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エリアマーケティングとは?

商圏分析の手法や事例、活用方法を解説

企業が展開するマーケティングや自治体が進めるサービスやまちづくり施策の立案に、商圏や地域特性の分析は欠かせません。さまざまなビッグデータも得られるようになり、その活用に注目が集まっていますが、どういう効果が得られるのかがわからない、という声も少なくありません。人流統計サービス『全国うごき統計』開発の中心メンバーの一人であるデジタルサービス事業本部 DX事業推進部の札本太一に、ビッグデータを使ったエリアマーケティングとは何か、何がわかり、どう活用できるのか聞きました。

INDEX

エリアマーケティングとは?

エリアマーケティングとは、利益や効果をより大きくするために地域や商圏特性の分析を踏まえて事業を検討していくことです。地域や商圏の特徴を見極めることで、ニーズに合ったサービスや商品を投入したり、プロモーションの内容や方法を検討し実行したり、事業の拡大を図ります。また、地域特性の分析は自治体が展開する施策の検討にも欠かせません。どのような住民サービスが必要なのか、地域振興やまちづくりをどう進めるのか、施策立案には地域の詳細な調査・分析が前提となります。

人口減少を背景に企業間の競争が激化し、また行政が進める施策についても財政的・人的な制約が拡大している中、必要とされるものを確実に提供するために、商圏や地域の分析はますます重要になっています。

エリアマーケティング実施のポイント

従来の商圏や地域特性の分析は、国勢調査や家計調査、住宅・土地統計調査などの統計調査を基に、対象となる施設から何㎞圏内に、どのくらいの年収の人が何人いるかということが基本です。そこに加えてより深く分析するといっても、学生が多いとか高齢者世帯数がどのくらいかとか、昼/夜間人口の差はどうかといった程度にとどまってしまう課題がありました。

しかし、これでは商圏や地域の実態は見えてきません。例えば仮に高所得の世帯が多く住んでいても、もしかしたら買い物はほとんどネットで済ませている地域かもしれません。また別の地域では、重たい水やお米などは、徒歩圏にある店ではなく、週末に車で少し離れた大型スーパーなどに行って買っている人が多いかもしれません。さらには、「座って通勤したい」/「特急に乗って早く通勤したいから」などの理由で、最寄り駅でない隣駅を使うという選択をしている人もいます。このように例えば、「出店検討をする駅の圏域」はそのまま商圏には重なりません。20年前なら人は同じ行動を取ったかもしれません。しかし今はECを始めさまざまなサービスがデジタル上でも提供され、交通手段も多様で一人ひとりのITリテラシーや判断基準の違いから行動が異なります。さらには、"タイパ(タイムパフォーマンス)"も重視される方々もいるため、必ずしも収入と行動が直結するとは言い切れません。そのため、昔ながらの『この圏内に年収いくらの人が何人いる』という静的な分析ではエリアの実態は掴めないと考えます。

地方活性化の鍵と期待されるインバウンドについても同じことが言えます。インバウンドで賑わう観光地では、さまざまなお土産品を揃えようとするかもしれませんが、荷物になるようなお土産品を旅行の初日や途中で買う人は少ないと考えられます。主には、最終日近くか空港です。実際、空港や空港近くのディスカウントショップで大量のお土産とともに大きなスーツケースも買い詰めて帰る、という旅行者が少なくありません。今、エリアマーケティングで見なければならないのは生活スタイルや旅の行程などの人の動きそのものです。

エリアマーケティングの手法と特徴

より緻密なエリアマーケティングのために人流の把握を目的にしたさまざまな人流ビッグデータが登場しています。スマートフォンのGPSを使った位置情報機能で収集したビッグデータに基づくものがよく知られていますが、他にも人流データを取得する手法に表のようなものがあります。

