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再エネの最大導入・最大活用を支援

北海道・鹿追町で自営線ネットワークを構築

「環境のまち しかおい」を掲げ、エネルギーの地産地消に力を入れる北海道・鹿追町。従来のバイオガスプラントに加え、遊休地を活用した太陽光発電所を計画したが、再エネ由来の電気の受け皿をどう確保するかが課題となった。パシフィックコンサルタンツは自営線ネットワーク構築をはじめとする新たな熱と電気のエネルギーシステムを提案。再エネの最大導入・最大活用を支援した。業務を先頭で担った社会イノベーション事業本部 GX推進部の小野弘臣と、同エネルギー事業化支援室の山下大樹に話を聞いた。

INDEX

再エネ導入拡大のために乗り越えなければならなかったもの

鹿追町は北海道のほぼ中央にある

鹿追町は北海道のほぼ中央にある

鹿追町は北海道の中心に位置する大雪山国立公園の南麓、十勝平野の北西部に位置する。人口約5,000人、2,200世帯という小さなまちだが、盛んな酪農をベースに家畜ふん尿や生ゴミを活用した発電など、「バイオマスで町と人・環境にやさしい地域循環型のまちづくり」を進めている。すでに2基のバイオガスプラントが稼働中だ。町ではさらに再エネ活用を推進するため、役場のすぐそばにある町所有の広大な未利用遊休地に、太陽光発電所を建設することを考えた。元墓地であったことから有効活用策に苦慮していたが、太陽光発電所にすればエネルギーの地産地消をさらに前に進めることになり、「環境のまち しかおい」にふさわしい取り組みになる。

しかし、そこで大きな問題にぶつかった。土地が広いことから太陽光発電所としての規模は大きく、稼働中のバイオガスプラントからの発電に加えて再エネ由来の電気の供給が大きく拡大する。それに見合う活用先の確保が必要だった。

再エネ由来の電気は、ただ多く発電すれば良いというものではない。蓄電池に貯めるといっても限界があり、発電量に見合う需要先の確保が必要になる。既存の系統に流して売電するという考え方もあるが、鹿追町ではすでにFIT(固定価格買取制度)を利用して、バイオガスプラントの余剰電力を売電している。これ以上、再エネ由来の電気を既存の系統に流すことはできない。そういった制約のもとで、新たな太陽光発電由来の電気の活用先をいかに確保するか。それができなければ、土地はあっても太陽光発電所は建設できないということになる。その解決は、今後の地域資源循環型のまちづくりにとっても大きなテーマだった。

自営線による公共施設への電力供給を計画

「活用先をいかに開拓するか」――その検討にパシフィックコンサルタンツが加わった。2016年のことだ。検討をリードした小野が振り返る。

「未利用遊休地を使った太陽光発電は、敷地が広いのでかなりの発電量になります。しかしこれ以上系統には流せません。そこで私たちが提案したのが自営線でネットワークをつくり、多くの公共施設に電力供給するマイクログリッドの構築をベースにした計画でした」

千葉県睦沢町のマイクログリッドの基本計画を担当した山下が検討に加わり、構想を具体化していった。

「北海道の小規模な自治体に多いのですが、鹿追町でもさまざまな公共施設が同じエリア内に近接して設けられているので、ネットワーク化しやすいという特徴がありました」と山下。

「町役場はじめ国民健康保険病院、町民ホール、小学校、トリムセンター(保健福祉サービス拠点)、健康温水プールなど9施設を総延長約3km、自営柱44本でネットワーク化してまとまった需要をつくりだし、太陽光発電による最大約440kWの電力を供給することにしました。余剰発電電力が出る場合に備え、また災害時の停電に対応するために270kWhの蓄電池を設けることも併せて計画しています。ただし、フルに発電が行われると蓄電池に貯めてもなお余ります。太陽光発電の規模を縮小する案もありましたが、この遊休地はもともと墓地だったこともあり一部が残っても活用は難しいとみられました。また、蓄電池をさらに増やすことも選択肢のひとつでしたが、蓄電池は高価であり、鹿追町のような冬季にマイナス20℃にもなる寒冷地では特に特別仕様の高価格製品が必要で、台数を増やせば結果として電気料金が非常に高くなってしまいます。これも現実的ではありません。最大限発電し、それを最大限活用する、という基本方針を維持しながら、さらに活用先の検討を進めました」

