事業紹介土砂災害対策のための崩壊危険斜面の抽出

1. 毎年発生する土砂災害

近年、「ゲリラ豪雨」や「線状降水帯」といった気象用語がTVなどマスコミで頻繁に用いられています。豪雨がもたらす山地森林斜面の崩壊現象は、毎年繰り返し、日本のどこかで発生しています。斜面崩壊の規模が大きいときには、崩壊土砂や土石流による災害だけでなく、斜面の樹木が下方へ押し流され、流木となって河川の氾濫を引き起こし、災害規模が拡大する状況も見られます。平成29年の九州北部豪雨災害はまさにこのような災害であり、大量の流木の映像は、災害に強い森林をつくることの重要性を改めて認識させることになりました。

土石流の跡 写真中央奥に土石流の発生源となる表層崩壊があります。崩壊土砂が土石流となって流下する際に、スギ人工林は表層土層とともに根こそぎ削り取られました。
スギ人工林の風倒木 間伐遅れの樹齢40~50年ほどのスギ人工林で発生した風倒木です。豪雨に弱い森林は、強風にも強くありません。

2.パシフィックコンサルタンツの取組み

地区住民との現地調査 地域住民の山や森林の調査に専門家として同行し、支援します。
地区住民への調査結果の説明 自分達が住む地域の土砂災害の危険性について、共に調査を行うことで理解を深めます。

豪雨による土砂災害対策のために、パシフィックコンサルタンツでは、特に土石流の災害発生源となる表層崩壊危険斜面を抽出するとともに、崩壊が発生する危険性を相対的に把握する手法の開発を行っています。

また、自治体は、土砂災害の予防のために、「土砂災害警戒区域※1」や「土砂災害特別警戒区域※2」を「防災マップ」に表示しています。しかし、必ずしも発生源となる表層崩壊危険斜面が表示されているわけではなく、地域住民が土砂災害の危険性を認識するためには、表層崩壊危険斜面を防災マップに表示することが重要ではないかと考えています。さらに、そのような防災マップを活用して、地域住民が主体となり土砂災害の危険性の程度を理解し、豪雨時の警戒・避難に役立てる必要があると考えます。パシフィックコンサルタンツは、自治体と地域住民が取組む地区防災活動を支援します。

  • 土砂災害警戒区域
    急傾斜地の崩壊、土石流又は地すべりが発生した場合には住民等の生命又は身体に危害が生じるおそれがあると認められる土地の区域
  • 土砂災害特別警戒区域
    土砂災害警戒区域のうち、急傾斜地の崩壊等が発生した場合には建築物に損壊が生じ住民等の生命又は身体に著しい危害が生じるおそれがあると認められる土地の区域

3.表層崩壊危険斜面の抽出手法の開発

パシフィックコンサルタンツは、日本列島の山地が隆起し、地震や豪雨等により崩れ、侵食されることにより地形が形成されるという地形発達の基本的な考え方に基づき、数値標高モデル(DEM:Digital Elevation Model)を解析することで、現在の山地斜面の安定性を分析し、土石流の発生源となりうる表層崩壊の危険性がある斜面を抽出する手法を開発しています。
また、表層崩壊の危険性がある斜面を安定化させるためや、表層崩壊による崩壊土砂や土石流を抑止するために、森林の土砂災害防止機能が発揮される望ましい森林の姿や育成について検討しています。
以下、これまでにとりまとめてきた検討資料を紹介します。

平成22年に発足した有識者2名と民間5社からなる有志の研究会において、現地検討会を重ね、近年の降雨による斜面崩壊事例の分析と崩壊機構の検証を通じて、「崩壊しやすい緑斜面の抽出技術」や「防災機能に優れた緑斜面の再生技術」の研究を進め、その研究成果をとりまとめました。本資料は以下の構成となっています。特に、土石流を誘発する崩壊危険斜面の抽出方法や、樹木が植林されたときの苗木の根の状況と手入れ不足となっている不適切な森林管理とが災害に弱い森林を形成している状況について、本来の災害に強い森林の根の状況との比較から検討を行いました。

  1. はじめに
  2. 検討対象とする災害と崩壊の発生機構
  3. 崩れやすい生育基盤の検出方法
  4. 弱い森林の検出方法
  5. 災害に強い緑斜面の造成方法
  6. 美しい里山や道路景観の創出
  7. 自然に学ぶ
巻末
技術資料1.脆弱斜面の崩壊抑制方法
技術資料2.緑斜面における健全度評価の着眼点
あとがき
参考文献
研究会メンバー
表層崩壊で倒木したカラマツ 樹齢40~50年と思われるカラマツの倒木の根系は、密集した細い水平根が主体でした。カラマツの全ての倒木の根が同じ状態を示し、植林時の苗木の根の状態に原因がある可能性が考えられます。
風によるスギの倒木 表層土層の薄い斜面に植林された樹齢40~50年程度のスギです。やはり、どの倒木も細い水平根が主体となっており、植林時の苗木の根の状態に原因がある可能性が考えられます。