取得方法基地局GPSWi-Fiビーコンセンシング
対象 電源ONの携帯電話 GPS ONの
スマートフォン
Wi-Fi接続中の
スマートフォン
対象アプリ起動中の
スマートフォン
センシング機器を
通過する対象
データの
取得方法
基地局との交信履歴
衛星からの測位
Wi-Fiの接続
店舗設置のビーコン
カメラ画像やレーザー
カバー範囲
全国の人流を把握可能

地下や室内での
データ取得は困難

Wi-Fiアクセスポイント
範囲内

ビーコン設置店舗

カメラやレーザーの
射程範囲内
空間粒度
数十~数百メートル単位

数メートル単位

アクセスポイント単位
(数メートル)

数メートル単位

直接人を捉える
サンプル数
各キャリアの
端末数に準拠

GPS有効時のみ
データ取得

Wi-Fi接続時のみ
データ取得

アプリ起動中のみ
データ取得

射程圏内は
ほぼ全数カウント可
属性の取得
端末契約者情報等に
基づく

ユーザーの任意登録

ユーザーの任意登録

ユーザーの任意登録

AIによる顔認証等で判別

パシフィックコンサルタンツで作成。(仕様性能は個別のサービスにより異なる場合があります)

データの取得方法はさまざまですが、商圏や地域のような一定のエリアにおいて、多くのサンプルが取得でき、OD(Origin:出発地 - Destination:目的地)が把握しやすいこと、さらにより正確な属性情報が得られるという点で、基地局由来の人流ビッグデータを活用することが有益であるケースが多くあります。GPSは歩行経路などを的確にとらえるためには有益ですが、アプリが起動していないときなどはデータが取れないことがあるため、日々の変動が大きく商圏分析に影響する場合があります。しかし基地局の場合は電源さえ入っていればほとんどの場所で可能となり、基地局が変わるたびに移動が捕捉されるので途切れることがなく人の動きを把握することができます。また基地局データは端末の契約者情報に基づくので、属性がより正確に把握できます。

『全国うごき統計』でわかること

この基地局データを活用した人流統計データが『全国うごき統計』です。ソフトバンクの基地局位置情報(ビッグデータ)とパシフィックコンサルタンツの交通工学や位置情報分析のノウハウを活かして2社で共同開発したもので、2021年の「建設技術展2021関東」では注目技術賞 優秀賞を受賞しました。

『全国うごき統計』が人流統計データとして注目されている理由は2つあります。1つはサービスの提供社であるソフトバンクの基地局位置情報を使っている点です。もちろん個人が特定されないような匿名化や統計加工をした上で提供していますが、数千万台の携帯端末の位置情報を取得しています。もう1つは、パシフィックコンサルタンツがもっている位置情報分析のノウハウを投入している点です。このマッチングによって、どこからどこに移動したかだけではなく、その移動がどういう経路・交通手段であったか、ということが全国約1.2億人の行動を対象に高い精度で推定できるようになっています。もちろんデータは日別、平日休日別、天候別に整理したり、さらに細かく、性別や年代、居住地、時間帯などに分解したり、目的に合わせて活用することができます。

<滞在時間の変化や新たな回遊ルートが見えた>

「どこにどれだけの人がいるか」ではなく、「いつ誰がどのように動いたか」ということを高い解像度で動的に掴むことによって、誰がどこでどういうサービスを期待しているか、ということが浮かび上がってきます。

例えば、ある地方の中核都市近郊で若い女性に人気のテーマパークがオープンしました。その周辺には、もともとパワースポットとして女性に人気にある神社があり、また国内有数の水族館もありました。通常の分析では、新しいテーマパークにどれだけの入場者数があったか、その影響で神社や水族館の来場者数はどう変化したか、という"数"の比較が行われます。その結果、「対象の施設はライバル」と考えたり、「新たな集客イベントを考えよう」といったり、数だけの議論・検討になるわけです。しかし、実際の来場者数を見ると神社は2%減っただけで、水族館はむしろ15%増えていました。

