本文へ移動
サイトメニューへ移動
SCROLL

SAR衛星の防災分野への活用

自然災害の激甚化に対応する最新の防災・減災テクノロジーを解説

政府の地震調査研究推進本部による「地震発生可能性の長期評価」では、巨大地震の発生が高い確率で予測され、気候変動による自然災害の激甚化・頻発化が顕著になるなか、防災・減災対策のDX化による効率化・高度化が緊要な課題となっています。その重要なツールとして注目を集めているのが、時間帯や天候に左右されずに高頻度で地上を観測できる民間SAR衛星。パシフィックコンサルタンツの空間情報技術分野で衛星活用に取り組むデジタルサービス事業本部 防災事業部 レジリエンス推進室 技術課長の柳町年輝、防災DX推進室 課長補佐の水戸川司、先端技術センター 技術開発室長の佐々木信和に話を聞きました。

INDEX

SAR衛星とは?―注目を集めている理由

SAR(Synthetic Aperture Radar:合成開口レーダー)衛星は、地表に向けてマイクロ波を照射し、その反射波を解析することによって、地表の形状や性質を把握する地球観測衛星です。地球観測衛星としては、デジタルカメラで撮影するような、対象物に反射した太陽光の情報から地上の様子をとらえる光学衛星がよく知られていますが、太陽光の届かない夜間や雲に覆われた日中は観測ができません。その点、SAR衛星は雲や雨の影響を受けにくいマイクロ波を照射するため、時間帯や天候に左右されることなく地上の様子を観測することができます。観測できる範囲は衛星によってさまざまですが、200kmや300kmといった幅で広域に撮像したり、逆に数十km、さらには数kmまで幅を絞ってより解像度を高めて撮像したりするなど、目的に合わせて使うこともできます。また、一定の頻度で、同じ場所から同じ条件で撮像した高精度の画像が得られるので、経時的な変化を正確に読み取ることができます。

SAR衛星と光学衛星の違い

SAR衛星 光学衛星
観測方法 自ら照射したマイクロ波の反射情報を解析 対象物に反射した太陽光の情報を視覚的に再現
観測条件 時間帯や天候に左右されない 日中の好天時のみ
観測結果の形式 電波の跳ね返りの強弱を表現するモノクロ画像。解析が難しい フルカラーの画像。誰でも直感的にわかる
観測でわかること 対象物の形や材質、土壌水分量 対象物の大きさ、形、色

SAR衛星の有効性が確認された事例に、2024年1月の能登半島地震による被災直後の観測があります。この地震に際しては、発災直後から被害状況に関する情報収集が進められましたが、発災が夕刻であったことから夜間の調査となり、航空機等からの映像では、個別の被害状況や被害の規模感を把握することが困難でした。しかし、当日の夜、23時頃にJAXA(宇宙航空研究開発機構)の大型SAR衛星「だいち2号」が現地の画像を撮影、その解析により大規模な地盤の隆起の発生が明らかになるなど、夜間でも観測可能なSAR衛星の有効性が確認されています。

2.5次元解析結果
出典:「だいち2号」観測データの解析による令和6年能登半島地震に伴う地殻変動(2024年1月19日更新)(国土交通省国土地理院)

JAXAのSAR衛星は、現在も「だいち2号」とその後継機である「だいち4号」が運用中です。しかし質量が2トン、あるいは3トンという大型衛星で、いずれも約97分で地球を一周し、14日で同じ場所に戻ってくる「回帰軌道」を採用しています。打上げと運用に大きな手間とコストがかかり、基数が限られているので即応性や同一場所に対する高頻度の観測が難しく、また衛星画像は非常に高価で民間企業が手軽に利用できる環境にはありません。

しかし、2010年代の半ば以降、急速に技術開発が進み、質量100kg程度まで小型化・軽量化が実現したことで、民間企業が低コストで衛星を打上げ、運用できるようになりました。現在では、日本の複数のスタートアップ企業が合わせて10基近いSAR衛星を運用しています。同時に、AIの導入などにより画像解析技術も飛躍的に高まり、質の高いSAR衛星画像が、より安価に、また1日に1枚、2枚といった頻度で手に入るようになっています。現在は、多数の小型人工衛星を連携させて運用する「衛星コンステレーション」により、地球上のあらゆる地域を高頻度で観測する技術の活用が進み、SAR衛星はこれからの地球観測ツールの主役になろうとしています。

