全国でも屈指のおいしいお米の産地として知られる北海道蘭越町。豊かな自然に恵まれた美しい町だ。しかし地方の多くの市町村同様、人口減少と少子高齢化を背景に多くの課題に直面、加えて2050年カーボンニュートラル実現に向けた取り組みについても、早急な着手が求められていた。パシフィックコンサルタンツは蘭越町が経済産業省の「エネルギー構造高度化・転換理解促進事業」の活用を検討していたことに注目、もみ殻を使った固形燃料の開発や温泉排湯熱利用などへの取り組みを支援し、多くの成果を挙げた。北海道社会イノベーション事業部 地域・エネルギー室の雨嶋克憲が振り返る。
北海道蘭越町
蘭越町(らんこしちょう)は北海道の南西部に位置し、周囲をニセコ連峰などの山に囲まれた盆地にある。蘭越はアイヌ語の「ランコ・ウシ」が訛ったもので、桂の木の多い所という意味だ。町の中央を清流日本一に何度も輝いた尻別川が東西約30kmにわたって流れ、日本海に注ぐ。流域に広がる平坦地は肥沃で、ここで生産される蘭越米ゆめぴりかは「日本穀物検定協会」の食味ランキングで毎年最高ランクの「特A」を獲得し続け、2024年の米-1グランプリでは最優秀賞を獲得するなど、全国にその名を知られている。総面積:449.78㎢8(東京都品川区よりやや大)、総人口4,299人。(2050年の総人口推計:2,640人)2023年の町の歳出総額は約76億円だった。


INDEX
- エネルギーの地産地消へ
- 「エネ構事業が使える!」――前任地での経験を生かす
- もみ殻の燃料化と温泉排湯熱の利用を計画
- もみ殻燃料を農業生産に活用
- 排湯熱利用と太陽光発電へのチャレンジ
- 役場庁舎周辺の公共施設群をマイクログリッドでつなぐ
エネルギーの地産地消へ
2025年5月31日、蘭越町は2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロとする「ゼロカーボンシティ」を目指すことを宣言した。町としての強い決意の表明だったが、北海道庁は2020年に、また道内179市町村の大半も宣言済みで、決して早いほうではなかった。医療・介護の充実や子育て支援、産業の育成や雇用の確保、公共交通の維持や公共施設の補修など、町として優先的に取り組まなければならない課題は山積し、カーボンニュートラルへの取り組みは遅れがちだった。
もちろん町としても再生可能エネルギー(再エネ)導入に伴う関連産業の育成を通した経済の活性化や雇用の創出には期待がある。また、電気や化石燃料の購入で約6億円が域外に流出していることから、エネルギーの地産地消を進めてこの金額を少しでも圧縮できればという思いがあった。
問題は再エネ事業の詳細な計画づくりだ。蘭越町は経済産業省の補助事業である「エネルギー構造高度化・転換理解促進事業」(略称、エネ構事業)の利用を検討していたが、具体的に町内のどういう資源を使うのか、それを誰がどのような事業として組み立て、推進するのか。さらにそのための資金の確保と具体的なロードマップをどう描くのか――検討事項は多かった。そこで町は広く民間の知見を得るためにプロポーザルを実施した。2018年のことだ。その結果、パシフィックコンサルタンツの提案が評価され、施策の検討や実施を担うことになった。蘭越町としての本格的な取り組みの始まりだった。

