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土砂災害から企業の施設や工場を守る

気候変動とともに増大する脅威にいかに備えるか

近年は短時間の強い雨による土砂災害が多発、1件あたりの人的被害も増加傾向にあります。企業の従業員やその家族、施設や工場をいかに土砂災害から守るかは事業継続にとって大きなテーマです。しかし、具体的に何から手を付けるべきかということになると、よくわからないという声が少なくありません。パシフィックコンサルタンツのデジタルサービス事業本部 防災事業部で、企業の防災計画立案などの支援、事業創発や土砂災害情報サービス「どしゃブル」の開発・運用を担当する五十嵐孝浩と同部レジリエンス推進室の平野竜貴に話を聞きました。

INDEX

増加が続く土砂災害。インフラ施設にも被害が広がっている

土砂災害の発生件数は明らかに増えています。国土交通省が発表した2024年の土砂災害発生件数は1,433件。統計が始まった1982年から2023年までの1年間の平均発生回数は1,108件で、これを大きく上回っています。しかも多くの人が実感している通り、これまでなかったような大雨が各地で降るようになりました。1時間降水量100mm以上の雨が降ることは極めて希でしたが、最近は珍しくありません。数字にもはっきり現れており、統計開始からの最初の10年間(1976年~1985年)は、平均年間発生回数は約2.2回ですが、直近10年間(2015年~2024年)では約4.0回と1.8倍になっています。

また、こうした豪雨発生の頻発化に伴って、上流で流出した土砂が中下流で堆積して河床を上昇させ、土砂と洪水が相まって氾濫するという「土砂・洪水氾濫」の発生が増えています。土砂・洪水氾濫は、住民の生命だけでなく道路や鉄道などインフラ施設に大きな被害をもたらし、地域の社会・経済活動に長期にわたって影響を及ぼします。さらに市街地に広く土砂が堆積すれば救助活動や復旧作業が妨げられ、影響が長期に及ぶことになります。

全国(アメダス)の1時間降水量80mm以上、100mm以上の年間発生回数
出典:「全国(アメダス)の1時間降水量80mm以上、100mm以上の年間発生回数」(気象庁)

土砂災害の分類

土砂災害には、3つの分類があります。斜面の地表に近い部分が雨水の浸透や地震等でゆるんで突然崩れ落ちる「がけ崩れ」、斜面の一部あるいは全部が地下水の影響と重力によってゆっくりと下に移動する「地すべり」、山腹や川底の石、土砂が長雨や集中豪雨によって一気に下流へと押し流される「土石流」です。がけ崩れが全体の約7割を占めますが、いずれの場合も地中にたくさんの雨が貯まったところに強い雨が降ることで発生します。2010年に一部改正された土砂災害防止法では、都道府県知事に対して土砂災害のおそれのある地域を土砂災害警戒区域・土砂災害特別警戒区域として指定し、必要な対策を講じることを求めました。2024年12月31日の時点では、土砂災害警戒区域は全国で69万8,721箇所(うち土砂災害特別計画区域が60万462箇所)となっています。

土砂災害警戒区域と土砂災害特別警戒区域

定義

区市町村の役割と制限

土砂災害警戒区域
(イエローゾーン)

土砂災害が発生した場合、住民の生命又は身体に危害が生ずるおそれがあると認められる区域。過去の土砂災害による土砂の到達範囲などを勘案して設定される。

区市町村は地域防災計画で土砂災害に関する情報の収集及び伝達、予報または警報の発令及び伝達、救助その他必要な警戒避難体制に関する事項を定める。区市町村長は、警戒避難に必要な情報をハザードマップなどの印刷物として配布し、住民に周知しなければならない。また、不動産取引において、宅地建物取引業者は土砂災害警戒区域である旨を記載した重要事項説明書を交付し、説明を行わなければならない。

土砂災害特別警戒区域
(レッドゾーン)