SAR衛星の仕組みとSAR画像でわかること

SAR衛星は観測対象に照射したマイクロ波の反射の強弱で表面の状態を把握します。マイクロ波が照射された方向に戻ることを「後方散乱」と呼びますが、森林や都市部など障害物や凹凸が多いところでは後方散乱が強くなり、SAR画像上では明るく(白く)表示されます。逆に、海のように滑らかな面では、ほとんど前方に反射してしまうため後方散乱が弱く画像上では暗くなります。また、後方散乱の大きさには、地上面の状態・地物の有無・種類や材質、土壌水分量などが影響します。こうした散乱特性の違いを解析することで、地上の状況や変化を推定することができます。

出典:「災害時の人工衛星活用ガイドブック水害版・浸水編」宇宙航空研究開発機構 衛星利用運用センター(2023年9月)(国土交通省 水管理・国土保全局 河川計画課)

加えて、被災前後の観測データの差分を解析することで、津波や洪水による浸水範囲を捉えたり、複数時期の観測データを解析し、地盤沈下や、堤防・護岸・ダムなどのコンクリート構造物の沈下、背後の土圧の影響による水平方向への移動などを数センチ~数ミリ単位で把握したりすることができます。従来、こうした地盤の動きや構造物の変化を正確に把握しようとすれば、人がその場に出向いて測量しなければなりませんでした。

しかしSAR衛星であれば、現場に立ち入ることなく、広範囲かつ均質な精度と周期性をもって情報を取得できます。そのため次のようなことへの活用が期待されています。

<地殻変動や地盤沈下、火山活動などの監視>
地殻変動や地盤沈下、活火山の山体膨張や隆起などの動きを把握し、噴火の予兆を捉える
<道路や構造物の保守点検、管理>
道路、ダム、堤防などのコンクリート構造物や橋梁の変化や歪み、傾きなどを把握する
<災害時における被害の把握>
地震や台風、水害などの被害状況を把握する
<林業などの資源管理や環境破壊の監視>
農作物や森林の生育状況の把握や、森林の違法伐採などを監視する

SAR衛星の活用が期待される防災・減災分野

SAR衛星の活用で特に大きな役割が期待されているのが、防災・減災の分野です。

災害発生時には、社会インフラの供用可否判断、救急救命や避難指示・誘導、避難所の開設及び避難物資の輸送などのために、早期かつ迅速に被災状況を把握することが必要になりますが、時間や天候、建物倒壊による道路閉塞、マンパワーの制約などにより情報収集には制約が生じます。その際、SAR衛星を活用すれば広範囲を面的に観測し、被災の程度が把握できます。その観測データを解析することで、発災直後の迅速な被害状況の取りまとめや、ヘリ調査・地上調査の範囲の絞り込み、動員計画づくり、推定浸水面積からの必要排水量の算定や排水ポンプの配置計画の検討などを行うことができます。

実際、2024年1月の能登半島地震においては、先に紹介したように大規模な地盤隆起の発生を把握しましたが、その数か月後に発生した豪雨災害においても、大規模な土砂災害の発生可能性箇所の抽出に効果を発揮しています。

SAR衛星の活用で夜間に土砂災害発生可能性箇所を抽出
出典:「能登半島での地震・大雨を踏まえた水害・土砂災害対策のあり方について」(2024年11月)(中央防災会議 防災対策実行会議)

また、能登半島の災害でもみられたような複合災害を最小限に抑えるためには、先行災害の被害規模を踏まえた後発災害のリスク把握と応急対策の検討が必要です。こうした場合にも、SAR衛星画像の解析によって一定のリスク評価ができれば、先行災害直後の対応と並行して、複合災害の防止に向けた対応を進めることが可能となります。

SAR衛星画像により大雨の前後での大規模な変化の有無を確認。翌日のヘリ調査の資料とした
出典:「宇宙政策の最近の動向」内閣府宇宙開発戦略推進事務局(2025年9月)(内閣府)

