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浮体式洋上風力発電とは?

港湾整備との一体的な取り組みが事業化のポイント

2050年のカーボンニュートラル実現に向け、日本政府は2040年度のエネルギー構成に占める再生可能エネルギーの比率を4~5割程度と定めました。そこで、太陽光発電と並んで大きな役割を期待されているのが風力発電、なかでも浮体式と呼ばれる洋上風力発電です。2000年代初頭から風力発電分野でさまざまな実績を重ねているパシフィックコンサルタンツのプロジェクトマネジメント事業本部 プロジェクト統括部 風力発電推進プロジェクト室長の佐野健彦と、技術主任の藤島健英、交通基盤事業本部 構造部 耐震センター 技術課長補佐の岩波綾の3人に、浮体式洋上風力発電の現状と今後の見通しについて話を聞きました。

INDEX

過去10年で約10倍に拡大した洋上風力発電

風のエネルギーを電力に変える風力発電は、陸上・洋上のいずれにおいても高い変換効率で発電することが可能で、太陽光発電と異なり夜間でも稼働できる点が大きな特徴です。特に洋上は地形に左右される陸上に比べて安定した風が吹き、風車の大型化もしやすいことから、洋上風力発電は今後の再生可能エネルギー利用の切り札として期待され、世界でも急速に導入が進んでいます。

自然ネルギー財団の調査では、2024年における世界の洋上風力発電の総設備容量は83.2GW(1GWは、一般的な原子力発電所一基分の発電量に相当。)に達し、過去10年間でほぼ10倍、直近の3年間では毎年コンスタントにおよそ9GWが新設されています。

しかし欧州各国や中国に比べると、日本では導入の遅れが目立ちます。日本風力発電協会の調査では、現在稼働している洋上風力発電の設備容量は0.3GW、導入が決定し事業者公募などが行われている4.8GWを合わせても5.1GWにとどまります。そのため、さらに取り組みを強化し、2030年度までに5.7GWを稼働させ、2040年までに洋上風力全体で30~45GW(浮体式洋上風力発電については15GW以上)の案件形成を進めることが国の目標として掲げられています。

浮体式洋上風力発電とは

再生可能エネルギーの切り札とされながら、四方を海に囲まれ長い海岸線を持つ日本で洋上風力発電がなかなか進まない一因として、海岸の独特な地形があげられます。日本では多くの場所で海岸線近くまで山が迫り、急角度で海に沈み込んでいます。そのため海がすぐに深くなり、遠浅の海が広がるヨーロッパなどに比べて建設の適地が限られます。そこで期待が集まっているのが浮体式の洋上風力発電です。

洋上風力発電には大きく2種類があり、1つが着床式、もう1つが浮体式です。着床式は、海底に基礎を固定し、その上に風車を取り付けるもので、水深50mまでの海域で建設可能とされています。これに対して浮体式は、洋上の浮体構造物に風車を取り付け、それをアンカーやチェーンなどで係留して海底に固定する方法です。海底の地形に左右されず、また水深50mを超える海域でも設置が可能なため、日本のように海岸線近くに適地が少ない地域でも洋上風力発電を推進することができます。

国も従来、領海・内水※1のみを対象としていた「再エネ海域利用法」※2を2025年6月に改正し、排他的経済水域(EEZ)※3まで対象を広げました。EEZ内での洋上風力発電建設に関する許可制度を新たに創設して、事業化を後押しするのが狙いです。四方を海に囲まれた日本の領海とEEZの面積は世界第6位と広大で、EEZだけで国土面積の約11倍にあたる約405万㎢の広さがあります。この水域における洋上風力発電のポテンシャルは全体で542GW、つまり原子力発電所542基分に相当するという試算※4もあります。

日本のEEZは国土面積の約11倍
日本のEEZは国土面積の約11倍
出典:「日本の領海等概念図」(海上保安庁ホームページ)

