1958年に渋谷、池袋とともに副都心計画が策定された新宿。それから60年余りを経て、今や世界一の乗降客数を誇るターミナルに成長した。しかし、人の滞留空間が狭く、乗り換え動線が複雑で、駅や駅ビルの老朽化が目立つなど課題も浮かび上がっていた。2018年、東京都は駅直近地区の大規模な再編による「新宿グランドターミナル」構想を策定、2035年概成、2046年事業完了を目標に2021年から工事に着手している。パシフィックコンサルタンツは、早くから事業計画の検討業務などでプロジェクトを支援している。プロジェクトマネジメント事業本部 プロジェクト統括部の川本哲也、吉見隆之、グローバルカンパニー 国際スマートプランニング部の三國谷拓人の3人が壮大な新宿再開発事業の進捗について語った。
新宿駅直近地区拠点再整備事業の概要
新宿駅直近地区の再編は、2018年3月の「新宿の拠点再整備方針」が東京都と新宿区により策定されたことでスタートした。2019年12月には都市計画決定が行われ、2021年7月に「新宿駅直近地区土地区画整理事業」が事業決定。具体的には線路上空にデッキを新設して東西を結びながら、現在、西口駅前広場を南北に横切っている自動車の通過動線を廃止、また地下駐車場のループ状の出入り口も駅から離れた旧スバルビル側に移し、駅前を人中心の空間に再構成。さらに駅と駅ビルの機能更新を連携させることで駅と駅前全体を新宿グランドターミナルとして再編する。JR東日本だけでなく、小田急電鉄、京王電鉄、東京メトロ、西武鉄道などの民間企業も加わり、「世界一のターミナルにふさわしい機能の充実・強化」「駅とまち、まちとまちの回遊性向上」「国際競争力の強化に資する機能の導入」「周辺地域への展開」を4つの柱として、駅、駅前広場、駅ビルが有機的に一体化した次世代のターミナルを目指す。すでに一部を着工、2035年に東西デッキと西口広場が概成、2046年に事業完成を目指している。
INDEX
- 世界一の乗降客数を誇る新宿駅
- 自動車中心から歩行者優先の駅前空間への転換
- 独自のシミュレーションモデルで300万近い人の動きを解析
- 全体最適を導きプロジェクトを前に進める
- ものをつくる技術者ではなく、まちをつくる技術者でありたい
世界一の乗降客数を誇る新宿駅
7路線8駅が結節し、1日の乗降客は過去最大時で約355万人とギネスブックにも世界一のターミナルとして登録されている新宿駅。東口が先行して繁華街として拡大していったが、新宿を世界一のターミナルに押し上げた原動力は西口の再開発だった。1960年3月、東京都議会は西口駅前の淀橋浄水場を移転させ、跡地に未来都市をつくる「新宿副都心建設に関する基本方針」を議決。約96haの広大な土地に、街路・公園・広場などを整備し、約4万人の就業人口を含む一大ビジネスセンターを建設することを決定した。西口駅前広場の事業もこの一環としてスタートしている。基本案となったのは、フランスでル・コルビュジエから都市デザインを学んだ建築家・坂倉準三が率いる坂倉建築研究所によって提案されたものだ。駅前地上部分を交通広場、地下を駅コンコースと商店街、駐車場というように上下に分けることを基本に、地下と地上をつなぐ車路を大きなボイド(空洞)にして自然光と風を取り入れ、鉄道施設と駅前広場と街路を立体的に組み合わせながら整備するというものだった。1966年11月に完成したが、地下から空が望める巨大なボイドや床や壁に使われた彩り豊かな窯変タイルが大きな話題となった。
浄水場跡の街区造成も1968年に完了。1971年の京王プラザホテルを皮切りに続々と超高層ビルが建築され、その後1991年には1万人を超える職員が勤務する東京都庁の本庁舎が有楽町から移転。構想通りの巨大なまちが誕生した。
しかし、開発から半世紀近くが経過、さまざまな課題が浮かび上がっていた。駅構造が複雑で、乗り換え経路が駅ビルや小田急、京王両電鉄の敷地単位で継ぎ足されているためわかりにくく、段差やレベル差も多い。歩行者が滞留したり交流したりできる空間は西口交番前のわずかな面積しかなく、地上の駅前部分は交通量の多い都道が目の前を横切り、そのほとんどが自動車用の空間になっていた。歩行者は大きく迂回するか、地下通路を歩くしかない。
自動車中心から歩行者優先の駅前空間への転換
