事業紹介大本山永平寺の森

中山間地域の森林域における防災と環境保全

中山間地域の森林域における防災と環境保全

1.日本の森林の今

国土の約7割を占める森林と、日本人は古くから共に生きてきました。しかし今、森林の活用度は極めて低い状況になっています。特に、里山から奥山まで広く植林されたスギやヒノキなどの人工林は、放置され手入れが行われなくなった結果、クズなどの草が森林の外側を覆い、人が踏み込むことさえ拒絶するような景観をもたらしています。そして、このような森林は、近年問題となっているイノシシ、シカ(千葉県房総地域ではキョン)、クマ等の生息圏を人の生活圏に近づけ、獣害が発生する要因を形成している、といった指摘が専門家によりなされています。
人口が減少していくこれからの時代に、広大な森林と共生していくことは、私たちにとって大きな課題といえるでしょう。

2.「永平寺の森プロジェクト」への参加

2.「永平寺の森プロジェクト」への参加

それでは日本の国土にとって良い森林とはどのようなものなのでしょうか。近年、集中豪雨が大規模な土石流を発生させ、甚大な災害をもたらしています。弊社では、平成16年から、土石流を起こす表層崩壊が山のどのような斜面で発生するのか研究を始めました。
そのような取組みを続けていた平成22年の夏、森ビル株式会社からの紹介を経て、大本山永平寺より永平寺の森についての環境調査を依頼され、「永平寺の森プロジェクト」が始まりました。
永平寺は、約200人の修行僧の生活の場でもあり、永平寺伽藍を囲む森林は、かつて水や食物、建築物等を造るための木材、あるいは燃料を確保する重要な資源庫でした。しかし、永平寺の森との付き合い方は、往時とは大きく変わっています。「永平寺の森プロジェクト」では、“永平寺の森の環境を知ることから、将来を見据えた議論を行おう”という方針を立てて、取り組みを始めました。

3.大本山永平寺の取り組み

3.大本山永平寺の取り組み

曹洞宗大本山永平寺は、約770年前(1244年)に道元禅師が開山した禅寺です。福井県福井市街の南約10km、かつては越前中央山地北部の奥山であった森林に位置しています。
平成22年4月27日、強風により永平寺の景観の象徴である「五代杉」の幹が折れ、鐘楼堂と舎利殿の破損事故が発生しました。樹齢500年、樹高50mを越える巨大なスギが幹折れしたこの事故によって、永平寺の役寮の方々は、修行僧や訪れる参拝者らの安心・安全を確保することの重要性を強く認識しました。そこで、永平寺は、平成22年に「境内林保全委員会」と「永平寺の森実行委員会」を組織しました。境内に立ち並ぶ巨木スギの生育状況調査と保全方法を検討するとともに、伽藍と伽藍周辺の森の状況を把握する調査・解析(これを弊社が担当)を行い、将来へ継承するための議論を始めました。調査が進んだ平成25年の春には、「境内環境の整備」と「安心・安全の確保」、さらには「永平寺周辺の景観の整備」についても一体的に取組む必要性を認識し、「永平寺の森 実行委員会」を「禅の里 推進事業室」へと発展的に継承し、将来に向けた取組みを行なっています。

4.大本山永平寺 永平寺の森環境調査・解析業務」について

4.大本山永平寺 永平寺の森環境調査・解析業務」について

永平寺伽藍には、背後の森林から沢水が流れ込んでおり、水路を整備することによって沢水の利用と降雨時の排水に対応しています。過去には、小規模な斜面崩壊も発生しており、伽藍付近まで土砂が流れ込んだこともありました。平成16年の福井豪雨の時には、永平寺南側の尾根向こうにある足羽川流域で甚大な豪雨災害が発生しましたが、永平寺のある永平寺川流域の降水量は足羽川流域よりも少なく、災害は発生しませんでした。こうした背景も加わり、永平寺の伽藍と伽藍周辺の自然環境の状況を把握し、土砂災害の危険性などを解析する「大本山永平寺の森環境調査・解析業務」(以降、「本業務」という)を行いました。

5.取組みのご紹介資料

本業務の成果については、これまで3冊のパンフレットと永平寺の機関紙「傘松」への25回の連載を通して、曹洞宗の僧侶や檀信徒の皆様に紹介してきました。この度、大本山永平寺小林昌道監院老師のご好意から、弊社ホームページにこれらの資料を掲載し、多くの方々へ紹介できることになりました。

永平寺機関紙「傘松」

「傘松」では、大本山永平寺の檀信徒の方々に永平寺の森の特徴を知っていただくことを目的として、できるだけ平易な文章と写真、図を用いて調査・解析結果を解説しました。平成26年1月から2ヵ年にわたり全25回の連載を行い、永平寺の森の地形・地質・地下水、水循環、斜面の安全性、森の植物、スギの特徴、森の生きものについて記載しました。

「大本山永平寺の森保全事業」からの報告 永平寺の森 水と森と生きもの(1)~(25)

6.未来に向かって

永平寺の森は、道元禅師が永平寺を開山して以来、時代に応じた利用が行われて来ました。永平寺の古図を見ると、樹木は少ししか描かれておらず、木材等の資源として伐採されていたことが伺えます。しかし、今、永平寺の森に生育しているブナなどの大木の林齢はおよそ100年から150年程度。近代になってからは木材資源としての利用が少なく、伐採が行われてこなかったことが推察できます。さらに、昭和30年代以降の森林活用の低迷によって、永平寺の森でも森林の積極的な活用はほとんどなされず、樹木の高林齢化はさらに進んでいます。
ただ、修行の場である永平寺では、修行僧による森林の下草刈や森林組合との協働によるスギ林の枝打ちや間伐など、一定の管理は継続的に行われてきました。その取組みによって、緑の量は増えたものの、森林が荒廃し緑の質が大きく劣化することを防いできたと考えられます。
現在、永平寺の森では、風によると思われる幹折れや根返りが発生し、ある意味で自然の森林更新がなされているものの、倒木が残されたままの状態となっています。また、本来スギが生育する場所ではない尾根付近にまで植えられている斜面も多く、森の景観としてバランスを欠いた姿を見せています。それでも、今、何か大きな不都合が健在化しているわけではありません。未来に向けて永平寺の森の姿を想像したとき、どのような生態環境を繋いでいくのが良いのでしょうか。永平寺の森では、ゆっくりとした歩調で、未来に向けた議論が始まっています。

総合建設コンサルタントのパイオニアとして国内外で豊富な実績を持つ弊社が、
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