2000年代に入って本格的な導入が進んだ日本の陸上風力発電は、現在の累積導入容量が5GWを大きく超え、2030年には18GWに達することが確実とみられています。国は2050年カーボンニュートラルにむけ、洋上風力とともに陸上風力発電をさらに増強していく方針ですが、そこで新規設置と並んで欠かせないのが稼働中の発電所のリプレース(更新)です。パシフィックコンサルタンツで風力発電の設計を担当しているプロジェクトマネジメント事業本部 プロジェクト統括部 風力発電推進プロジェクトの羽賀研太朗、入江倭斗、山口果那の3人に、リプレースの課題と実施計画立案のポイントを聞きました。
INDEX
リプレース時期を迎える初期の陸上風力発電
風力発電設備の更新サイクルは約20年といわれています。運転開始後は日常的なメンテナンスや法定の定期点検、必要に応じた部品の交換などが行われますが、20年を超えると経年劣化により発電効率が落ち、故障発生リスクも高まります。そこで系統電源との接続線や周辺設備などはそのまま維持しながら、風車本体を交換するリプレースが行われます。風車は設置から20年で改良が進み、発電効率が上がっていたり、大型化により一基当たりの発電量が拡大したりしていることから、リプレースは単なる機器の置き換えにとどまらず、発電能力向上の実現にもつながります。また、地元との合意はすでに得られていること、環境影響評価についても一定の条件の範囲内であれば省略できる項目があることなど、新設に比べて調査検討業務や手続き上の負担が比較的少ないことがリプレースの大きなメリットです。実際、2000年前後に運転を始めた自治体や民間の風力発電所では、すでにリプレースを実施したところも多く、特に2022年以降その件数が増えています。
しかし、運転開始から20年を超え、リプレースの必要性が高まっていながら、計画づくりが難航している発電所も少なくありません。日本風力発電協会の調査によると、2023年12月末時点で運転開始から20年以上が経過し、未だ撤去・廃止していない発電所数は全国で105発電所(基数 420基)に上り、総出力は500,620kWとなっています。
リプレースが難航する要因―風車の大型化
リプレースが難航している大きな要因のひとつに、急速に進んだ風車の大型化があります。風力発電が風から得るエネルギーは、ブレードの風を受ける面の面積に比例して大きくなります。そのためブレードを長く大きくするほど発電効率は上がります。また風は上空ほど強く吹くので、風車の高さはできるだけ高いほうが発電効率は上がることになります。
日本の陸上風力発電の創成期に当たる1990年代の終わりから2000年代初頭に運転を開始した発電所の風車は、定格出力が500kWから1000kW前後のものが主流です。定格出力が1,000kWの場合、タワーの高さは60m、羽根の直径は60mほどでした。しかし2,000kWになると、高さは90m、羽根の直径も80mくらいになり、さらに、出力が4,500kWになると、タワーの高さは110mを超え、羽根の直径も124mを超えるような巨大なものになっています。
出典:「風力発電ガイドブック」NEDOより作成
風車は、風力発電の普及が進むヨーロッパや中国のメーカーでほとんどが製造されており、主力機は海外で需要の多い3,000~4,500kWという大型機です。そのため日本の発電所がリプレースに当たって、当初採用したものと同規格の出力500kW~1.500kWの風車を入手することは難しく、海外製の大型化した風車を採用するしかありません。たとえば従来は1機の出力1,650kWの風車を9基運転して総出力14,850kWとしていたある発電所では、新たに4,300kWの大型風車を4基稼働させ、従来とほぼ同じ出力を確保するといったリプレースをしています。
風車の大型化によって検討すべきこと
リプレースに際し設置する風車が大型化する場合や、配置を変更する場合は、あらためて風況解析を行い、風車を立てる最適な位置を検討することが必要になります。また、大型化に伴い気象レーダーや航空レーダー、防災無線などの電波への干渉が起こらないかといった確認も欠かせません。さらに、同じ位置での風車の交換であっても、既存のコンクリート基礎を解体して撤去し、大型機に合わせた強固な基礎を設計・施工しなければなりません。設置位置が変わり、発電所用地として確保していないところで新たに造成することになれば、追加の環境影響調査や造成・道路整備費用がかかることが考えられ、2023年5月に施行された盛土規制法への対応も必要になります。リプレース計画の作成は、こうしたさまざまな要素を検討し、総合的に判断することが必要です。
風力発電設備リプレースの課題
風車の交換は大型化が伴うことから、さまざまな検討事項が発生しますが、加えて大きな問題になるのが大型化した風車の現地への搬入です。
先に見たように、タワーの高さは100mを超え、最長では120mに達します。鋼鉄製またはコンクリート製で、いずれも分割した状態で運んで現地で組み立てることになりますが、それでも1つあたり30m程度のユニットになります。さらに問題なのはブレードです。ブレードは分割できません。2,000kWクラスでブレードの長さは45m、4,500kWクラスでは約65mという長大なものになります。加えて日本の風力発電所は風の強い山間部に設けられることが多く、カーブの多い細い林道を輸送しなければなりません。それに伴い林道の拡幅や沿道の木の一部伐採が必要になることもあります。また、途中に橋がある場合は、風車部材の荷重に耐えられるかどうかのチェックや必要に応じて補強工事も検討しなければなりません。設置場所に輸送後も、風車部材を仮置きする場所や風車組立を行う作業スペースが必要になります。
パシフィックコンサルタンツにできること
パシフィックコンサルタンツはこれまでも陸上・洋上の風力発電所建設に伴う適地選定や理解促進、風況調査、基本計画や設計・施工計画、環境アセスメント、発電所運営の支援など風力発電所建設に関するさまざまな業務を、総合力を活かし一社で担ってきました。
当社が行う風況シミュレーションでは、一般に認証取得に利用されるソフトに加えて、より詳細な風の乱れも再現できるソフトも利用しています。このソフトでは地形の起伏で生じる「地形性乱流」と呼ばれる風の渦のようものまで詳細に把握することができるので、例えば「想定する平均風速は高いが、この地点では風車が乱れた風を受ける頻度が高く、疲労が想像以上に蓄積される」といったことが予見でき、計画の信頼性を高めることにつながります。
また輸送を含めて設計・施工計画づくりにBIM/CIMを積極的に活用しているのも当社の取り組みの特徴です。BIM/CIMでは設計のデータを施工や運用でも共有し活かすことで、効率的で高度な生産や管理が実現します。風車のリプレースで大きな問題になる輸送についても、3次元モデルの道路上で輸送車両を試走させることができるので、どこがネックになるか、それをどう解決すればよいかということが直感的に分かるだけでなく、必要な土工量も自動的に算出できるという大きなメリットもあります。
陸上風力発電のリプレースは、確実に風車の大型化を伴います。そのため新たな風況解析や土木工事に関連する計画の立案や手続き、さらに輸送計画など、さまざまな要素をリンクさせながら、コストも含めて最適と思われる計画の検討と立案が求められます。ワンストップでこれらの検討ができるのは、社内にそれぞれの専門部署をもち、連携がとりやすい総合力を持つ当社ならではです。また、発注者である自治体や事業者側でも1社を窓口にして全体の検討が進むことから、業務の効率化を図りつつ最適解を得ることが可能になります。私たちは今後もこうした総合力を活かし、陸上風力発電の円滑なリプレースの実現に貢献していきます。