新宿グランドターミナル構想は、複数の基盤整備と民間再開発によって進められる大規模なものだ。西口駅前をメインとした、「自動車中心の空間構成を人中心の広場とまちに」という再整備方針の中心となるのが、西口駅前広場と地下駐車場の改修整備である。プロジェクトもこの部分が先行している。他にも、百貨店や駅ビルの建替え、東口駅前広場を含めた東ゾーンの整備や、線路上空空間を活用した中央ゾーンや東西デッキの整備、西南口地区での甲州街道を跨いだ再開発などが計画され、新宿駅周辺地区は現時点で8つ程度の事業が一体となって進みながら、今後20年を掛けて大きく姿を変えることになる。
「西口広場をどうするかという検討は東京都で早くから始まっていました」と、パシフィックコンサルタンツで新宿プロジェクトを統括し、構想づくりに始まり主に都市計画、交通量推計を担当した川本は言う。「私たちも2011年頃から東京都の将来構想の検討に加わり、2018年には『新宿駅周辺整備計画策定調査業務』を受託しました。東西駅前広場と広場に隣接する区域を対象に都市計画などの手続きに向けた資料作成を進めるものです。具体的には、複雑かつ広範囲に影響する自動車・歩行者の交通実態の把握、課題を解消し歩行者優先の駅前空間の創出や新宿グランドターミナルとして新しい価値創出を意識した空間づくりを行いました。また、その将来空間における交通の動きを予測し、交通モードごとのネットワーク検討、交通施設やデッキ等の必要規模算定、警視庁や鉄道事業者など関係者との協議・調整に必要な資料作成も行いました」
2019年12月の都市計画決定はこれらの調査・提案資料を基に行われ、新宿グランドターミナル構想はここからスタートすることになる。しかし、20年後、30年後の新宿を描いたグランドターミナル構想をいかに実現するか、実施に当たっては、まだいくつもの難問が控えていた。

「新宿グランドターミナル構想は『人中心の広場とまちにかえる』ことを掲げています。しかしそれは簡単ではありません」と、主に区画整理全体調整、地権者側設計・施工支援を担当した吉見は言う。「歩行者中心の駅前広場に、という大きな流れはすでに日本の駅前開発にあります。TOD(Transit Oriented Development:公共交通指向型都市開発)と呼ばれ、これまで駅周辺でばらばらに整備されてきたものを、公共交通拠点の周辺で駅・まち一体で開発して都市機能を集積し、効率性・利便性・安全性を兼ね備えたまちづくりを進めようという取り組みの根底に貫かれているのも、車から人へという思想です。しかし、なんといっても新宿は世界一の乗降客を有する駅であり、さらに西口駅前は北に走る靖国通り(青梅街道)と南に走る甲州街道という大幹線道路をつなぐ役割を果たしています。また東口側でも、新宿通り、中央通り、明治通りという大きな通りが駅に向かって走り、それが駅手前で縦横に結ばれていることから、どの道路も交通量が多く、渋滞も発生しています。駅前を人優先にするにしても、駅周辺の交通に負荷を生じさせることはできません。人と車の新たなネットワークをいかに設計するか、その基本計画や基盤整備の構想は非常に重要でかつ難しい問題でした」
独自のシミュレーションモデルで300万近い人の動きを解析
パシフィックコンサルタンツには、渋谷や品川のTOD開発で示してきた専門技術力とトータルマネジメント力がある。その強みを活かして人と車の流れの詳細な調査と、計画によって生まれる影響調査を進め、都市計画策定に大きな役割を果たしていった。
計画の作成に当たっては、7線8駅の各改札口から、曜日・時間毎にどれだけの人が、どのように移動しているのか、詳細なOD(Origin-Destination)調査が欠かせない。ところが、300万人近い正確な動きを捉えることは、一般的な調査手法では不可能だ。パシフィックコンサルタンツは交通政策に関わる専門部署を有し、自動車の交通量調査について独自のシミュレーションモデルを開発、活用している。それを歩行者にも応用できるように改良、詳細な調査データを取り込んで分析を進めた。同時に、新たな動線の計画について、その設計で人のスムーズな移動か可能かどうかという検証も行った。駅前広場の概略設計や基本設計に活かされただけでなく、JR東日本、小田急電鉄や京王電鉄、東京メトロなどの民間会社が手がける基盤整備や交通計画の支援につながっていった。

