SCROLL

社会を支える根を守る

持続可能な下水道事業に取り組むパシフィックコンサルタンツの挑戦

私たちの足元よりさらに下にある地下のインフラ施設のことを考えたことはあるでしょうか?
着実に老朽化が進みつつある下水道管路施設。早急に手を打たなければ下水道に起因した道路陥没事故の増加や機能不全による社会への悪影響が懸念されます。
建設の時代から本格的な維持管理の時代に移り変わる今、安全・安心な下水道事業を持続していくために、当社に何ができるのかを考えていきたいと思います。

下水道インフラが抱える課題

下水道施設は、老朽化による維持管理や更新費用の増大が見込まれる一方で、少子高齢化や人口減少に伴う人材・財源不足が予想されています。
また、下水道管路施設は、地下に埋設された施設であり劣化状況の把握が出来ないため、これまでは何か事象が発生(詰まりや陥没など)してから対応する"事後対応型"の維持管理が行われてきましたが、中でも布設してから30年を超える下水道管路の道路陥没の割合が顕著に増えることが明らかとなっており、住民の生命や社会活動に重大な影響を与え始めています。

このような背景のもと、国は平成28年度に『ストックマネジメント※1支援制度』を創設しました。
各自治体は、この制度に基づきストックマネジメント計画を策定・導入し、"予防保全型"の維持管理へ移行し始めています。ただし、これまでの事後対応型維持管理では点検・調査をほとんど実施していない状況であったため、ストックマネジメント計画の策定においては、机上のデータ(例えば、布設した年度や管路の大きさなど)をベースとした検討となってしまうことにより、計画時に想定された現状と実際の管路の現状との間に乖離が生じてしまうケースもありました。

よって、今後、実態に則した効率的かつ効果的なストックマネジメントを実践していくためには、予防保全型維持管理で蓄積し始めている点検や調査などのデータをいかに活用していくかが重要となってきます。
また、国としてもウォーターPPP※2で維持管理と更新の一体型マネジメントを推進する取組みを始めています。

そのような中、当社では効率的かつ効果的なストックマネジメントを実践すべく平成27年度から『下水管路施設の包括的民間委託※3』(以下、「包括委託」という)を自治体から受注し、限られた予算の範囲内でリスクの最適化(最小化)を目指すとともに実現可能な事業運営に取り組んでいます。
今回はその内容について紹介します。

図1 下水道インフラが抱える課題

全体最適化と見える化による効果的なストックマネジメントへの挑戦

1.「全体最適化」を目指した効果的な事業実施(点検と調査のベストミックス)を目指して

各自治体で策定されているストックマネジメント計画の内容は、各自治体の実情(予算や施設保有量、布設後の経過年数、職員の人員体制など)により様々です。
その中でも比較的多く見受けられる計画は、机上のデータを基にリスクが高い下水道管路(古い管路や口径が大きい管路、重要な道路に布設されている管路など)を選定し、優先順位を付けながら順次、詳細に調査を行っていく方法です。この際、調査により悪い状態の管路が見つかれば改築更新していく事になります。リスクが高いということは、壊れる可能性が高いということであり、壊れた際には周辺環境への影響も甚大になる可能性があるので非常に有効な計画と言えます。

ただし、ストックマネジメント支援制度が始まり7年が経過した今、机上でリスクが高いと想定された管路の詳細調査をしてみたものの、実際は健全な状態の管路が多く存在していることも分かってきており、必ずしも "古い=劣化が進行している" わけではなく、机上のデータと現場実態に乖離があるケースも少なからず出てきています。

一方で、布設されている環境や条件によっては新しい管路でも劣化が進行している事例も見つかっています。
このような状況の中で、これまで通り全ての管路を詳細調査していくと膨大な時間とコストが掛かってしまい非効率となる懸念があります。

当社は、このようなジレンマを効率的かつ効果的に解決していく手法を考え、ストックマネジメント計画の策定を通じて、持続可能な下水道事業を支援していくことを目指しています。

図2 ストックマネジメントの実施フロー

そこで、ひとつのイメージとして人間の体で考えてみます。
特に自覚症状がない場合、予防的に行っているのが、毎年の定期的な"健康診断"だと思います。健康診断は、低コストで定期的(頻繁)にからだ全体の状態を把握するのにとても有効な手段です。
当社が行っているストックマネジメント計画は、いわば『健康診断(全体最適化)』です。
目に見えずまだ顕在化していない状況の管路施設を、低コストでスピーディかつ頻繁に点検できる簡易的な方法(管口カメラ調査など)で区域全体の点検データを集め、分析・評価することで潜在的なリスクを効率的、網羅的に把握していくことを目指しています。