「エネ構事業が使える!」――前任地での経験を生かす
2018年、雨嶋は北海道に着任したばかりだった。農学部出身で、もともとは植物の研究をしていた。難易度の高いことで知られる生物分類技能検定1級の持ち主でもある。入社後は東京で18年、大阪で7年、環境エネルギー分野の業務に就き、北海道に着任した。着任してすぐ、雨嶋は蘭越町がエネ構事業の利用を検討していることを耳にして、支援ができるのではないかと思った。
「この事業は原子力発電施設立地地域やその周辺地域における再エネを活用したまちづくりについて資金援助をするというものです。具体的には、再エネ促進のビジョン策定や発電設備などの導入支援、再エネを利用した地域振興への取り組みについて、原子力発電所の『立地地域』で上限5億円、『周辺地域』(原子力発電施設から半径30㎞の区域を含む市町村)で上限2億円の補助が行われます。泊原発の周辺地域に当たる蘭越町はその対象です。しかし、実際の制度利用にあたっては、具体的な計画策定はもちろん、多くの申請書類の用意やもろもろの手続きなど煩雑な業務が伴い、簡単ではありません。たまたま私は大阪本社勤務時代にこの制度の利用を支援した経験があったので、お役に立てるのではないかと思いました」
もみ殻の燃料化と温泉排湯熱の利用を計画
蘭越町が独自の再エネ利用として可能性を感じていたものは2つあった。1つは米どころならではの大量に発生するもみ殻、もう1つは域内に豊富に存在する温泉の熱だ。いずれも未利用だった。もみ殻にいたっては町内の米農家から年間2,000トンが発生していたが、農家はそれを廃棄物として費用をかけて処分していた。しかし、もみ殻は燃せば熱エネルギーを取り出すことができる。実際、全国の米作農家のなかには、燃料として有効活用し、処理費用の削減と燃料代の節約という一石二鳥の効果を上げているところもあった。蘭越町は適用が決まった「エネ構事業」を活用しながら、もみ殻の燃料化を目指して具体的な検討に入った。しかし間もなく、同じようにはできないことが明らかになった。
「すでに燃料化しているところの視察をしましたが、精米のシステムに違いがあることがわかりました。先行しているところでは地域に大規模な精米工場があり、そこで出る大量のもみ殻をその場に設けられた専用のボイラで燃料として使っていたのです。しかし蘭越町は農家それぞれが精米しているので、もみ殻は分散して発生します。利用のためには運搬して一箇所に集めなければなりません。もみ殻は軽いのですが体積はものすごく大きいので運搬は非効率です。しかも、その過程で汚れたり湿ったりしてしまう可能性があります。さらにもみ殻は一時期に集中して出るので、保存のための倉庫も必要になります。直接燃料化するには非常に高いハードルがあることがわかりました。そこでいったん固形燃料化するのがよいという結論になりました」
固形燃料化に向かって計画の具体化が進んだ。もみ殻を固形燃料にする技術はすでにあり、設備も開発されている。それを導入して実証実験を進めることにした。
「準備を経て実際に固形燃料化の実証実験を始めました。もみ殻をきれいな乾いた状態で機械に入れなければだめだとか、そのためにはどういう注意が必要かとか、2年間くらいの試行錯誤を経て、実用化に成功しました。ほぼ薪と同価格で販売できるものになり、もちろん固形燃料化するための費用はかかりますが、従来は処理費用をかけて処分していたものが商品化されて収入を生むものになったわけですから、その価値は非常に大きいものがありました」

しかももみ殻燃料は薪と同等の発熱量がありながら燃焼時間は2倍以上あった。薪に比べ灰として残る量が多いが、これは融雪剤や土壌改良材としての利用も可能だ。もみ殻燃料製造販売は町の新たな事業となり、販路拡大にも積極的に取り組んだ結果、町内だけでなく道内、さらには東京都内にまで購入先が確保できた。当初燃料化したもみ殻の量は32トンで発生量の約2%にすぎないが、事業化の可能性が十分にあることが明らかになり、生産と販路の拡大という次のステップが明確に見えてきた。
もみ殻燃料を農業生産に活用
また、もみ殻燃料の利用拡大を目指し、農業生産への活用も検討した。既存の町有の温室ハウスを活用し、もみ殻燃料専用ボイラでハウス内を加温、冬季に地場産農産物を生産・提供するという実証事業だ。
「もみ殻燃料で加温・栽培したトマトを、道の駅や町内外のスーパーで提供したほか、町内の学校給食にも提供しました。また、隣町のニセコリゾート地域のホテルや飲食店に提供して好評を得ることができました。もみ殻燃料を農業生産に役だてることができれば、地産地消の理想的なエネルギー循環になります。ただ、当初2年間の実証事業ではコスト面の問題が解決できず、直ちに実用化することはできませんでした。今後の工夫が必要ですが、もみ殻由来のエネルギーの創造は、蘭越米というブランド価値をさらに高めることにつながったのではないかと思います」
排湯熱利用と太陽光発電へのチャレンジ
もみ殻を使った再エネ推進と並んで、蘭越町では温泉排湯を活用した熱利用にも挑戦した。これは「エネ構事業」に加えて環境省の補助事業を活用したものだ。町営の温泉施設である「幽泉閣」は町内外から多くの人が訪れる人気施設だが、施設内の温水や暖房などに使う重油消費量が年間で約36万リットルと極めて多く、CO2排出量も町内の公共施設全体の約28%を占め、最大の排出源となっていた(2019年3月『蘭越町地域新エネルギー計画』より)。雨嶋は排湯熱の活用ができるはずだと思い、まず導入可能性調査を実施、さらに基本計画、基本設計につなげ実現への道筋を整えた。
「幽泉閣は300mほど離れたところから52℃くらいの温泉を引いた施設で源泉掛け流しです。豊富な排湯があるのですがほとんど捨てられていました。当時は再エネ利用促進を促す環境省の補助事業があったので、それを使ってまず詳細な可能性調査を行い、排湯を集めてその熱を取りだし、ヒートポンプでさらに高温にして館内の暖房やシャワーの加温、さらに駐車場の融雪に使うことを計画しました。2021年10月には設備関連の工事が終わり、新システムが稼働しましたが、重油の使用量は95%削減されています。ヒートポンプを動かすため新たに電気使用量が増えていますが、CO2排出量は28%の削減が実現しています。非常に大きな成果が得られたと思います」(数字は『広報らんこし』2024年8月号より)

