1978年以来の成田空港の大規模な『更なる機能強化プロジェクト』。滑走路の新設や延伸は2028年度末の竣工を目指して工事が進められている。パシフィックコンサルタンツはこれまで10年以上に渡り、環境アセスメント調査を始め基盤・インフラ整備に関する調査・計画・設計など、多分野にわたる業務を担い、現在も航空部を中心に多くの技術分野から100名以上がプロジェクトチームに参画して取り組んでいる。チームを率いる統括プロジェクトマネージャーの永井清嗣、航空部の二又尚人、黒崎実布由、トンネル部の長井寛之、流域計画部の並木嘉男、道路部の坂田知己、地盤技術部の金子俊一朗に話を聞いた。
「成田空港の更なる機能強化」概要
2013年の国での検討において、成田空港と羽田空港を合わせた約75万回/年という処理能力は、2020年代前半には限界に達すると予想されていた。そのため成田空港については2015年から、国、千葉県、空港周辺9市町及び成田国際空港株式会社(NAA)からなる四者協議会で、既存滑走路の延長と滑走路の新設を中心とする空港機能強化について検討が進められ、2018年3月に最終合意。その後、2020年1月31日の国土交通大臣による航空法に基づく空港等変更許可を経て、現在、2028年度末(2029年3月31日)の供用を目指して工事が進んでいる。
• 事業目的: 成田空港の年間発着容量を50万回に拡大する
• 工事内容:B滑走路延伸(滑走路長2,500m ⇒3,500m)/C滑走路新設(滑走路長3,500m)/誘導路新設(7,471m)/空港敷地拡張1,099ha(現状1,198ha ⇒2,297ha)
INDEX
- 空港の新設に匹敵する巨大プロジェクト
- 多分野にわたる調査・計画・設計を一手に担う
- 用地造成や軟弱地盤改良計画を検討
- 東関東自動車道を滑走路下に通す
- 150万㎥分の調整池を整備
- プロジェクトチームの事務局機能を発揮した航空部
空港の新設に匹敵する巨大プロジェクト
「更なる機能強化プロジェクト」は、新たに3,500mのC滑走路を新設、B滑走路を1,000m延伸(3,500m化)する整備。現在のA滑走路4,000mと合わせて、国際線の大型ジェット機に対応できる長大な滑走路が3本揃う空港整備は、「日本の空の玄関口」の名にふさわしいものと言える。また、滑走路増強にあわせ、旅客ターミナルの再構築(ワンターミナル化)、国際貨物地区の再整備による航空物流機能の高度化、空港アクセスの改善などといった『新しい成田空港』構想がとりまとめられ、プロジェクト計画が鋭意進められている。これらプロジェクトは、敷地を現空港の2倍に拡張するプロジェクトであることから、事業規模は壮大なものとなっている。
さらに地元の千葉県では「空港を核として都市と田園が調和し、暮らしや産業の拠点として選ばれるエアポートシティ」の実現を目指すとして、成田国際空港株式会社(NAA)との間で「NRTデザインセンター」を設立し具体的な検討を始めた。成田空港の「更なる機能強化」は国と地域の未来をかけた壮大なプロジェクトとして進行している。
多分野にわたる調査・計画・設計を一手に担う
もともと空港建設は一つのまちづくりに等しいといわれる。現在の成田空港でも4万人が就労し、1日平均で12万人もの人が往来する。マスタープランに始まり計画・設計・施工にあたっては、環境影響調査はもとより、滑走路等の基本施設、旅客ターミナル施設、貨物ターミナル施設、鉄道・道路・駐車場施設、管制・航空保安施設、航空機格納・整備施設、燃料供給施設、商業施設など、さまざまな用途の建築や基盤・インフラ等の構造物が集まることから、多分野にわたる技術や知見が求められる。しかも今回の整備では、既存の高速道路や国道・県道、市町道の付替え、河川・用水路の付替え、それに伴う数多くのトンネルや橋梁等の整備など、さまざまな取り組みが並行して進められる。
パシフィックコンサルタンツで既に10年以上にわたってこのプロジェクトに関わり、現在、統括プロジェクトマネージャーとして先頭に立つ永井清嗣はこう語る。