土砂災害警戒区域のうち土砂災害が発生した場合、建築物に損壊が生じ住民の生命又は身体に著しい危害が生ずるおそれがあると認められる区域。

土砂災害警戒区域で行われることに加え、特定開発行為に対する許可制、建築物の構造規制等が行われる。

国土交通省 ハザードマップポータルサイトで詳細な地図を掲載

土砂災害対策の課題

土砂災害の発生件数が増加傾向にあるなか、住民の生活の安全や企業活動の継続のために警戒を強めることが求められていますが、土砂災害への備えはなかなか難しい面があります。その理由の1つは災害発生の切迫が目に見えないことです。河川の氾濫は刻々と水位が上がっていくので、誰の目にも危険が切迫していることがわかります。ところが土の中にどれくらいの水がしみ込んでいるかは見えません。そのため危機感が湧かず、ギリギリまで様子を見てしまうということが起こります。

土砂災害対策を難しくする理由のもう1つは、ハード面での対策の難しさです。洪水対策であれば、浸水が想定される場所を特定し、止水板や土嚢を準備するといったことができます。しかし土砂災害はいったん発生すれば規模が大きく、社屋や施設周辺で被害を食い止めることは簡単ではありません。発生源に近いところでの大がかりな土木工事が必要となることが多く、企業単独での取り組みには限界があります。 そのため基本的な対策としては、会社施設の新設や移転などに際しては、候補地が土砂災害警戒区域や特別警戒区域であるかどうかをハザードマップで確認し、避けることがまず挙げられます。ただし警戒区域の指定は人の安全や資産の保全のためのものであり、人が居住していない山地などは災害発生が予想されても指定の対象から外されていることがあります。送電や通信施設などを山地に設置しようとする場合は、ハザードマップでは事前の確認として不十分なものになる可能性があることは知っておく必要があります。 そのほかにハード面で企業が検討する土砂災害対策として考えられるのは、土砂の流入を最小限にするための開口部周辺の改修、建物の倒壊を防ぐ構造の補強といったことになります。また、重要資産についてはできるだけ崖から離れた場所に置いたり、鉄筋コンクリート造の建物であれば2階以上に保管・設置するといったことも有効です。

土砂災害対策はソフト面の強化がポイントに

土砂災害に対するハード面の対策が企業単独では難しいという事情の下で、自社施設や従業員を土砂災害から守るために有効な対策は、平時・災害切迫時のいずれでもソフト面を充実させることです。

まず平時では、大雨の接近などの情報収集体制の強化、会社施設周辺の危険箇所の把握、従業員の自宅周辺や通勤ルートの危険性の把握などを行います。こうした準備があれば、土砂災害発生の切迫をより具体的に把握しながら、安全なルート・手段での早退や自宅待機などの迅速な指示、施設の早期の見回りなどにつながります。

土砂キキクルの危険度表示例
土砂キキクルの危険度表示例

また、土砂災害の発生が予想されるときは、気象庁が公表している土砂キキクルの危険度分布などを見て、「注意」(黄色)、「警戒」(赤)、「危険」(紫)、「災害切迫」(黒)の表示に応じて、必要な行動を判断します。

土砂キキクルの危険度分布は、大雨による土砂災害発生の危険度の高まりを地図上で1km四方の領域(メッシュ)ごとに5段階に色分けして示すものです。常時10分毎に更新されています。

また、土砂災害発生が切迫しているとみられるときは都道府県と気象庁が共同で対象の市町村を特定して「土砂災害警戒情報」を発表します。自治体が住民に対して避難指示などを出す際の目安となるものです。キキクルの「危険」(紫)に相当する段階で発表されるもので、避難にかかる時間を考慮して2時間先までに基準に到達すると予測されたときに出されます。土砂災害警戒情報が出されたときには、土砂キキクルを見ることで具体的にどこで危険度が高まっているかを確認することができます。

