2002

首都圏外郭放水路計画

2002年 首都圏外郭放水路計画

ギネス級規模の洪水防止施設を地下50mに建設せよ

浸水被害から地域を救え!

磐石に思われる都市機能も、自然の猛威の前では無力となることは少なくありません。特に雨の多い日本では、集中豪雨による浸水被害が深い爪痕を残しています。たとえば、東京都心から北へおよそ30km、埼玉県南東部の春日部市周辺。標高20~30mほどの低地で、水が溜まりやすい地形です。三つの河川が狭い地域を流れ、ひとたび大雨が降ればそれが氾濫。溢れた水がなかなか引かないという問題を抱え、過去20年間で5回も大きな浸水被害を被っています。

国道16号線の下に、長さ6.3kmの人工河川を

この地域を浸水被害から守るために、一つのプロジェクトが立ち上がります。河川の洪水を地下トンネルに取り込み、江戸川に排水することによって浸水被害を軽減しようという事業です。名づけて『首都圏外郭放水路計画』。「春日部市の国道16号線の直下50mの地底に、長さ約6.3kmの河川をつくる」という、世界最大規模の洪水防止施設の建設です。
この長大な地下放水路の計画を担当したのがパシフィックコンサルタンツでした。1993年にスタートしたこのプロジェクトで、放水路の地下トンネル区間をはじめ、全体構想から水理解析、構造物や施設の計画設計、そして完成後の騒音・振動・水質のモニタリング調査まで、ほぼすべてに渡って専門性を駆使。2002年にその稼動を実現させました。

判断ミスが多くの人々の安全を脅かすという責任感

この作業に携わったのは、パシフィックコンサルタンツの看板セクションの一つである河川部。「計画は5名のチームが3年かけて作成しました。計画を誤ると、違う場所が氾濫しかねません。私たちの判断には多くの人々の安全がかかっています。放水ルートをいくつも考案し、経済効果も考慮しながら比較検討を重ね、最終的プランを練り上げていきました」という担当者の言葉に、その責任の重さが伺えます。
地下トンネルから流れ込む水の勢いを調整する調圧水槽は、長さ177m、幅78m、高さ25mという広さ。スペースシャトルや自由の女神がそのまま格納できるサイズで、59本の巨大なコンクリート柱が林立しています。通常時は水がなく空洞状態で、巨大水槽の空間に太い柱が立ち並ぶ姿は荘厳なイメージに包まれ、あたかも地下神殿のよう。その素晴らしさのため、テレビの特撮番組やCM、映画などの撮影にも使用されています。

プラス1

その時、時代は!

首都圏外郭放水路の巨大な地下施設の工事には、最新のシールド工法が採用された。まず密閉型シールド機を使い、切り羽に泥水を供給、加圧しながらトンネルを掘削。背後ではセグメントを円環状に組み立ててトンネルを構築する。それらすべてが自動化されて進行した。シールド機で掘削した土砂のうち、それまで産業廃棄物とされてきた建設汚泥は、この工事で全国で初めて再生利用認定制度の認定を受け、江戸川の高規格堤防の盛り土工事に活用された。
この水路が威力を発揮したのは、2004年10月19日。強大な台風22号が関東を直撃したが、航空機用に開発された1万3000kwのガスタービンを改造したポンプ設備は、日露戦争時の日本海海戦で活躍した戦艦三笠のエンジンに匹敵する大出力で水を放水。地域を浸水災害から救った。