この要因として、実は新たなテーマパークからの周遊が影響していることが人流ビッグデータでわかりました。このような"質"の分析により、よりエリア内の施設連携をする=対象の施設は味方となるような施策を考えることができます。また、大きく変わったのは滞在時間であるこということも、わかりました。新しいテーマパークは女性の約4割が3時間以上滞在しており、その関係で水族館は女性の1時間未満利用が約3割増えていたのです。ということは3時間に1回の大型なショータイムでは来場客の満足度を高めるのは難しいということです。その代わり1時間に1回の小規模なイベントを企画した方が満足度を高め、リピート客を増やすことにつながるかもしれません。

<混雑を避けながら独自のサービスを提供することも可能に>

大型イベントなどへの来場者の動態も人流統計データで新たに見えてくることがあります。例えば東京の隅田川花火大会は来場者数が100万人規模となる大イベントです。周辺の駅はどこも混雑して大変だろうと誰もが思います。そこで、最寄りの駅5駅と少し離れた2駅の人流の時間ごとの変化を見ました。すると会場に近い5駅では、確かに花火大会開催時間帯に普通の日の7倍にも及ぶ人が使っています。しかし、周辺の上野駅になると、距離は2㎞くらいしか離れていないにもかかわらず、最大でも170%増くらいで混雑はほとんどありませんでした。

イベントの実施による変化
イベントの実施による変化
※全国うごき統計を活用し、当社独自に分析

一般的な事業企画では、人が一番集まるところはどこかと探して、そこでパイの奪い合いをします。しかし、あえてそこから少し離れ、花火大会当日の独自のサービスメニューを出せば、駅周辺の大混雑を避けたいという人を呼び込むこができます。混雑の分散につながるので地域のためにもプラスです。

人流を見れば、新たな取り組み方が見つかり、また、イベント運営者の渋滞対策、交通規制の計画立案にも活かすことができます。誰がどう動くのかという属性別の"カスタマージャーニー"を把握することこそ新たなビジネスチャンスにつながります。

<災害時の避難指示がどのように実行されたかを検証>

人流データはイベントだけでなく防災にも活用できます。例えば避難指示に対して住民が、どのくらいの時間内にどういうルート使って避難したかとか、避難指示が継続しているにも関わらず、夜になると帰宅してしまった人々がどのくらい、いつ頃から発生したかといったことをエリアごとに振り返ることができます。人流データがあれば住民の避難を徹底するために何が必要かという施策の検討もできるのです。

パシフィックコンサルタンツだからできること

従来の商圏分析や地域特性の把握は「ある特定の場所にどのくらい人がいるか」というピンポイントの静的なデータにとどまっていました。しかし『全国うごき統計』を活用すれば「どの地域から出発して、どこを経由地とし、最終的にどのような地域に辿り着いたか」「どんな手段で、どういうルートで移動したか」ということが、全国1億2,000万人を対象に、さまざまな切り口で把握できます。この新たなデータの活用の方法は無限大と言えるほどです。私たちはこの今までにない人流ビッグデータをベースに多くの人と協働しながら、都市計画・開発などのまちづくりや災害対策、飲食店などの出店計画、観光地の活性化、自動運転バスなどの新たなモビリティサービス導入の支援などに活用し、社会課題の解決や産業の活性化に貢献していきます。

札本 太一

FUDAMOTO Taichi

デジタルサービス事業本部
デジタルサービス推進室 室長

2011年入社。幹線道路や大規模イベントにおける交通シミュレーションやさまざまなデータを活用した必要性・効果分析を中心に東日本大震災を契機とした避難シミュレーションや避難計画関連業務に従事。デジタルサービス事業本部に創設時から参画し、交通工学のノウハウやビッグデータ活用の経験を活かして、「全国うごき統計」をはじめとした各種デジタルサービスの戦略・開発・営業など多岐にわたり実施。さらには、サービスを活用した官民幅広く事業戦略に資するデータ活用に従事。技術士(建設部門)。

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