「空港の大規模な拡張事業では総合・複合的な技術力が求められ、また国、地域自治体、公益事業者、地域住民等、多様なステークホルダーとの広範な協議・調整が欠かせません。その点、私たちは航空、道路、トンネル、鉄道、橋梁、河川、地質・地盤、建築・設備等の分野に加え、環境や脱炭素、デジタル技術など、幅広い技術分野の技術者を擁しており、社内で密に連携しながら業務を進めることができます。発注者であるNAAには、基盤・インフラに関する全ての計画・設計・事業監理において協力・支援していくことはもちろんのこと、当社を単一の窓口として多くの業務を効率的かつ効果的に管理・実施することで貢献できると思っています。こうした点を評価いただくことによって、長期にわたり多様な業務をパッケージ化して継続受注してきたことを自負しています」
実際、四者協議会(国交省、千葉県、周辺9市町、NAA)における検討が始まって以降、当社は多くの業務を受託。2018年3月に更なる機能強化が正式合意されて以降は、更なる機能強化に係る基本計画、基本設計・実施設計を担ってきている。現在は修正等実施設計の他、『新しい成田空港』構想に係る誘導路・エプロン等エアサイド基本計画・基本設計などを継続実施中である。

NAAの資料を基にパシフィックコンサルタンツで作成
用地造成や軟弱地盤改良計画を検討
部門横断のプロジェクトチームをスタートさせたパシフィックコンサルタンツでは、航空部が取りまとめ役となりながら、各技術部門から計画・設計の進捗に合わせて、専門技術者がチームに参画した。そのスタートで欠かせないのが地盤調査だった。計画地は広大で必要になるボーリング調査も10カ所、20カ所というオーダーではない。どこでボーリング調査を実施するか、位置の選定や実施スケジュールについて、各構造物の担当設計者との細かい調整が進んだ。地盤技術部の金子俊一朗が振り返る。
「道路や鉄道なら細い線形で地盤を見ればいいのですが、空港は滑走路や誘導路に加えてさまざまな建物があり、トンネルや道路もつくられます。広大な面をさまざまな視点から調査することが必要でした。しかし、ボーリング調査箇所を無制限に増やすわけにもいきません。地形や地質を見ながら、さらに上に整備する構造物との関係を考えながら地盤技術者として調査箇所を選定し、設計者の意見も聞きながら最終的に約200カ所の調査地点を設定しました」
しかも成田地区は有機質土が多い軟弱地盤で知られる。調査を踏まえてどのような方法で地盤改良を進めるのか、それも大きなテーマだった。「滑走路の延伸や新設を計画した区域も、自然のままの地形では起伏がありますから、土を切ったり盛ったりすることが必要になります。盛土部分は特に沈下の不安があるので、どのように地盤改良をするか、有識者を交えた検討委員会にて設計内容等について議論を重ね工法を検討しました」と金子。その内容は航空部へと受け渡され造成・舗装工事の設計に活かされた。


東関東自動車道を滑走路下に通す
B滑走路の延伸とC滑走路の新設は、現在運用中の高速道路「東関東自動車道」や成田市道、国道296号や県道、さらに多くの町道を横切ることになる。国家プロジェクトとはいえ、滑走路によって交通が寸断され、社会活動や住民生活に大きな影響が及ぶことは許されない。かといって、すべての道路を現状の線形のまま滑走路下などに通すことは非現実的だ。どの道路をトンネル化するか、どの道路をどこに付替え、あるいはどこに補償道路を通すか、詳細な検討が必要だった。道路部の坂田知己が語る。
「B滑走路の延伸区域内を走る東関東自動車道は1日約3万台が通行する高速自動車国道です。現状の線形のまま滑走路下を通る延長約430mのトンネルにすることになりました。現状の通行にできる限り影響が及ばないようにという視点から、トンネル工事中に使用する仮設の迂回道路も、現在の本線とまったく同じ規格で用意することになりました。臨時の迂回道路とはいえ設計には高い精度が要求され、また航空部が計画する滑走路延伸工事に合わせたトンネル工事との細かい調整も必要でした」


もちろん、滑走路下を通るトンネルに要求される性能は非常に高い。トンネル部の長井寛之が専門家としてプロジェクトチームに合流し道路部とともに検討に当たった。