さらに電力の使用量が増えたことへの対策として、それまで取り組んでいなかった太陽光発電の検討を始めた。積雪の影響を受けにくく地面に積もった雪の反射光も利用できる垂直型の設置でどれだけの発電量が得られるのか、駐車場にパネルを設置しデータを得るための実験を実施中だ。
役場庁舎周辺の公共施設群をマイクログリッドでつなぐ
さらに蘭越町が検討しているのが、再エネ電源や電力会社等を含む複数の発電設備、蓄電設備などから、自営線を使って公共施設群に電⼒を供給するマイクログリッドの構築だ。平常時は地域の再エネ電源や電力会社から電力供給を受けるが、非常時には再エネ電源から自立的に電力の供給を受けることができる。蘭越町で考えられているのは、役場庁舎を中心に太陽光発電をメインの再エネ電源として確保し、周辺に位置する公共施設群をマイクログリッドでカバーすることだ。通常時は電力会社からの電力供給を一括で受電して個別施設に配電、停電時には、太陽光発電と蓄電電池から同じ自営線ネットワークを使って各施設に配電するというものだ。現在基本計画を策定している。

もみ殻の固形燃料化とその活用・販売、幽泉閣の排湯熱利用の基本計画策定、さらに今取り組みを進めている役場庁舎周辺のマイクログリッド構築の計画策定など、着任以来、雨嶋は再エネ分野で蘭越町と連携してさまざまな事業を担ってきた。引き続き2050年のカーボンニュートラルに向けて提案を続けたいという。
「パシフィックコンサルタンツは再エネ利用に関する要素技術を豊富に持つと同時に、国のガイドラインづくりなどにも参画し、知見も積み重ねています。補助金をはじめとする国の支援策は各省庁単位でさまざまなものが打ち出されていますが、適用条件が複雑であったり、毎年内容が変更になったりすることから利用が難しいものもあります。私たちには多くの経験があり、また研究機関や有識者、関連する民間企業のネットワークももっています。これからも市町村に伴走して施策の立案や実現を支える力になっていきたいですね」と雨嶋。
自然豊かな北海道の地で、引き続きカーボンニュートラルの実現に貢献していく。
| 2018 | 蘭越町地域新エネルギービジョン改定/地産地消プロジェクト検討支援(検討委員会運営、町内協議会運営、視察調査実施) |
| 2019 | もみ殻燃料製造機導入(収集・運搬方法検討、冬季農産物栽培・販路確保方法検討委員会) 幽泉閣温泉排湯利活用検討(環境省事業) |
| 2020 | もみ殻燃料製造補助/冬季農産物栽培実証・販路確保検討委員会 幽泉閣ヒートポンプ導入基本計画 |
| 2021 | もみ殻燃料製造補助/町民説明会補助 幽泉閣ヒートポンプ導入基本計画(継続) |
| 2023 | 蘭越町地域新エネルギービジョン改定/もみ殻活用可能性調査 公共施設太陽光FS /庁舎マイクログリッドFS/木質バイオマスFS 検討委員会 |
| 2024 | 庁舎マイクログリッド基本計画/幽泉閣太陽光発電FS実証導入 |