SAR衛星活用の課題

SAR衛星による地表観測の有効性が示される一方、いくつかの課題も見えています。 例えば衛星画像の解析の精度です。災害出動に関する意思決定は、限られた人的リソースを効果的に配分しなければならないことから確実性が求められます。そのためにも、画像解析の精度を上げていくことは大きなテーマであり、実際の風水害の事象と衛星画像の解析データを突き合わせて検証するなど、さまざまな形で知見を蓄積していく必要があります。

一方、いかに分解能を上げデータ解析の精度を高めても、飛行機やドローンを使って低空で撮影したり、実際に人が現地で測量・測定したりすることと同じ精度の情報をSAR衛星画像から得ることはできません。そこで必要になるのが、SAR衛星画像を一部とするさまざまなレベルの空間情報を収集し、総合的に判断することです。

空間情報の把握には、人工衛星や航空機を使用した広域・低解像度のデータ取得からドローン、車両及び地上設置型センサーなどといった狭域・高解像度のデータ取得まで、さまざまな手段があります。これらを、その特徴を踏まえて運用し、得られた情報を総合することで、インフラマネジメントや防災・減災など、目的に合わせた情報収集が可能になります。その意味で、SAR衛星による地表の観測は、発災後速やかに、時間や天候に左右されず、広域の情報を短時間で効率的に収集することができるという長所があります。つまり、発災後の災害出動の正確性・妥当性を高めるための一次情報として利用価値が高いものです。

国(JAXA)が運用する大型のSAR衛星による撮像、民間事業者が提供するSAR衛星画像、航空機やUAV(Unmanned Aerial Vehicle:無人航空機)を使った上空からの情報、さらに地上で行う測量など、さまざまな技術と情報を組み合わせ、その成果を総合するところから、防災・減災に有効な情報把握が可能になります。多くのツールが存在するなか、さまざまな空間情報技術を、どの段階でどのように組み合わせて有効活用するのか、その適切なマネジメントが重要になります。

広域・低解像度
・人工衛星(光学・SAR)
・航空機(飛行機、ヘリコプター)
・UAV(固定翼、ドローン)
・車両・船舶
・地上設置型センサー
・ROV・USV等水中・水上計測機器
狭域・高解像度
特殊な場所
さまざまなレベルの空間情報技術を総合するマネジメントが必要

パシフィックコンサルタンツの取り組み

空間情報技術分野においてさまざまな取り組みを続けてきたパシフィックコンサルタンツでは、早くから次世代SAR衛星の可能性に注目、2021年にSynspective社と業務提携を行いました。同社は、今後2020年代後半には30基程度のSAR衛星を運用し、世界中どこでも1時間以内に画像提供を可能することを目指しており、災害時の被災状況の把握などに有力な情報収集手段になると見られます。現在、パシフィックコンサルタンツと同社は、これまで国内外で発生した主な災害の観測や解析を試行しており、SAR衛星を活用した観測精度・解析結果のデリバリー速度の向上や常時のユースケースの検討など、さまざまな視点から研究開発を進めています。

株式会社Synspectiveが運用する小型SAR衛星「StriX」で撮影された青森県八戸港の様子
2025年12月8日23時15分頃発生した2025年青森県東方沖地震(Mj7.5)後の2025年12月9日 14:31に分解能約1mで撮影

平時のユースケース検討を目的として実施した横浜港周辺の干渉SAR時系列解析(株式会社Synspectiveと共同で実施)

当社はこの提携により、空間情報技術分野をさらに強化し、SAR衛星による情報収集と解析データの提供にとどまらず、その活用をとおした防災や被災時の復旧・復興に関するコンサルティングの充実・強化を進めていきます。

SAR衛星画像の取得と解析は、道路や地盤、港湾・海岸、河川、砂防、鉄道などのさまざまな分野において、平時の微細な変化の把握から被災時の早期の状況把握や二次災害・複合災害リスクの把握に大きな力を発揮します。当社は、SAR衛星だけでなく光学衛星画像の解析についてもさらに知見を深めるとともに、航空機やUAVによる計測・観測などの空間情報技術と総合することによって、インフラの種別や災害規模に見合ったコンサルティングの高度化に努め、防災・減災対策のDX化とその効率化・高度化に貢献していきます。