「B滑走路下のトンネルに加え、C滑走路でも滑走路下をトンネルで横断する付替え道路を2本、通すことになりました。しかし、空港の滑走路下に空港整備車両用トンネルや共同溝ではなく、一般通行用の道路トンネルを何本も通すことは非常にまれです。滑走路は最大580トンの重量の航空機が、時速300キロ近いスピードで頻繁に離着陸を繰り返す走行路で、見た目は一般的な道路トンネルと変わりませんが、作用する荷重は大きく、要求性能も高い水準となります。滑走路舗装下の土被りを厚くすれば影響度は軽減されますが、それだけ道路線形が下がり、急勾配になってしまいます。走行性を確保しつつ、安全性・要求性能を満足する必要がありました。トンネルの部材厚を確保し、適正な鉄筋を配置すると同時に、トンネル下を地盤改良で強化する等の検討を重ね、滑走路下を可能な限り薄い土被りで通過するトンネルを設計しました」
また、B滑走路の延伸とぶつかる成田市道については滑走路の先端を迂回して反対側に回る補償道路を計画。C滑走路地区の町道については、新たに管理用道路や滑走路外周道路を整備し、その他の補償道路を含め住民生活への影響を最小限に抑えるようにした。「ルートの決定に当たっては、当然ながら県や各市・町にそれぞれ希望や意見があります。事業主のNAAとともに打ち合わせを重ねました。関係者全員の納得が得られるルートの選定は簡単ではありませんでしたが、技術的な難易度や工期・費用なども含めてあらゆる面から検討を重ね、最終的な道路計画を決定しました」と道路部の坂田は語る。
150万㎥分の調整池を整備
広大な面積に及ぶ空港機能の拡張は、雨水の排水についても周到な計画が求められる。流域計画部の並木嘉男がプロジェクトチームに加わり計画策定に当たった。
「広大な面積が舗装されるので、雨水が大量に流れ出します。周辺の2本の中小河川に流すことになりますが、流量を調節しなければ溢れてしまうので、いったん雨水を貯める調整池を空港内に設けることが必要でした」
しかし、それは簡単ではない。そもそもどれだけの雨水が流れ出すのか、また川に流せるのはどれだけか、それとの関係で、どのくらいの容量の調整池が必要なのか、詳細な計算が必要になる。ところが全体計画が進行中なので最終的な舗装面積や芝生の面積などが確定できない。また、周辺住民や農家の人たちに迷惑をかけないという観点から、河川管理者や地元市町とも調整が必要だった。並木は航空部と連携しながら調整を重ねて最終的な数字を把握し計画に反映させた。最終的にはB滑走路延伸地区では50年に一度の大雨に対応できるものとして20万㎥規模、C滑走路新設地区では同じく130万㎥規模の調整池が必要だと結論付けたが、ではそれを敷地内のどこに設けるのか、それも難題だった。
「新たに土を掘るのではなく自然地形の起伏をそのまま活かして低地に水が溜まるようにするのが基本です。空港の排水計画も踏まえ、地形を読み込み、いくつかに分けて設けることにして、さらに川までの水路も計画していきました。また、50年に一度の雨を上回る雨が降った場合も、空港内の造成形状を工夫して、可能な限り空港内で貯留できるようにしています」

プロジェクトチームの事務局機能を発揮した航空部
地盤、道路、トンネル、河川などの各担当者がプロジェクトチームに集まり、密接に連携しながらさまざまな業務を進めていった。それを取りまとめる役割が航空部だ。二又尚人が、航空部として担う造成・舗装の設計や空港場内の排水計画などを進めながら、並行して進む業務の全体に目を配った。
「どこか問題が起きているところはないか、発注者が困っているところはないか、全体に目を配りながら総合的に前に進めていくのが航空部の役割でした。規模が大きく、さまざまな計画・設計が同時に並行して進むといった難しい仕事ですが、この全体のマネジメントこそ、さまざまな業務を受託している当社の価値を発揮するポイントでもあり、やりがいも大きなものがありました」
同じ航空部で5年前よりこのプロジェクトに加わった黒崎実布由は、これから本格化する自身の業務へ意気込みを語った。
「私は『新しい成田空港』構想の新旅客ターミナル地区や新貨物地区整備についての構想当初からプロジェクトに加わっています。基盤となるインフラ整備について、いよいよ具体的な業務に入るところですが、発注者がこれからどういう空港にしたいと考えているのか、それについての議論にも加わってきたので、そこで得た知見も活かし、また自分自身もプロジェクト遂行とともに成長していきたいと思っています」
