エリアマネジメントという言葉は決して新しいものではありません。国は今から20年近く前の2008年に、その取り組みの必要性を語っています。また、その前からも中心市街地活性化やタウンマネジメント、新たな地域管理の担い手のあり方等に関する検討を進めていました。そして今、地域が果たさなければならない役割はますます大きく、防災や脱炭素、生物多様性などの要素を包含した総合的な都市力の向上が求められています。現代のエリアマネジメントとはどのようなものなのか。さまざまな社会実験に取り組んでいるパシフィックコンサルタンツ ソリューションビジネス本部 ビジネスデザイン部 部長の田中大策とプロジェクトマネージャーの山本紗耶香に話を聞きました。
INDEX
エリアマネジメントとは
2008年、国土交通省は「エリアマネジメント推進マニュアル」を公表しました。そこではエリアマネジメントが「地域における良好な環境や地域の価値を維持・向上させるための、住民・事業主・地権者等による主体的な取り組み」と定義されています。具体的には「快適で魅力に富む環境の創出」「美しい街並みの形成」「資産価値の保全・増進」「人をひきつけるブランド力の形成や安全・安心な地域づくり」「良好なコミュニティの形成」などを実現することとされています。例として、建築協定を結んでつくられた広い歩道や豊かな植栽のある分譲住宅地、オフィス街に美しく整備された店舗などが紹介されるほか、賑わいをつくりだすためのイベント例なども示されていました。これが出発期のエリアマネジメントです。
多くの場合、取り組みを主導したのは、そのエリアの開発にあたった不動産デベロッパーでした。住民や地権者も参加していますが、取り組み内容の検討と決定、資金、人の出し手は主に不動産デベロッパーであり、その最大の目的はエリアの魅力向上を通した不動産価値の維持・向上にあったといえます。それまでになかったエリアとしての取り組みが、美しい景観だけでなく新たな賑わいやコミュニティ形成のきっかけとなったことは大きな成果ですが、開発事業者主導であったことから、効果は限定的だったとも考えられます。住民主導のものも試みられましたが、資金の確保や関係団体間の調整が難しく、やはり大きな取り組みにはなっていません。そこに新しいきっかけをもたらした一つが、国土交通省が2019年に始めたウォーカブルなまちづくりの施策です。
ウォーカブルの推進がまちを変える
ウォーカブルとは、歩行者を中心とする新たなまちづくりのコンセプトであり、その考え方に沿って設計されたまちのことです。従来の街路空間を、車中心のものから人中心の空間に変えることを目指すもので、具体的には、道路に接する沿道(敷地)と道路上を一体的に使って、人が集いさまざまな活動を繰り広げられる場へとつくりかえていきます。2020年には「まちなかウォーカブル推進事業」も始まりました。車中心から人中心の空間へと転換するための街路や公園、広場などを修復・利活用する自治体に対して、必要経費の半額を国が補助するというもので、現在も継続されています。また、通称「ほこみち」と呼ばれる歩行者利便増進道路制度も、同じく2020年から始まりました。指定を受けた道路では、歩道にベンチを置いたりキッチンカーで出店したりすることができるもので、歩くだけでなくそこにとどまることができます。
さらに、車中心から人中心へという転換は、道路空間だけでなく、駅前広場の考え方にも波及、渋谷駅周辺や品川駅西口、新宿駅西口などで、新たな駅前広場づくりが進んでいます。ウォーカブルであることが、まちづくりの重要な指標となり、対象も道路から広場へ、さらに河川や公共施設の空きスペースなどの公共空間へと大きく広がることで、従来のエリアマネジメントの考え方がさらに前に進むことになりました。
初期のエリアマネジメントは、景観や美観を整えたり、イベントを企画したりすることで賑わいをつくるものでした。しかしウォーカブルの考え方においては、道路空間をそれに連続する公共空間とも繋ぎながら、居心地の良いオープンスペースをつくり、人にとって魅力のある場所を新たに創造することです。道路が単なる移動のための空間であることを超え、そこに人が滞在することで新たな出会いや交流が生まれ、さらに事業機会も生まれるなど、インフラをマルチユース化することで、エリアの新たな価値創造につながり、アップグレードされたエリアマネジメントとして大きな注目を集めることになりました。
サステナブルエリアマネジメントへ