DEMを用い、山地斜面の傾斜と曲率(凹凸の程度)の組み合わせから、表層崩壊などで侵食が進んでいる急斜面を抽出します。次に、豪雨時には表層土層に一時的に高い地下水位が形成され、斜面下方への地下水の供給源になりうる尾根付近の平坦面や緩斜面(谷が形成されていない滑らかな斜面)を抽出します。そして、これら二つの地形面に挟まれた斜面を、まだ表層崩壊が発生しうる可能性があると判断し、「表層崩壊危険斜面」として抽出します。
過去5年の間に日本各地で発生した土砂災害事例に対し、本手法での表層崩壊発生箇所の抽出精度を検証しました。本リーフレットはその一例で、平成24年に長野県茅野市で発生した表層崩壊に対し、崩壊発生前のDEMを用いて表層崩壊危険斜面を抽出した結果です。簡易な現地踏査を組み合わせたところ、75%という高い抽出精度が得られました。この検討は、平成24年度砂防学会研究発表会にて発表しました。

パシフィックコンサルタンツで開発した表層崩壊危険斜面抽出技術を適用し、大本山永平寺の森を対象として検討した結果です。本リーフレットに示す手法の詳細な説明は、弊社ホームページの「『大本山永平寺の森保全事業」からの報告 永平寺の森 水と森と生きもの(1)~(25)』の下記4編に説明しています。

また、これら一連の調査・研究については、平成26年に行われた第7回土砂災害シンポジウム(公益社団法人土木学会西部支部)において「大本山永平寺の森における表層崩壊危険度と森林の生育状態」(PDF:6.7MB)として発表しました。主な発表内容は以下のとおりです。

DEM地形解析による危険斜面のランク付け
高度分散量と重み付き横断面平均傾斜という地形量を用いて、山地斜面の侵食状態を定量化し、相対的に侵食(表層崩壊)が発生するポテンシャルが高い斜面を抽出する手法を説明しています。
DEM地形解析による崩壊危険斜面の抽出
「地域特性を考慮した表層崩壊危険斜面抽出技術」の概念を図表で説明しています。
現地調査結果
上記二つの方法で抽出した、表層崩壊が発生する危険性があると考えられた永平寺伽藍裏の斜面で行ったボーリング地質調査、土層強度検査棒を用いた簡易貫入試験と高密度電気探査による表層土層厚調査、スギの根本に散水しながら高密度電気探査を繰り返す比抵抗モニター法によるスギ根系分布調査の結果を説明しています。
考察
永平寺の森で実施し把握したスギ胸高直径と樹齢の関係式を適用し、伽藍裏に生育するスギの巨木の樹齢が300年から380年程度であること、そのスギ根系はスギ人工林に見られるような浅い根系ではなく、直根が地下数メートルと深く生育する本来のスギ根系を有する可能性が高いことを把握するとともに、伽藍裏斜面には根系が大きく発達するケヤキの大木も多く生育していることなどから、スギやケヤキなど根系が発達する樹木によって表層土層の安定が図られてきたと考えられたことを説明しています。
ケヤキの根系の例 幹の直径が40cmほどのケヤキの根系です。実生から成長したと考えられるケヤキであり、太くてがっしりとした根が四方へ広がっている状況が分かります。このような根系のケヤキは、土砂をしっかりと掴むことができます。
ヒノキ人工林の根系の例 薄い表層土層に植林された幹直径が25cm程度のヒノキです。この林道付近は、細根しか発達していないヒノキが生育していました。このような根系のヒノキは、土砂をしっかりと掴むことが容易でないと考えられます。

長野県辰野町では、平成18年7月に発生した土砂災害で人的被害が発生したことなどから、地域住民が「農山村を災害から守る会」をつくり、土砂災害対策に取組んできました。この取組みの延長で、辰野町は弊社の表層崩壊危険斜面抽出手法を適用し、地区防災マップに土砂災害の発生源となる危険斜面を表示するとともに、地区住民と危険斜面の状態を調査するなどし、土砂災害が発生するメカニズムや豪雨時の警戒・避難などに対する意識啓発活動を行いました。本取組みについて、平成28年度応用地質学会研究発表会にて発表しています。

4.パシフィックコンサルタンツの今後の取組み

豪雨の規模は年々大きくなっているように感じられます。これまで意識されてこなかった東北や北海道においても、近年は豪雨による土砂災害が発生しています。林業の衰退や所有者不明森林の増加、中山間地域の高齢化と人口減少など社会環境の変化は、土砂災害被害の増大とも関連していると見られます。パシフィックコンサルタンツは、表層崩壊危険斜面の抽出手法の精度をさらに高めるとともに、深層崩壊危険斜面の調査技術や流木発生源対策、災害に強い森林を育成する技術の高度化に取組むとともに、住民の防災意識を高めるための取組みを進めてまいります。

鳥取県智頭町の芦津渓谷の森林 紅葉後の落葉した広葉樹の間にスギやヒノキの常緑針葉樹が程よい間隔で生育しています。これらの樹木は種から生育しており、表層土層をしっかりと掴む根系が発達していると考えられます。

総合建設コンサルタントのパイオニアとして国内外で豊富な実績を持つ弊社が、
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