入社以来、航空分野で長く活躍し、2016年から成田空港プロジェクトに関わる永井はこう締めくくる。
「これだけの国家プロジェクトを一社で担えるのはパシフィックコンサルタンツしかないと思っています。さらに若い人たちにも加わってもらって、この経験をそれぞれの成長の機会にしてほしいと思います。次代の当社の担い手がここからたくさん育つことを期待しています」
―『更なる機能強化プロジェクト』いよいよ工事は本格化し、新たなステージを迎える。


永井 清嗣
NAGAI Kiyotsugu
PM事業本部 プロジェクト統括部 成田空港PJ
統括プロジェクトマネージャー
1979年入社。空港分野一筋40年超、空港適地選定調査を始め国内主要空港などの整備基本計画・基本設計・実施設計業務に従事。直近10年は成田空港プロジェクトの統括PMとして調査・計画・設計・事業監理等プロジェクト全体の統括管理・マネジメントを担う。技術士(建設―港湾及び空港、総合技術監理)、一級建築士。
二又 尚人
FUTAMATA Naoto
交通基盤事業本部 航空部 空港プロジェクト室 室長
2011年入社。入社以来、空港計画をはじめ空港の利活用業務等に従事。2016年より空港の基本施設の設計に取り組み、現在は成田プロジェクトの事務局を担いつつ、空港プロジェクトの空港の基本計画、基本設計、実施設計と幅広く担当。技術士(建設―港湾及び空港、総合技術監理)。
黒崎 実布由
KUROSAKI Mifuyu
交通基盤事業本部 航空部 航空計画室
2016年入社。入社以来、空港分野において、空港ターミナル地域や基本施設の計画検討、空港の機能分担や運用を踏まえた施設再編、空港BCPやレジリエンス強化に関する計画検討など、全国の空港を対象とした業務に従事。現在は成田空港プロジェクトにおいて、「新しい成田空港構想」の実現に向け、より良い空港となるよう提案を行いながら空港計画の検討を行っている。
長井 寛之
NAGAI Hiroyuki
交通基盤事業本部 トンネル部 都市トンネル室
2009年入社。主に都市トンネルの設計に従事。入社以来、道路関連の開削トンネル、シールドトンネルの設計に取り組み、近年はインドネシアの地下鉄プロジェクトや、国内の空港アクセス鉄道の設計にも参加している。現在は成田空港プロジェクトで機能補償を目的とした箱型函渠の設計を担う。技術士(総合技術管理部門―建設、建設―トンネル)。
並木 嘉男
NAMIKI Yoshio
国土基盤事業本部 流域計画部
地域治水計画室 シニアアドバイザー
1988年に入社。主に河川計画関連業務に従事。入社以来、都道府県が管理する中小河川の治水対策を中心に従事。特に、東京都管理の神田川、渋谷川などの区部中小河川の治水計画、調節池計画等を30数年担当してきた。治水計画の他、水理模型実験、河川施設の基本設計、河川環境検討、水防災計画等にも携わる。また、空港や道路などから河川への流出対策も担当してきた。河川計画や水理検討の観点から、まちづくり、空港、道路、鉄道整備関連の多数のプロジェクトにも関与している。技術士(建設―河川、砂防及び海岸)。
坂田 知己
SAKATA Tomoki
交通基盤事業本部 道路部 道路プロジェクト室 室長
2008年入社。主に道路計画・道路設計業務に従事。生まれ育った千葉県の道路に係わる仕事が好きで、北千葉道路や千葉北西連絡道路、成田空港の更なる機能強化事業に長年携わっている。技術士(建設―道路)。
金子 俊一朗
KANEKO Shunichiro
国土基盤事業本部 地盤技術部 地盤防災室
1997年入社。主に軟弱地盤を対象とした地盤解析ならびに対策工設計に従事。東北地方太平洋沖地震、熊本地震発災後数年間は復興事業に係る業務に取り組み、現在は成田空港プロジェクトの土質調査、地盤解析、地盤改良設計を担当。技術士(建設―土質及び基礎)。
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