
(3)責任の明確化 ・盛土等が行われた土地について、土地所有者等が安全な状態に維持する責務を有することを明確化
・災害防止のため必要なときは、土地所有者等だけでなく、原因行為者に対しても、是正措置等を命令できることとする
(4)罰則の設定 ・無許可行為や命令違反等に対する罰則を強化
(最大で懲役3年以下・罰金1,000万円以下・法人重科3億円以下)

旧法に基づく規制区域(宅地造成工事規制区域)の面積は、国土の約2.7%に過ぎませんでした。しかし、改正後の盛土規制法では、宅地以外の森林や農地も規制の対象です。また、人家がまとまって存在し危害が及ぶとみられるエリアについては、隣接・近接する区域も含めて「宅地造成等工事規制区域」に指定、さらに、市街地や集落等から離れていても、地形などの条件から人家に危害を及ぼしうるエリアについては「特定盛土等規制区域」に指定されることになりました。国は指定を行う都道府県に対して「リスクのあるエリアは、できる限り広く規制区域に指定すること」を呼びかけています。実際、指定作業は2025年度で約9割が完了していますが、規制区域は国土の7~8割へと一気に拡大することになるとみられます。また、規制対象となる盛土には土捨てや一時的な堆積も含まれることになり、全国一律の基準による包括的な規制が行われることになっています。

盛土規制法の規制対象地域
盛土規制法の規制対象地域は一気に拡大している
既存資料をもとに当社にて一部加筆
出典:盛土規制法の概要 3.令和4年(2022)改正の概要(国土交通省)

宅地造成等工事帰省区域と特定盛土等規制区域のイメージ
宅地造成等工事帰省区域と特定盛土等規制区域のイメージ
出典:盛土規制法パンフレット 一般用(国土交通省)

新設・既存の両方の盛土について膨大な手続きが発生

規制区域や規制対象の拡大と同時に、盛土の許可や管理についても厳密な手続きが求められることになりました。

新設盛土事業

規制区域内で土地の形質の変更(盛土・切土)や一時的な土石の堆積を行う場合、次のような手続きが必要になります。

1.許可申請前
  • 土地所有者全員の同意
  • 説明会などによる周辺住民への事前周知
2.工事許可申請・許可
  • 定められた安全基準に適合している/工事主が必要な資力・信用を有する/施工者が必要な能力を有する
  • 都道府県知事等の許可がある
3.工事着手
  • 許可証の提示
  • 3カ月ごとの定期報告
  • 中間検査実施
  • 工事完了後の完了検査受検
4.経過観察
  • 変動リスク等に応じた頻度での経過観察

既存盛土

規制区域内の既存盛土については次のような対応が必要になります。

1.既存盛土分布調査
  • 造成前後の地形データや衛星データの収集
  • 盛土等の抽出
2.応急対策の必要性判断
  • 必要な場合
    →シート被覆など応急対策を実施後、STEP3へ
  • 不要な場合、STEP3へ
3.安全性把握調査優先度評価
  • 盛土等のタイプに応じた保全対象との離隔の確認
  • 盛土等の状況を現地で確認
  • 優先度(「当面の間、対応不要」「経過観察」「安全性把握調査が必要」の3種)を区分
4.安全性把握調査を実施
  • 地盤調査、安定計算を実施。安全性が確認された場合→経過観察に移行
  • 安全対策が必要な場合は、STEP5へ
5.安全対策を実施
  • 盛土等に伴う災害を防止するための対策を実施し、経過観察に移行

自治体に求められる許可・管理業務

「2度と熱海市伊豆山地区のような災害を起こさない」――という国の強い意志を受けた盛土規制法の施行は、従来の規制の範囲や対象が一気に拡大したうえに、厳格な手続きを求めるものになったことから、土地所有者や開発者、許可や管理に当たる自治体にさまざまな新規の取組を求めるものになっています。

特に都道府県、政令指定都市、中核市の合わせて129の自治体は、区域内の安全確保のため、「規制区域」を指定して危険な盛土を規制する権限と義務を負っています

新たに分布調査から行うことが必要な既存盛土は大規模盛土造成地だけで約51,300箇所に上るといわれ、それ以外の既存盛土も約36,000箇所以上存在すると見られています。必要とされる安全度把握調査は、大規模盛土造成地については着手割合が2025年度末で60%、その他の既存盛土については2032年度の完了に向けて順次着手されているといわれますが、膨大な業務量となっています。並行して、定期的な経過観察や大地震や豪雨時に際して必要になる臨時の調査もあります。

※ 出典:盛土規制法に基づく『規制区域の指定』の進捗状況(林野庁)

さらに、各自治体には、既存盛土への対応だけでなく、新規の盛土事業の申請受付が必要になります。事前相談も予想され、受付後には難易度の高い審査が必要になったり、是正を求めたりすることも考えられます。許可書の交付後は、中間検査や完了検査、継続的な経過観察も実施しなければなりません。新規の申請件数は全国で少なくとも年間約1万件程度はあると推定され、単純計算でも1自治体につき100件近い申請を受け付けることになります。また、受け付けたものは、継続的な管理が必要な既存盛土として累積していくので、盛土関連業務は年々拡大していくことになります。

求められる「盛土DX」の推進とパシフィックコンサルタンツの取り組み

盛土規制法関連業務は、その複雑で大量の業務量を考え、DX化を着実に進め、効率的な申請受付や審査、漏れのない確実な管理を行うことが必要です。従来のような1現場ごとの紙ベースのファイル管理では、同時並行で、しかもばらばらなフェーズで進む業務を効率的に進めることはできません。また、既存の盛土や擁壁のチェックも、現場で写真を撮り、チェックシートに手書きで記入して持ち帰って整理するというスタイルでは、一気に増える件数を処理することができません。この場面でもDX化は必須です。

