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ペロブスカイト太陽電池の公共インフラへの導入

次世代型の太陽電池として注目を集めるペロブスカイトを解説

2025年2月、国は第7次エネルギー基本計画を閣議決定、「2040年度の電源構成に占める再エネの比率を4割から5割程度」とする目標を掲げました。その中心として期待されているのが太陽光発電です。特に開発が進むペロブスカイト太陽電池は非常に薄く、柔軟性に富むことから設置場所が一気に広がるものとして期待が集まっています。高市首相の所信表明においてもエネルギー安全保障としてペロブスカイト太陽電池をはじめとする国産エネルギーは重要であり、直ちに施策を具現化させていくと呼びかけており、既存の公共インフラへの太陽光パネルの導入検討を進めるパシフィックコンサルタンツ 国土基盤事業本部 流域構造部 再生可能エネルギー推進・開発室 室長の小森谷哲夫、交通基盤事業本部 設備エンジニアリング部 総合電気室の河合千里に話を聞きました。

INDEX

再エネの主要な役割を担う太陽光発電

2021年10月の第6次エネルギー基本計画の決定から3年余りを経て公表された第7次計画は、ロシアのウクライナ侵略や中東情勢の緊迫化による経済安全保障上の重要性の拡大、DXやGXの進展に伴う電力需要の増加見通しなどの変化を踏まえて、再生可能エネルギー(再エネ)を日本の主力電源として最大限導入することの必要性を強く打ち出したものとなりました。具体的には2040年度に再エネ比率を4~5割まで高めることを掲げています。2023年度実績が22.9%ですから約2倍の高い目標です。

なかでも特に期待されているのが太陽光発電です。他の再エネがいずれも大がかりな設備を必要とし、用地確保から設計・施工、試運転を経て発電を開始するまでに少なくとも数年から10年近くを必要とすること、加えてバイオマスは原料となる木材の調達や収集・運搬にかかるコスト問題、地熱は高い初期投資とリスク、開発場所の制約など、事業化に多くの課題が残るなか、太陽光発電は太陽光パネルの設置さえできれば事業着手から1年足らずで発電を始めることも可能であることから、第7次計画でも再エネの主力と位置づけられました。2040年度には再エネ由来の発電量の5割から6割、全発電量の3割を賄おうとしています。

2040年度におけるエネルギー需給の見通し(第7次エネルギー基本計画)

2023年度(速報値) 2040年度(見通し)
エネルギー自給率 15.2% 3~4割程度
発電電力量 9,854億kwh 1.1~1.2兆kwh程度
電源構成 再エネ 全体22.9%4~5割程度
(太陽光)9.8%23~29%程度
(風力)1.1%4~8%程度
(水力)7.6%8~10%程度
(地熱)0.3%1~2%程度
(バイオマス)4.1%5~6%程度
原子力8.5%2割程度
火力68.6%3~4割程度
最終エネルギー消費量 3.0億kl 2.6~2.7億kl程度
温室効果ガス削減割合(2013年度比) 22.9% 73%

注目を集めるペロブスカイト太陽電池

太陽光発電の中でも、今最も注目を集めているのがペロブスカイト太陽電池です。 ペロブスカイト太陽電池は、ヨウ素、鉛などの有機物によって構成されるペロブスカイト結晶構造を持つ物質(ペロブスカイト)を発電層とした次世代型の太陽電池で、現在主流のシリコン太陽電池に比べ、多くの優れた特長をもっています。例えば、発電パネルの厚みや重量は20分の1~30分の1程度です。しかも柔軟性に富み、曲面にも容易に追随することができます。

さらに、純国産の技術であること、主な原料であるヨウ素は日本国内で世界第2位の生産量があり安定的に確保できること、シリコンのような製造工程での高温(1,400℃以上)の処理が不要で電池への成形も塗布や印刷などにより比較的簡単であることなど多くのメリットがあります。

ペロブスカイト太陽電池であれば、工場や倉庫の屋根、旧耐震基準の建築物など耐荷重の不足から設置を見送ったところでも設置が可能になり、また曲面にも柔軟に追随するので体育館などのドーム状の屋根にも設置可能です。実際2025年に開催された大阪・関西万博のバス停のサークル状の屋根の一部には250mにわたってフィルム型ペロブスカイト太陽電池が搭載され、発電した電気を大型蓄電池に充電してバス停の夜間照明に使いました。自動車の屋根、ビルや住宅の窓や手すり、さらにIoT機器に貼り付けて電力源とすることも可能です。

重量のあるシリコン太陽電池は建物の強度を確保しながら屋根に載せるか、平地に頑丈な架台を設けてそこに角度を付けて並べるのが基本です。いずれにしても大がかりなものにならざるを得ず、普及にブレーキがかかっています。東京都や一部の自治体では大手ハウスメーカーを対象に新築住宅への設置が義務化されたものの、新築住宅着工戸数そのものの減少が予想されるなか、太陽光発電の普及拡大に大きなインパクトをもつことはできません。また、メガソーラー開発は、自然環境や景観の保護の観点から規制強化の動きがあり、さらに2023年5月に施行された新たな盛土規制法によって一定規模以上の盛土や切土が規制され事業化が難しくなっています。今後の太陽光発電の普及のためには、新たな設置場所の確保が不可欠であり、そのためには、次世代型のペロブスカイト太陽電池の普及が欠かせません。