柳町 年輝

YANAGIMACHI Toshiki

デジタルサービス事業本部 防災事業部 レジリエンス推進室 技術課長

2022年入社。主に防災におけるセンサー、通信等の監視システムを用いたソフト対策の業務に従事。水位計、土砂災害検知センサー、監視カメラから衛星を用いたリモートセンシング等の実証、設計、解析、構築など幅広く計測技術を活用した業務に取り組んでいる。技術士補、第一級陸上特殊無線技士。

水戸川 司

MITOGAWA Tsukasa

デジタルサービス事業本部 防災事業部 防災DX推進室

2021年入社。地震学・測地学の研究知見を社会実装する視点から、防災DXに関わる行政の災害対応システムや情報共有基盤の企画・構築に従事。あわせて、地球観測衛星を用いたリモートセンシングによる地盤変動把握や災害対応支援に係る解析技術およびWEBシステムの開発にも取り組んでいる。博士(理学)、技術士(応用理学―地球物理及び地球化学)。

佐々木 信和

SASAKI Nobukazu

先端技術センター 技術開発室 室長
兼 オプション創造室 テクニカルディレクター

2004年入社。主に港湾施設の維持管理計画、防災計画等の業務に従事。2023年より北海道国土基盤事業部長を経て、2025年10月より現職。現在は先端技術センター技術開発室長として社内各分野における研究開発の支援を行うとともに、自らもレジリエンス分野を中心とした技術開発に従事。博士(工学)、技術士(建設―港湾及び空港)。

RELATED POSTS

港湾における気候変動適応策

気候変動に伴う海面水位の上昇や台風の大型化などを背景に、港湾を浸水被害からいかに守るのかが大きな課題となっています。ところが、港湾は広い地域に公共・民間のさまざまな主体が存在することから、一主体単独では効果的な対策を取ることができません。そこで求められるのが、すべての関係者が共通の目標の下に一体となって取り組む「協働防護」です。国からも「協働防護計画作成ガイドライン」が公表され、今後、各港湾での取り組みが本格化します。パシフィックコンサルタンツ港湾部 港湾海岸室 室長の大家隆行と港湾計画室 チーフプロジェクトマネージャーの神野竜之介に協働防護への取り組みの最新動向について話を聞きました。

企業の気候変動対策

近年、世界各地で極端な熱波、豪雨等の異常気象が頻発、洪水や土砂災害などの被害も激甚化しています。これらの気象災害の背景には、自然変動の影響に加え地球温暖化の影響があると考えられています。人間活動が主に温室効果ガス(GHG)の排出を通して地球温暖化を引き起こしてきたことは「疑う余地がない」(「IPCC第6次報告書」)とされ、GHGの排出削減をいかに進めていくかは、政府や地方公共団体にとどまらず、民間企業や市民一人ひとりが担う重要な課題になっています。国の気候変動対策について、ガイドライン策定などに関わると同時に、地方公共団体や企業のカーボンニュートラルについても、その戦略立案から現場実装まで幅広く支援しているパシフィックコンサルタンツ 技師長兼 ESGサステナブルスマートシティ統括プロジェクトマネージャーの梶井公美子と社会イノベーション事業本部 GX推進部長の井伊亮太、同部 気候・資源政策室長の池田啓造の3人に、企業の気候変動対策をどう推進していくべきか、話を聞きました。

土砂災害から企業の施設や工場を守る

近年は短時間の強い雨による土砂災害が多発、1件あたりの人的被害も増加傾向にあります。企業の従業員やその家族、施設や工場をいかに土砂災害から守るかは事業継続にとって大きなテーマです。しかし、具体的に何から手を付けるべきかということになると、よくわからないという声が少なくありません。パシフィックコンサルタンツのデジタルサービス事業本部 防災事業部で、企業の防災計画立案などの支援、事業創発や土砂災害情報サービス「どしゃブル®」の開発・運用を担当する五十嵐孝浩と同部レジリエンス推進室の平野竜貴に話を聞きました。

Pacific Consultants Magazine

パシフィックコンサルタンツのプロジェクト等に関する最新情報をお届けするメールマガジンです。当社のインサイト、プロジェクト情報、インタビューや対談、最新トピックスなどの話題をタイムリーにお届けするため、定期的に配信しています。

ご入力情報はメールマガジン配信をはじめ、当社が提供する各種情報提供のご連絡などの利用目的のみに使用し、第三者に断りなく開示することはありません。
詳しくは当社個人情報保護方針をご覧ください。