パシフィックコンサルタンツは、国が進めてきた盛土規制法整備事業について、法令や技術基準策定などの業務を支援すると同時に「盛土等防災マニュアルの解説:新設盛土」「盛土等の安全対策推進ガイドライン及び同解説:既存盛土」「不法・危険盛土等への対処方策ガイドライン」「盛土規制法パンフレット:一般用事業者用」などの作成も進めてきました。

さらに、その過程で積み上げた知見を活かし、自治体向けに盛土規制法の許可申請受付業務に活用できる「盛土等情報管理システム」の開発・提供を行っています。

盛土規制法関連では多くの手続きがあり、それぞれについて様式の異なる書類があって、それらが案件ごとに異なるスケジュールで進んでいきます。そもそも申請受付にしても、まず事前の相談があり、書類上の不足や不備を少しずつ改めたり、関連する法令なども参照しながら、これなら許可を出せるというレベルに高めていくプロセスが必要です。それらをすべてデジタル化してシステム上で管理できる技術開発を行いました。

開発にあたっては、15以上の自治体に対する企画提案等を行う中で、現場の要望を捉えてより使いやすいシステムとなるよう改良を繰り返してきました。また、完成した盛土等情報管理システムは、自治体の導入方針や運用方法を踏まえて、サブスクリプション型のサービスとして提供する方式と、技術開発から得られた知見を活かして自治体毎に独自開発する方式を採用しました。これにより、自治体のニーズや予算に応じたきめ細やかな利用形態を提供しています。

増加が想定される審査業務についても、審査担当部署の業務を支援する新規事業を立ち上げました。また、測量アプリ会社やグループ会社のICTソリューション企業である株式会社トリオンと共同で、スマートフォンを活用したミニアプリ「宅地擁壁健全度診断システム」を開発し、調査業務のDX化をサポートしていきます。

もちろん盛土規制関連業務のスムーズな進行のためには、開発事業者など申請を行う民間事業者への支援も欠かせません。その一環としてパシフィックコンサルタンツは、新規盛土を計画する開発事業者やデベロッパーが、盛土の位置や形状を三次元で手軽に検討できるWebアプリの開発を進めています。

盛土規制は、2023年に施行された盛土規制法によって、従来とは大きく異なるものになっています。国の総力を挙げた安全対策への取組が実効性のあるものとなり、国民生活の安心と安全につながるよう、パシフィックコンサルタンツも全力で支援していきます。

門田 浩一

KADOTA Hirokazu

プロジェクトマネジメント事業本部
プロジェクト統括部 盛土規制法関連プロジェクト
統括プロジェクトマネージャー

1992年入社。宅地防災・盛土規制法関連の政策・技術指針作成、東北地方太平洋沖地震・熊本地震等による被災宅地復旧対策検討、休廃止鉱山集積場耐震化検討業務等に従事。地盤技術部長後、2023年より統括プロジェクトマネージャー。地盤工学会理事、建コン土質・地質専門委員会委員長等を歴任し、現在は地盤品質判定士会審査部長・北陸支部長等。盛土造成地の変動被害再現解析等の地盤工学ジャーナル論文をはじめ、盛土規制法に関わる執筆・講演など多数。博士(工学)、技術士(建設部門)(総合技術監理部門)、1級土木施工管理技士、地盤品質判定士。

南 智好

MINAMI Chiyoshi

プロジェクトマネジメント事業本部
プロジェクト統括部 盛土規制法関連プロジェクト

2015年入社。以前は、測量コンサルにて調査・設計部隊に所属し、ダム調査や道路拡幅調査設計等に携わった。2015年から2023年までは、地盤技術部に所属。GISを用いた地形解析業務や地質CIM作成のほかに、大本山永平寺の森林保全業務等に携わった。2023年からは、盛土規制法関連PJに所属し、盛土関連の支援アプリ開発や森林分野での新事業への事業展開のため、実証試験や技術開発に取り組む。測量士。

三田 亮平

SANDA Ryohei

九州本社
九州SI事業部 情報政策室 室長

2002年入社。東京の本社で11年間勤務。防災分野の情報システムを専門とし、国土交通省等の防災システムや砂防情報システム等の検討、設計、構築に取り組む。2013年に九州本社に異動後、火山砂防システムの検討、設計に携わる。その後、自動運転サービスの計画から導入に至るまでのマネジメント業務を実施。現在は、盛土システム、建設DX等の業務に取り組んでいる。技術士(総合技術監理―建設)、技術士(建設部門ー河川、砂防及び海岸・海洋)、技術士(情報工学部門ー情報システム)、情報処理安全確保支援士、RCCM(電気電子)。

十川 尚廣

TOGAWA Naohiro

プロジェクトマネジメント事業本部
PM/CM事業部 国交省他事業監理室
チーフプロジェクトマネージャー

2009年入社。東北地方太平洋地震、熊本地震、西日本豪雨等の被災宅地復旧対策調査・検討、発注者支援・PM/CM業務に従事。地盤技術部技術課長後、2025年よりチーフプロジェクトマネージャー。盛土規制法関連PJでは、宅地擁壁健全度診断システムアプリ開発等により、現地作業のDX化にも取り組む。地盤工学会技術普及委員、地盤品質判定士会北陸支部事務局長。現在はPM/CM事業部に所属し、能登半島地震の復興CM業務に従事。RCCM(地質)、1級土木施工管理技士、防災士。

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