※1 領海は陸地から外側へ12海里(約22km)までの海域。外国船は「無害通航権」が認められる。内水は領海よりさらに陸地側の水域で湾や入江、河口などの水域。
※2 正式名称は「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律」。洋上風力発電設備などを海域に設置するとき、国が「促進区域」を指定し、事業者の公募や最大30年の長期占用許可、漁業者との調整ルールなどを定めて事業が円滑に進められるようにする
※3 排他的経済水域(EEZ:Exclusive Economic Zone)は国連海洋法条約に基づき、沿岸国が天然資源の探査・開発・管理や海洋科学調査、海洋環境保護などに関する権利を持つ水域。領海基線から200海里(約370km)以内に設定される。他国の船舶の航行や上空飛行、パイプライン敷設などは禁止できない。
※4 年間風速8.0m/s以上、領海+EEZの接続水域で水深50m以上200m未満の海域を対象にした試算 「日本の洋上風力発電ポテンシャル」2023年11月(自然エネルギー財団)

浮体式洋上風力発電については、浮体の形状や係留の方法などから4種類が考案され、TLP型を除いてすでにヨーロッパを中心に実用化が始まっています。

洋上風力発電のさまざまな形式
洋上風力発電のさまざまな形式
出典:「昨今の我が国における洋上風力発電を取り巻く動き」(国土交通省)

浮体式の種類と特徴

形状特徴
パージ型浮体が平面形状で浮いている。比較的構造が単純でコストが抑えられるが、波、風の影響を受けやすい
TLP型緊張係留で半ば潜水させるもの。まだ実証段階
セミサブマーシブル(セミサブ)型パージ型の改良型。浮体のほとんどが潜水しているので波、風の影響を受けにくい
スパー型浮体が円筒状でほとんどが潜水している。浮体の重心が低いので安定させやすい

浮体式洋上風力発電の普及のための課題

洋上風力発電は、遠浅の海岸や偏西風、地震の少ないヨーロッパの地勢に適しており、同地域で先行して普及してきました。稼働中のものを含めて2027年時点で10.9GWが見込まれ、2030年にはヨーロッパ全体で111GW、2050年は同じく317GWの導入が計画されています。※5

※5 「洋上風力発電の動向2025」2025年9月(自然エネルギー財団)

ヨーロッパでは、風車やタワーなどの基幹部分を製造する産業が成熟し、部品のサプライチェーンも整ってきています。組立や施工についても現地企業が多くの経験を積みノウハウを蓄積しています。また近年は中国も取り組みを強化し、2024年の洋上風力発電の新規導入設備量では中国が4.0GWと世界の約半分を占めています。

しかし日本における再生可能エネルギー活用推進は太陽光が中心で、風力への取り組みは遅れてきました。特に洋上風力発電の稼働済み設備は0.3GWしかなく、電源構成に占める割合も陸上風力を含めてわずか1.1%にとどまっています。そのため大型風車の製造を行う国内メーカーが現れず、関連産業も十分に育っていません。大型風車は輸入に頼るしかなく、その海上輸送コストは莫大なものです。それは最終的な発電単価も引き上げることになり、事業の採算性を悪化させ、民間企業の参入意欲を損なうというマイナスの循環も現れています。

現在、日本における洋上風力発電、特に浮体式洋上風力の普及の課題としては、次のようなことが指摘されています。
・大型風車の製造を担う国内産業とサプライチェーンの育成
・浮体基礎や係留システムに関する技術開発の促進
・洋上風況をはじめとする波浪や潮流などの長期間・高高度の計測と解析
・海底地盤の調査船や重量物の運搬船、施工を担う作業船など船舶の開発と製造
・アッセンブリや格納、積み出しなどの機能を有する港湾の整備
・浮体基礎の種類別の海上施工シナリオの検討
・運転開始後のO&M(Operation(運用管理)とMaintenance(保守点検))に関する技術開発

こうした多くの課題があるなか、国は従来の「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」の下、新たに、「浮体式産業戦略検討会」を設置、2025年8月には「洋上風力産業ビジョン(第2次)」を取りまとめ、国内技術を活用して早急に産業育成を図り、国内・アジア市場で事業を推進していく必要性があることを明らかにしています。