図3 全体最適化と部分最適化のイメージ

図4 地上からの簡易的な方法による点検風景(管口カメラ調査)

一方で、管口カメラ調査で悪い管路が見つかった場合やリスクが大きい管路については、詳細調査を実施し大きな事故を未然に防ぐようにすることも重要です。
いつまでも健康な体(下水道施設)を維持していくためには、限られた時間とお金の中で、『健康診断(全体最適化)』をしっかり続けていくとともに、必要に応じて『精密な検査(部分最適化)』をバランスよく実施していくことが非常に重要と考えます。

2024_sewer-comprehensive_05.jpg
図5 詳細カメラ調査 作業風景

そのための当社の取組みを以下に紹介します。

≪見えない施設≫の見える化などによるライフサイクルコスト(LCC)の最適化

前項の「全体最適化」を実現していくためには、区域全体でなるべく多くの点検・調査データを取得していき、地下に埋設され見えない下水管路施設を「見える化」していくことが重要です。
当社では静岡県富士市において平成27年度から、千葉県柏市においては平成30年度から包括委託を受託しており、その中で下水道管路施設の「見える化」を試行錯誤しながらLCCの最適化(最小化)を目指しています。

その手法の一部を紹介します。

①ハザードマップによる見える化
区域全体をメッシュ(例えば500m×500mメッシュ)で区切り、管路1スパン単位ではなく、メッシュ単位で面的に劣化状況を把握するようにしています。劣化の状況を色分けすることで、どのエリアで劣化が進行しているかを視覚的に判断することができます(この図をハザードマップと呼んでいます)。
例えば、右図のハザードマップで劣化が進行している割合の大きい赤色やオレンジ色のメッシュに対して詳細調査を行うような計画を立てることができます。

図6 健康診断結果(全身状況の見える化)とハザードマップ(全域状況の見える化)

②劣化予測(管路の期待寿命の算出)
蓄積した点検・調査データをもとに、上記のメッシュ単位で期待寿命※4を予測することができます。予測結果をもとに、今後必要となってくる投資金額も細かく可能となります。
下図は、分析・評価の結果を反映したシナリオパターンが、コンクリート管の標準耐用年数50年でリニューアルした場合に比べ、大きく投資金額を削減出来た一例(イメージ)を示しています。

図7 劣化予測(期待寿命)の見える化

③ライフサイクルコスト(LCC)の最小化
多くのデータを蓄積し、上記①②のような分析・評価することで将来的に投資していかなければいけない更新計画のシナリオパターンを柔軟に策定することが可能となります。
下図は、分析・評価の結果を反映したシナリオパターンが、コンクリート管の標準耐用年数50年でリニューアルした場合に比べ、大きく投資金額を削減出来た一例(イメージ)を示しています。

図8 LCCの見える化

④包括委託を活用したストックマネジメントの継続的なブラッシュアップ
ここまで当社が実施しているストックマネジメント計画の一部を紹介してきましたが、予防保全型維持管理の取り組みは始まったばかりであり、これからも各自治体の予算規模にあわせ継続的に点検・調査データなどを蓄積していく必要があります。
ストックマネジメント計画は一度策定したら終わりではなく、PDCAサイクルでブラッシュアップしていく必要があり、そのための手段を確立していくことも重要と考えられます。
その一つに「包括委託」が挙げられます。
国も管理と更新の一体的なマネジメントを行っていくことが重要と考え、ウォーターPPPをPPP/PFIアクションプラン(令和5年度改訂版)で推進しています。

2.DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進

昨今、様々な分野でDXを耳にします。当社でも積極的にDX化に取組んでいます。

これまでの下水道事業では、点検、調査、清掃、修繕など(以下、「維持管理」という)の業務はそれぞれ個別で発注されていたため、帳票のフォーマットがバラバラであり、紙での管理が一般的でした。
そのため、過去の膨大な維持管理情報の中から必要な情報を見つけることが困難で、せっかく蓄積したデータを活かせないという課題がありました。
そこで"活かせるデータ"の確実なデータベース化と維持管理の効率化のためのDXに取り組んでいます。

3.下水道管路施設の維持管理は地元企業が主役

持続可能な下水道事業を実現するためには、地元企業や人材が中心となり下水道施設の維持管理を支えていくことが非常に重要です。
地元企業は住民の方々のニーズ(苦情など)にすぐに対応し常に寄り添いながら支えてくれる、いわば町医者的役割を担っています。
当社は、健康診断やDXを活用した電子カルテの管理と効率的な情報共有で最適な方針を示す役目として地元企業を支え、しっかり連携しながら地域に寄り添った事業運営を実施しています。