それに有望な答えを見つけたのが小野だった。小野は建築と熱の専門家であり、これまでもユニークな地産地消エネルギープロジェクトを全国で手がけている。「できないとは言わない」のがモットーの技術者だ。

遊休地を利用した440kWの太陽光発電
遊休地を利用した440kWの太陽光発電

余剰電力を熱として貯めて有効活用する

最大導入・最大活用システム全体図

自営線ネットワークと電気・熱利用システムで構成する
再エネの最大導入・最大活用システム全体図
出典:『しかおい自営線ネットワーク』(北海道 鹿追町)

電気・熱活用システムの詳細

電気・熱活用システムの詳細(2台のヒートポンプを使い、
余剰電力で地中熱ヒートポンプを動かし、
蓄熱層の温水の加温に使う)
出典:『自営線ネットワーク等を活用した再生可能エネルギーの
最大導入・活用事業』令和3年03月19日(鹿追町)

小野のアイデアは「余剰の電気を熱にして貯める」というものだった。

「温水プールや入浴施設のあるトリムセンターには、化石燃料ボイラーで温水を供給していましたが、これを地中熱を利用するヒートポンプシステムに置き換えることにしました。ヒートポンプは2台を直列につなぎ、1台は地中熱を効率的に使って中低温の温水をつくり、2台目のヒートポンプが、その温水を熱源にして70℃くらいに昇温させたお湯を各施設に供給するという"電気・熱利用システム"です。太陽光発電の発電量が需要を上回るときは、まず蓄電池に貯めますが、それでも余る場合は、蓄熱槽の水の温度設定を通常の30℃から40℃に上げ、2台目の地中熱ヒートポンプを動かします。つまり余剰の電気を水の昇温に使い、プラス10℃分の熱として貯めるということです。40℃のお湯が熱源になれば1台目のヒートポンプはより少ないエネルギーで70℃の温水がつくれますから、効率的な運転が可能になり一石二鳥です」

温水を蓄熱槽として挟む2段式のヒートポンプのアイデアは、日本では珍しいものだった。2段昇温の考え方自体は新しいものではないが、それを自営線ネットワークに組み込み、蓄熱槽の昇温を太陽光発電で生まれる余剰の電気の活用先とするシステムは小野の提案から生まれた。

エネルギーマネジメントシステムで全体をコントロールする

小野のアイデアを活かすことで、再エネを組み込んだ自営線ネットワークシステムの基本はできた。しかし、実際の運用には緻密なコントロールが欠かせない。システムは太陽光発電によって供給される電気を効率的に使うものだが、自営線で結ぶ9施設のすべての電力需要を賄うものではない。もしそうするなら再エネによる発電量を大幅に拡大し、蓄電池の数も増やさなければならず、現実的ではない。仮に実現しても電気料金は何倍にも跳ね上がってしまう。系統からの受電は継続し、そこに再エネ由来の電気を組み込んでいくのが現実的であり、それをどう配分すればもっと効率的で経済的なのか、太陽光発電についてはその日の発電量が時間によってどう変化するかの予測も必要になる。その上で需要先の施設にどう配分し、余剰は蓄電池に蓄え、それでも余るなら蓄熱槽の設定温度を引き上げて、地中熱ヒートポンプの運転を始めるという緻密なマネジメントが欠かせない。

システムが考慮すべきパラメータは膨大で、それを適切なアルゴリズムのもとで管理するCEMS(Community Energy Management System)を構築することがシステムの運用の前提だった。それがなければ考案した電気・熱活用システムも絵に描いた餅に終わってしまう。この点については山下がアルゴリズムの基本を検討し提示、それに基づいて設計・施工会社によるシステム開発が行われた。