しかし、今まちに求められるのはウォーカビリティだけではありません。人が集い、新たな出会いや交流、ビジネスが生まれるまちは同時に、防災、脱炭素、環境共生、生物多様性といった持続可能性を持ったものであることが求められています。実際、国際社会ではこうした持続可能性を評価する認証制度も考案され、普及が進んでいます。その主流となって、現在、世界でもっとも利用されているのがLEED(リード)です。アメリアの非営利団体USGBC(U.S. Green Building Council)が開発、運用しているもので、環境に配慮した建物や都市の環境性能評価を行っています。 2025年12月時点で、世界で12万3,411件の認証が行われました※1。
このLEED認証は、その対象が建築物単体、インテリア、建物の運用・管理、開発や再開発、住宅などに分かれていますが、都市&コミュニティというカテゴリーも用意されています。そのまちが人々のクオリティ・オブ・ライフ(QOL:生活の質)向上にどれだけ資するか、自然生態系、エネルギー、水、廃棄物、交通といった項目について評価するもので、都市力を総合的に見る指標のひとつです。エリアマネジメントは今、都市力そのものを高め、人々のQOLに資するサステナブルエリアマネジメントへと大きく進化しています。
新たなエリアマネジメントを目指して始まった社会実験
新たな都市の未来を見つめたエリアマネジメントの試みとして、すでにさまざまな取り組みが行われています。パシフィックコンサルタンツもその一翼を担ってきました。
例えばPark Line推進協議会の設立とその活動です。この協議会はパシフィックコンサルタンツと大成建設が中心となって設立した「これからの公共インフラのあり方に関する研究会」の分科会として2020年12月に発足したもので(2024年に一般社団法人化※2)、2022年5月には、『公共空間マネジメント(滞留性向上)』に向け、"道路空間の広場化"社会実証を実施しました。
※2 将来の公共インフラのあり方、公共空間の新たな活用方策、及び民間マネジメントによる公共空間の質的転換など、「公共空間マネジメント」の観点から、社会課題、地域課題解決に資する中間支援組織。(会員企業)大成建設株式会社(共同代表)、パシフィックコンサルタンツ株式会社(共同代表)、株式会社JTB、株式会社みずほ銀行、大和リース株式会社、株式会社NTTアーバンソリューションズ総合研究所、NTT東日本株式会社、株式会社ドコモ・バイクシェア、株式会社博報堂、日本郵政不動産株式会社

これは横浜市の日本大通りの道路空間の広場化に取り組んだものです。横浜公園から横浜港郵便局前の車道空間の一部(全長75m)に100%リサイクル可能な人工芝を敷き、ウェルビーイングに資するさまざまなアクティビティを企画。道路上に居心地の良い空間をつくり、周辺の住民やまちを訪れた多くの人に新しい道路の活用を体験してもらったものです。この取り組みは大きな注目を集め、その後、第2弾として、千葉国道357号の千葉市役所前から千葉銀行前までの道路空間を使った社会実験につながり、人工芝を使った広場空間の創出に加え、Wi-Fi環境(Park Line実証エリア内)と給電ポートの整備などが新たな滞留性向上施策として導入されました。
その後もこのような社会実験を各地で進め、最近では、2025年5月23日、24日の2日間、横浜駅西口で「横浜駅中央西口駅前広場パーク化に関する社会実験 ヨコハマニシグチ OPEN PARK♯01 エキマエ」を実施しました。
この「ヨコハマニシグチOPEN PARK」は一般社団法人横浜西口エリアマネジメントが主催したもので、パシフィックコンサルタンツは企画・運営協力として参画。通常はタクシープールやバス乗り場となっている駅前スペースの一部に人工芝を敷き、ソファ、パラソルなどを配置、 キッチンカーやマルシェの出店、ストリートピアノやジャズライブなどを行い、新たな駅前広場の可能性を探りました。
道路ではなく駅前広場であったことから、鉄道、バス、タクシー、商業施設など関係者・利用者が多く、もちろん公共交通の結節点としての通常の機能を低下させることはできません。多くの関係機関との調整が必要であり、日頃から官民のさまざまな団体と連携しながら事業を進めているパシフィックコンサルタンツが関係機関の連携のハブとなって、この社会実験を支えました。

パシフィックコンサルタンツでは、社会実験によって得られたさまざま課題の検討を進めながら、国や自治体、住民団体や民間企業の力を集めて、これからも新たなエリアマネジメントの可能性を追求していきます。すでに2025年10月には民間企業を含むさまざまなパートナーと共に新たな社会価値創出を担う新組織として、ソリューションビジネス本部を発足させました。従来の建設コンサルタントの枠にとらわれず、戦略の立案から事業化の検討、さらに実行支援まで一気通貫で伴走し、社会性と事業性が両立する新たな価値の提供を目指しています。