2018.09.28
ミャンマー連邦共和国 幹線鉄道改修事業レポート
国土の南北を貫く幹線鉄道 日本の技術で改修に取り組む
REPORTER
国際事業本部 交通・開発プロジェクト部 交通・鉄道インフラ室 室長
浅尾 尚之
入社から国内の鉄道橋梁設計に十数年従事し、現在は海外プロジェクトに軸足をおく。本プロジェクトには事業調査計画段階から全案件にわたり携わってきており、日本とアジアを駆け巡る日々が続いている。
2016年10月に国際プロジェクト部(現:交通・開発プロジェクト部)に新設された交通・鉄道インフラ室の室長として、ベトナムやフィリピンなどアジア各国の土木インフラの調査・計画・設計に数多く従事してきました。
私自身は鉄道橋梁の設計が専門で、国内では東北・北海道・北陸・九州新幹線のプロジェクトにも数多く関わっています。鉄道インフラの設計技術は弊社が国内事業で培った貴重な財産であり、そのノウハウを今後は国際プロジェクトにも展開可能と考え、自ら手を挙げて海外事業に関わるようになりました。
ミャンマー鉄道プロジェクトには、12年に経済産業省が事業の可能性を検討するために実施したプレフィジビリティスタディ段階から参画し、その後のJICAが主導する運輸交通分野のマスタープラン策定、さらにこれらの調査結果を踏まえた、円借款契約によるヤンゴン〜マンダレー間の幹線鉄道詳細設計調査へと進んできました。私自身は(株)オリエンタルコンサルタンツグローバルへの出向時代も含めて、この関連事業の全案件にわたり携わってきています。
既に弊社は、本幹線鉄道のうち南工区にあたるヤンゴン〜タウングー間(約270km)について、共同事業体の一員として約240橋梁の詳細設計調査を完了しており、18年から本格化する同区間工事の全橋梁の施工監理業務も担当しています。
ヤンゴン〜マンダレー幹線鉄道は、ミャンマーの旧首都ヤンゴンから新首都ネピドーを経由し、同国第2の都市マンダレーまで、南北600km以上を結ぶ重要な運輸・交通インフラ。英領植民地時代に敷設され、第二次世界大戦後には日本の戦後補償による修復も数多く行われてきました。
この区間の橋梁の状態を私自身がインスペクションカーに乗り、ひとつひとつ調査しました。旧日本軍の爆撃の跡が残るような古いものから、架け替え等で比較的新しいものまで、さまざまなタイプの橋梁が混在していますが、橋台、橋脚などの下部工はほとんどがレンガ造のままの状態。ミャンマーも地震大国なので、耐震性を考慮して設計する必要があります。また、集中豪雨による浸水も多く、河川の浸食が深刻な箇所も多々あります。
本来であれば、すべての橋梁を新規に架け替え、今後100年以上は持たせたいところ。しかし、ミャンマー側の予算の制約もあり、部分的な修復・補強に留めなければならない橋梁があることも事実。エンジニアとして、ジレンマを感じることもしばしばです。
また、将来的に高速化を実現していくためには、急カーブの多い既存線路をなるべくスムーズに敷き直すことも必要になります。
インスペクションカーに乗って橋梁の状態をつぶさに調査
橋梁調査のため、線路をインスペクションカーで移動する。右から2番目が浅尾。
ミャンマー国鉄の職員とともに、鉄道橋の状況を歩き回って検査する。
エンジニアとしての視野を広げる刺激的な国際プロジェクト
国際プロジェクトでは日本の一般常識が通じないことが多々あります。例えば事業対象国に他国から輸入した鉄道レールが過剰にストックされていた場合、それを利用するよう相手国側から強く要望されるなど、想定外のことによく遭遇します。仮に材料や材質が不明なストックを使用し、問題が生じた場合には、日本側の責任になるため、それらを阻止する必要があります。その際、使うことができない理由を責任回避の立場から主張するだけではなく、定量的に証明する必要もあり、そのために多くの作業が生じたりします。
現地政府や事業者との協議・調整の際には、私たちが最前線に立って、資料作りやプレゼン対応を実施しています。
昨今の国際鉄道インフラ分野で日本が選ばれている理由は、ODAという枠組みの存在は大きいものの、諸外国からの日本企業や日本人エンジニアに対する厚い信頼、地震大国としての経験や知見を取り入れた設計技術、高度かつ統合的に確立された鉄道技術など、あらゆる技術の蓄積があるからです。その反面、国内仕様の設計技術があまりにも独自に精緻・高度化された面もあり、これらの設計基準をベースにしつつも、事業対象国の事情に合わせて最適化・簡略化していくなどの『現地化』の作業が、今後必須になると考えています。
国際プロジェクトへの従事はエンジニアとしての視野をさらに広げてくれます。今後も超大型プロジェクトがそこかしこにゴロゴロしており、挑戦のしがいがあります。日本にいるときはお客様の対応で残業になることもしばしばですが、海外ではほとんどの人が定時に仕事を終え、プライベートの時間をのんびりと楽しむという気風もあり、自分の働き方を見直す機会としても良い刺激になっています。
国際展開は、今後の弊社の存続・成長に不可欠です。私自身は後進たちの将来の『メシの種』を蒔く意味でも海外に関わるべきだと考えています。そして、「どうせやるなら、今を精一杯に頑張りながら大いに楽しむ」というのが私のモットーになっています。
レンガ造の橋台。下部工の状態が気になる時は、橋の下に降りて確認する。
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