自営線ネットワークの稼働で年間約1,000万円の収入増に

2021年4月、構想から5年を経て、しかおい自営線ネットワークの供用が開始された。システムは順調に稼働、経済的な効果も出ている。まず電気の基本料金が大きく下がった。従来は9施設が個別に結んでいた電力会社との契約を自営線ネットワーク化とともに、1需要として一本化したことで、従来の9施設合計の契約電力759kWが1契約450kWとなり(2021年度実績)、基本料金だけで年間約700万円の削減効果が生まれた。これに太陽光発電による購入電力の削減効果が1,500万円、ボイラーのためのA重油購入削減効果が約470万円となり、合計で2,635万円の収入増となった。支出としては、維持費用や電気ヒートポンプの電力消費分、さらにシステムの管理のために雇用した電気主任技術者のための追加費用などで合計約1,586万円となり、差し引き約1,048万円の収入増となった。環境省からの補助金を除く出資額は1億1,350万円だったので、約10.8年で回収できる見込みだ。現在は自営線でつないだ各施設のZEB(Net Zero Energy Building)化を推進するなど、さらなる効率的な運用を目指し、パシフィックコンサルタンツが引き続きその取り組みを支援している※。

※ 出典:『環境のまち しかおい』地域課題解決と脱炭素の同時解決を目指して(鹿追町企画課 林大介)

経産省「北国の省エネ・新エネ大賞」で大賞を受賞

鹿追町の自営線ネットワーク関連プロジェクトは、「エネルギーを地産地消する自立型地域エネルギーシステムの優良事例」として2021年度の経済産業省北海道経済産業局の「北国の省エネ・新エネ大賞」で大賞を受賞した(代表事業者:鹿追町、共同事業者:パシフィックコンサルタンツ株式会社、アルス・ゼータ有限会社、伊藤組土建株式会社)。また、2024年度の「新エネ大賞(一般財団法人新エネルギー財団表彰)」において「新エネルギー財団会長賞」、太陽光発電協会のソーラーウィーク2023特別賞も受賞している。

プロジェクトを振り返って小野はこう語る。

「要素技術として新しいものがあったわけではありません。しかしそれらの技術を課題解決のためにどう組み合わせ、運用していくのかという点で、これまで日本国内に例のないものを考案し、実装することができました。誰もやっていないことに挑戦して、世の中にまだないものをつくりあげようとするのはパシフィックコンサルタンツならではだったと思います」

自営線ネットワークの構築やEMSの制御プログラムの基本計画などで事業を牽引した山下も「鹿追町の自営線ネットワークは規模が大きく、前例もなく、系統への影響が不明ということから、否定的な意見が多く出ました。それについて一つひとつ問題のないことを示しながら、粘り強く交渉を重ねたことが好結果につながったと思います。現在は、計画当時の"低炭素"から"脱炭素"へと社会情勢も変わり、系統制約については一定の受け入れが進むなど事業環境は変わっています。自営線ネットワークの構築は地域のエネルギー政策において有望な手法のひとつですが、どういうエネルギーシステムが最適であるかは自治体によって異なります。これからもその地域の課題解決に資する熱・電気システムを検討し、誰もやったことがないと立ち止まるのではなく、挑戦を続けていきたい」と語る。

地域特有の資源を活かした地産地消のエネルギーシステムの構築は、地域発の脱炭素の取り組みとして、また地域の産業創成として大きな期待が寄せられている。パシフィックコンサルタンツはその基本計画づくりや社会実装への支援をさらに強化していく方針だ。

小野 弘臣

ONO Hiroomi

社会イノベーション事業本部
GX推進部 技術部長

1992年入社。1997年に京都で開催されたCOP3を背景に、再生可能エネルギーを中心としたエネルギー分野への展開を開始。1998年に研究所内にエネルギー室を立ち上げ、2011年には環境エネルギー部を設立し初代部長を務めた。現在も、エネルギー分野の技術開発・技術支援に携わっている。技術士(建設部門)、一級建築士、設備設計一級建築士、CASBEE(建築)評価員。

山下 大樹

YAMASHITA Daiki

社会イノベーション事業本部
グリーン社会戦略部 エネルギー事業化支援室 室長

2016年入社。電力システム工学を専門とし、地域課題解決と脱炭素化の両方を推進する地域エネルギー事業化支援に従事。マイクログリッドや再生可能エネルギー電源などの計画・設計・事業化に多数の実績を持つ。近年は、空港分野、港湾分野等の様々な社会インフラの脱炭素化と、それに向けた課題解決に取組んでいる。博士(工学)。

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