ただし、ペロブスカイト太陽電池はまだ大量生産が行われていないことから製造コストが高くなることが想定され、また、耐久年数の延長、発電効率の向上など解決しなければならない課題があります。しかし基礎技術はすでに確立しており、先の課題解決の取り組みと並行して、次世代太陽電池ならではの新たな設置場所の検討が進められています。

期待される太陽電池のインフラへの導入

太陽光発電のさらなる拡大のため、国土交通省はインフラ空間への太陽光パネルの設置について積極的な取り組みを進めようとしています。『国土交通白書2024』でも「公的賃貸住宅、官庁施設や、道路、空港、港湾、鉄道・軌道施設、公園、ダム、下水道等のインフラ空間等を活用した太陽光発電等について、施設等の本来の機能を損なわないよう、また、周辺環境への負荷軽減にも配慮しつつ、可能な限りの導入拡大を推進する」ことを明らかにしています(第7章第1節)。

その中で私たちが有望視している場所の一つが遊水地などの堤防の法面です。南側を向く堤防法面は太陽光を受けやすい傾斜があります。また堤防の裏法面(水路側ではなく、道路や住宅のある側の法面)は手入れをしなければ背丈ほどに雑草が繁茂するようなこともあることから、一般的に年2回の除草が行われています。さらに、堤防は越水が始まると一気に決壊するリスクがあることから、国土交通省では、令和元年東日本台風を踏まえ、越水した場合でも決壊しにくく、堤防が決壊するまでの時間を少しでも長くするなどの減災効果を有する「粘り強い堤防」の技術開発に取り組んでいます。太陽光パネルの設置は、パネルを組み込んだコンクリートブロックで法面を覆うことになるので、パネル設置は堤防の強靱化にも貢献でき、一石二鳥の効果が期待できます。

しかも、遊水地の他、ダムや河川堤防の法面に加え、鉄道や道路、空港、浄水場等あらゆるインフラに法面があります。これらは、それぞれの制約条件がありますが、技術が確立できれば、太陽光パネルの新たな設置場所としての可能性はあるといえます。

ただし堤防法面への太陽光パネルの設置については、解決しなければならない大きな問題があります。それは電気事業法との関係です。発電用の太陽電池設備については電気事業法の適用を受けるため、取扱者以外が容易に接近できないように柵などを設け、施錠することが求められます。また、感電や漏電の危険性を排除するため太陽光パネル裏側のコネクター部分を溝に埋めて蓋をするといった工夫も必要です。しかし、太陽光パネルを設置した法面のすべてを柵で囲うのは現実的ではありません。それをどう解決するか、また、コンクリートと一体にした太陽光発電ブロックをどのような形状・仕様にするのかという細部の検討やガイドラインの策定も必要になります。

パシフィックコンサルタンツの取り組み―実証実験がスタート―

パシフィックコンサルタンツは太陽光発電の設置箇所の拡大が再エネ導入促進に欠かせないと考え、インフラ整備を担う立場から、さまざまな検討を進めてきました。道路や空港、港湾、浄水場などへの太陽光発電の導入をサポートするほか、遊水地堤防法面への太陽光パネルの設置などにも早くから関わり、ノウハウの蓄積を進めてきました。

また、2025年7月から、愛知県額田郡に整備中の菱池遊水地の堤防法面を使った太陽光発電設備設置の実証実験を開始しました。環境省の「水インフラの空間ポテンシャル活用型再エネ技術実証事業」として採択されたものです。

具体的には整備中の菱池遊水地の周囲堤の一部の法面を活用してペロブスカイト太陽電池、薄型及び従来型のシリコン太陽電池の3種類の太陽電池モジュールを埋め込んだ法面ブロック(太陽光発電ブロック)を設置し、実際に太陽光発電を行うものです。堤防と太陽光発電システムの維持管理方法をはじめ、雨水排水、天候による影響、防草効果、感電リスクの確認などを行い、堤防法面への太陽光発電設備の設置および発電を行う技術を開発するものです。

太陽光発電システム設置イメージ図
愛知県の菱池遊水地で実施中の太陽光発電システム設置イメージ図

実証実験を通して遊水地堤防での適用性が認められれば、河川、ダム、ため池等の法面への適用も考えられ、水インフラ空間での再エネ普及を大きく前進させることができます。 パシフィックコンサルタンツでは水インフラ施設での太陽光発電への再エネ導入手法を確立し、日本全国の堤防やダムの法面・貯水池水面など、さまざまな水インフラ施設へ適用範囲を広げることで、脱炭素社会の実現に貢献していきます。

小森谷 哲夫

KOMORIYA Tetsuo

国土基盤事業本部 流域構造部 再生可能エネルギー推進・開発室 室長

1999年入社。大阪本社河川課において、治水計画、氾濫解析等の河川に関わる計画検討業務に従事。2004年より河川部においてダムの調査・設計に従事しながら、2010年頃より水力発電や太陽光発電等の再生可能エネルギー調査・計画・設計に従事し、2023年より再生可能エネルギー推進・開発室を立上げ。現在、水インフラ施設を対象にペロブスカイト等の太陽光発電の適用に向けて実証事業や技術開発に取り組む。技術士(建設部門 電力土木、河川、砂防及び海岸・海洋)。

河合 千里

KAWAI Chisato

交通基盤事業本部 設備エンジニアリング部 総合機電室

2023年入社。設備エンジニアリング部にて、水インフラ施設の電気設備設計に従事。ダムの観測設備・警報設備設計、みなとカメラの設置検討、防災無線設計、排水機場の耐水化設計など幅広い業務に携わる。技術士補(建設部門)。

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