図9 DXを活用した地域に寄り添った事業運営のイメージ

4.これまでとこれから

当社では静岡県富士市、千葉県柏市、大阪府吹田市、での包括委託のなかで、点検及び分析・評価の手法やストックマネジメントなどの実践的ノウハウを蓄積し、日々ブラッシュアップしています。
 この経験を活かし、令和5年度に柏市の包括委託において『見えない下水道管の見える化』で、社会に貢献した優れた取り組みが評価され、国土交通大臣賞「循環のみち下水道賞(循環のみち下水道賞/国交省HP:https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/content/001629190.pdf)」を受賞しました。

今後も、知見と実績、日進月歩の新技術を融合して、多様化・高度化するニーズにアプローチしていきます。
また、グループの強みであるインフラ分野のノウハウを活かし、下水道包括から拡大して道路包括や自治体新電力等を繋げ、業界の垣根を越えた連携や共創による「エリアマネジメント」の実現も目指していきたいと考えています。

これからも私たちは、持続可能で安全・安心な社会の実現を根から支えるパートナーとして貢献していきます。

  • ※1 ストックマネジメントとは、下水道施設全体の施設の状況を客観的に把握・評価し、将来的な施設の状態を予測しながら、計画的かつ効率的に管理すること
  • ※2 ウォーターPPPとは、水道、下水道、工業用水道において、コンセッション事業へ段階的に移行するための官民連携方式であり、管理と更新を一体的にマネジメントする方式。
  • ※3 包括的民間委託とは、これまで公共が主に担ってきた複数の維持管理業務を、民間事業者が創意工夫やノウハウの活用により効率的・効果的に 運営できるよう、複数の業務や施設を包括的に委託すること
  • ※4 期待寿命とは、標準条件下で実用上支障のない程度で使用できる期間

山下 雄一

Yamashita Yuuichi

パシフィックコンサルタンツ株式会社
サービスプロバイダー事業部
インフラPPP事業室

1992年 パシフィックコンサルタンツに入社し、横浜支社上下水道課に配属。その後、東京本社、九州支社に異動し2009年までの17年間は上下水道分野の実施設計(シールド工法など)や計画策定業務(雨水計画やビジョン策定など)に従事。2010年以降は、東京本社にて官民連携事業(PPP)に携わり、民間事業者側および公側支援業務の両者を経験。2015年(静岡県富士市)および2018年(千葉県柏市)に受託した下水道管路施設包括的民間委託を切っ掛けに、2018年から現職に異動し下水道施設のインフラ維持管理の最適化を目指し事業を遂行中。
【資格】
■技術士(総合技術監理部門、上下水道部門-上水道及び工業用水道、上下水道部門-下水道)
■認定アセットマネージャー国際資格

RELATED POSTS

実効性のある災害廃棄物処理計画策定のために

東日本大震災をきっかけに策定が義務づけられた「災害廃棄物処理計画」。市区町村の約80%、都道府県の100%で策定済みといわれていますが、処理計画をより実効性の高いものにするためには普段からの見直しが欠かせません。アップデートのポイントは何か、資源循環マネジメント部 地域環境整備室のチーフコンサルタントの上田淳也と同室の技師 野末浩佑に話を聞きました。

公的不動産(PRE)の戦略的利活用によるまちづくりへの展開

遊休公有地の利活用が地方公共団体の喫緊の課題となり、官民連携による取り組みも増えています。事業ビジョンをいかに定め、事業スキームをどう構築するのか、官民の連携を成功させるために何が重要なのか。社会イノベーション事業本部 総合プロジェクト部ソーシャルグッド創成室の小川徹にインタビューしました。

GX(グリーントランスフォーメーション)とは?

2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、GXへの取り組みが加速しています。その推進のために国や自治体、民間企業、そして市民はそれぞれ何をしていくべきなのか、取り組みの現状や課題はどこにあるのか、技師長兼 ESGサステナブルスマートシティ統括プロジェクトマネージャー 梶井公美子に話を聞きました。

Pacific Consultants Magazine

パシフィックコンサルタンツのプロジェクト等に関する最新情報をお届けするメールマガジンです。当社のインサイト、プロジェクト情報、インタビューや対談、最新トピックスなどの話題をタイムリーにお届けするため、定期的に配信しています。

ご入力情報はメールマガジン配信をはじめ、当社が提供する各種情報提供のご連絡などの利用目的のみに使用し、第三者に断りなく開示することはありません。
詳しくは当社個人情報保護方針をご覧ください。