また、アジア地域でも取り組みが計画されており、例えば台湾では今後10年間(2025~2034年)で新たに浮体式を含めた風力発電設備14GWの導入が計画され、韓国でも2030年までに、同じく20GWの導入を目標として掲げています。また、ベトナムやフィリピンでも2030年以降、本格的な導入が進むとみられており、アジア市場が拡大していくことは間違いありません。

パシフィックコンサルタンツにできること

パシフィックコンサルタンツでは、1999年の秋田港における風力発電導入可能性検討調査を皮切りに、適地選定や風況調査、海底地質調査、設計、環境アセスメント、基地港(改修)設計など、洋上風力発電に関わる多くの業務を実施してきました。特に風力発電の計画で最も重要になる風況の解析や基礎となるコンクリート構造物の設計については、独自の知見を基に多くの実績を上げています。また浮体式洋上風力についても、鉄筋コンクリート製浮体の海中での耐久性の検証や、浮体の挙動と発電能力の変化についても大学と連携した技術開発にも携わっています。

さらに、洋上風力発電の推進のためには、各港湾において大型化する風車をいかに効率的にアッセンブリするのかという検討が必要であり、それに見合ったエプロンの広さや強度の確保、地盤改良、建屋の適切な配置が欠かせません。 風車は、発電効率を高めるために年々大型化しており、それを支える浮体基礎も、例えばパージ型で使われるコンクリート製、高さ10~17m、一辺の長さ50mの四角形のものだと、総重量が約10,000tに上ります。これらの重量物を仮置きし、一定の加工を行い、組み立て、そして船積みする港湾には、これまでにない機能や強度が必要となり、その設計や改修ノウハウも求められます。

年々大きくなっている風車
年々大きくなっている風車
出典:「IEA(2019) Offshore Wind Outlook」及び「MHIヴェスタス提供資料」より(資源エネルギー庁)

パシフィックコンサルタンツでは、社内に風力発電の専門部署だけでなく、コンクリート構造物の耐震設計、港湾整備、インフラの事業性評価に関する専門部署や、地盤、環境、地域振興・創生などの各分野について、専門家を数多く擁しています。これらの総合力により、風況解析や環境アセスメントをはじめ、浮体式洋上風力発電の構想からその実現までをワンパッケージで担うことができます。この強みを最大限活かし、これからも浮体式洋上風力発電の推進にさらに貢献していきます。

佐野 健彦

SANO Takehiko

プロジェクトマネジメント事業本部
プロジェクト統括部 風力発電推進PJ 室長

2020年入社。BIM/CIMを活用した陸上風力発電所の造成設計、風車支持構造物の設計・解析、風況シミュレーション、洋上風力発電を対象としたコンクリート製浮体式支持構造物の設計および研究開発など多角的に取り組んでいる。これまでに、風力発電設備支持物構造設計指針・同解説2010(土木学会)やIEC61400-6の執筆など一貫して風力発電の業務に従事している。技術士(総合技術監理―建設―鋼構造及びコンクリート)、技術士(建設―鋼構造及びコンクリート)、技術士(建設―施工計画、施工設備及び積算)、1級土木施工管理技士、測量士、コンクリート診断士、コンクリート主任技士。

藤島 健英

FUJISHIMA Katsuhide

プロジェクトマネジメント事業本部
プロジェクト統括部 風力発電推進PJ 技術主任

2022年入社。主として洋上風力発電を対象としたコンクリート製浮体式支持構造物の設計および研究開発に取り組んでいる。これまでに、浮体式支持構造物の波浪中応答特性に関する論文を複数発表し、2023年には日本船舶海洋工学会奨励賞(乾賞)を受賞している。技術士補。

岩波 綾

IWANAMI Aya

交通基盤事業本部 構造部 耐震センター
技術課長補佐

2018年入社。道路橋の耐震補強設計を主軸としながら、河川、水道、地盤、原子力など、様々な分野の耐震設計業務に取り組んでいる。その経験を活かし、風車支持構造物の設計・解析業務に従事している。

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