土砂キキクルの危険度の色分けの意味と内閣府ガイドラインとの対応関係
土砂キキクルの危険度の色分けの意味と内閣府ガイドラインとの対応関係

パシフィックコンサルタンツの土砂災害対策サービス

土砂災害対策では災害発生の切迫度合いをいかに早く、具体的に掴むか、そして必要な行動に移すかが重要です。雨雲レーダー情報については一般的なアプリとしてYahoo!天気・災害、ウェザーニュースがよく知られています。多くの人がすでにスマホなどで見ているものです。しかしパシフィックコンサルタンツでは土砂災害に関する防災情報アプリとしてはまだ改善の余地があると考え、キキクルの開発に先立って2015年から独自にアプリ開発に取り組み、2017年にモバイルアプリ「どしゃブル」をリリースしました。「分かりやすく、入手しやすく、いつでも使える」ことをコンセプトに、「その人が、その時に、その場所で雨と土砂災害に関する必要な情報を手に入れること」を目指したものです。

「どしゃブル」の大きな特徴になっているのが、ベースとなっている雨に関する情報の精度の高さです。国土交通省が運用しているXRAINを活用することで、Cバンドレーダと呼ばれる従来のレーダに比べて高頻度(5倍)、高分解能(16倍)での観測が可能です。具体的には、250メッシュで1分ごとの情報把握ができ、配信に要する時間も1~2分程度に短縮しています。

従来のCバンドレーダとXRAINの比較

Cバンドレーダ

XRAIN

最小観測面積

1kmメッシュ

250mメッシュ

配信周期

5分

1分

配信に要する時間

5~10分程度

1~2分程度

国土交通省資料

また「どしゃブル」では、この精度の高い降雨データを用いて算出した土壌雨量指数(第1タンク)と60分累加雨量の合算値、さらに地形の最大傾斜角と土砂災害危険箇所に関するデータを組み合わせるという独自の手法で、現在地及び登録地点の降雨や「○分後に目的地で雨は降っているか」を検索する機能を提供、さらに現在と登録地点の土砂災害が発生する危険度が独自に判定し、5段階で地図に表示するとともにアラートを出します。

どしゃブルの土砂災害危険度判定の仕組み
どしゃブルの土砂災害危険度判定の仕組み

使いやすく親しみのあるインターフェースも「どしゃブル」の特徴です。正確な降雨情報の把握を手軽に日常的に行うことができるので、降雨災害・土砂災害への警戒心を養い高めることにもつながります。

また、PCのWebブラウザーで活用することができる有償の「どしゃブルPro」は、複数地点の一括登録(登録数の制限なし)や、すべての登録地点での危険度の判定、過去の豪雨時の降雨状況や危険度判定の振り返りもなどが可能です。豪雨時に退避が遅れた作業員の危険回避や通行止め等の巡視中の危険回避、土砂災害発生状況の早期把握などに活用することができるだけでなく、行政機関が行う危険情報の発令などに際しての参考情報・補足情報の入手手段としても非常に有効です。

パシフィックコンサルタンツでは、「どしゃブル」と合わせて、多岐にわたる自然災害のハザード情報やリスク情報を住所や地図画面からピンポイントで入手できるアプリ「しらベル」も開発しました。誰でも簡単に災害リスクを知ることができるだけでなく「リスク診断レポート」も入手でき、日頃からさまざまなリスクに備えることができます。

パシフィックコンサルタンツではこれからも土砂災害に備えるさまざまな支援を行っていきます。

五十嵐 孝浩

IGARASHI Takahiro

デジタルサービス事業本部
防災事業部

1989年入社。海外農業開発プロジェクトを経験した後、上下水道部で管渠の詳細設計業務、計画業務に従事し、2000年から河川環境・防災に関わる情報システムの調査・企画・設計・実装業務に携わる。現在は、技術開発・事業創発をメインに、民間企業、コンシューマー向けの防災デジタルサービスの企画・構築・運用を行う。

平野 竜貴

HIRANO Tatsuki

デジタルサービス事業本部
防災事業部 レジリエンス推進室

2024年入社。入社までは約12年に渡り気象予報業務に従事。入社後は防災事業部に所属し、主に公的機関に対する防災訓練の企画・実施業務に従事。気象予報士としての知見を活かし「どしゃブル」の開発に携わる。民間企業や行政のレジリエンス向上に向け、実効性の高い訓練企画や課題解決に資する防災DXサービスの開発を目指している。気象予報士。

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