全体最適を導きプロジェクトを前に進める
さらにパシフィックコンサルタンツが新宿TODで大きな役割を果たしたのが、全体マネジメントの役割だった。 東京都が中心となり民間鉄道各社が参加して取り組みが進む事業は、東京都と鉄道関係の民間事業主体、国道を管理する国や地域を所管する警察、避難・防火などを管轄する消防など関係者は多岐にわたり、それぞれの立場がある。当然、その間には対立が生まれることもあった。例えば、道路管理者や警察にとっては、新宿駅前が人中心に再編されることで周辺道路に新たな渋滞が起きないかということや、民間の鉄道事業者にとっては、新たに整備される乗り換え動線が、自社商業エリアへの人の流入にとって不利にならないかという懸念は当然生まれる。1つを決めようと思えば関係者の利害が絡み、結論を得るのは容易ではない。
パシフィックコンサルタンツの役割の一つは事業関係者の間を調整しながらこの壮大なプロジェクトを前に進めていくことにあった。
基本計画の検討や施工全体のマネジメントに関して調整会議なども運営し、東京都側設計・施工支援を実施してきた三國谷はこう語る。
「東京都が構想した新宿の新たなまちづくりをどうすれば実現できるのか、『事故防止や渋滞対策の観点から警察はこの点を重視しています』、『この動線にこだわったら民間の事業者の間に不満が残ります』といったことについて、全体を広く見ながら伝え、事業関係者全員が『これで進めよう』と納得して前に進む状況をつくることが大きな役割だと思っています。私たちの仕事は、単に1つの広場や施設をつくることではありません。新しいまちをつくろうとしているのです」
吉見も同じ考えだ。
「パシフィックコンサルタンツは橋や道路といった構造物の計画や設計を行う会社だと思っている人は多いかもしれません。しかしそれは私たちの仕事のごく一部です。自治体や地域の人々が思い描く未来を共有し、その実現のためにいつまでに何をしなければならないのか、調査や基本計画、設計だけでなく、環境調査や影響調査、合意形成、施工手順の検討や施工期間中の利用者の安全性・快適性への配慮など、プロジェクト全体の円滑な推進のためのマネジメントをするのが私たちの仕事であると思っています」
ものをつくる技術者ではなく、まちをつくる技術者でありたい
すでに工事が進む西口広場と駐車場の改修だが、2025年1月にらせん状の駐車場の出入り口が駅から離れた位置に移設され、2025年9月には地上の南北方向の車両動線が分離され、地上広場の中央に新たな歩行者のための空間が生まれた。いよいよ広場の整備が始まり、2035年には東口側から線路の上を横断して西口を結ぶデッキとともに、新しい駅前広場が姿を見せることになる。

「利用される多くの方々に『いいまちができた』と感じてもらえるものにしなければなりません。そのためには、一つひとつのパーツのことだけ考えるのではなく、新しいまち全体を大きな視野で捉えながら、常に全体最適を追求していくことが重要であり、今後もそれを意識して携わっていきたい」と川本は語る。
さらに三國谷は、「次世代モビリティも組み入れながら、駅前広場の新しい形を示すものにできればと思っています。ゴールはあくまでもそこを使う人にどんな価値を提供することができるかです。私はものをつくる技術者ではなく、未来のまちをつくる技術者でありたい。まちづくりを担うパシフィックコンサルタンツとしての価値もそこにあると信じています。」と語る。
吉見も、まちづくりをしたいという想いで入社した若い頃を思い出しながら「当初は自分にまちづくりを担う力はありませんでした。もっといろいろ学んでこいと、道路や土木構造物の計画・設計、施工管理など、土木・建築を問わず、さまざまな現場を経験しました。今、まちづくりのマネジメントの現場に来て、これまでの経験は決して回り道ではなかった、と実感しています。これからもこの壮大な事業のプロジェクトマネージャーとして、さらに力を尽くしていきます」と振り返るとともに、今後の意気込みを語る。
パシフィックコンサルタンツの総合力が、渋谷、品川に続くTODの取り組みに新しい1ページを加えようとしている。